初期アイデア思考順番は着想により変わる【初期アイデア創出ステージ】

初期アイデア創出ステージでは、検証可能な「顧客・課題・ソリューション・ビジネスモデル・単価・顧客数」を同時に考えると言われても、何からどう手をつけて良いかわからないかもしれません。厳密にいえば全要素同時検討ではなく、クイックに順番に検討します。

初期アイデアの着想起点やきっかけ別の、典型的な検討の進め方パターンを紹介します。会社の新規事業の初期アイデアきっかけは、おおよそ次の5パターンに大別されます。
 1市場や顧客課題起点
 2研究開発資産や技術力起点
 3経営陣の思いつき起点
 4社内に眠る過去の事業案起点
 5自社の課題起点

1市場や顧客課題起点

具体的な顧客ニーズや困りごとや、業界の不合理への憤りなどが着想のきっかけになる場合です。強力な顧客基盤の活用を前提とする場合もこのパターンです。
新規事業がうまくいかない原因は山ほどありますが、最大の原因の1つは「架空の顧客・問題に取り組んだ結果、誰も欲しがらないものを作ってしまう」こと。市場や顧客課題起点で検討するメリットは、顧客課題にフォーカスして新規事業開発を進めやすく、この問題に引っかからずに済みやすいことです。いかなる新規事業であれ、お金を払うのは顧客です。

新規事業の初期アイデア肉付けのために、よく使われるのが「リーンキャンバス」で、9つの要素から事業プランを整理するフレームワークです。リーンキャンバスの9つの要素は、何が着想の起点になるかによって、検討優先順位が変わります。

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市場や顧客課題起点の場合、①まず顧客セグメントと問題を明確にします。「誰の、どういう問題に」取り組むかが、最も重要です。
例えば「シニア層の転職しづらさ」に着目する際、転職希望する個人側の課題と、雇用する企業側の課題は異なります。個人の中でも、大企業の管理職経験者と、サービス業従事者とでは課題は異なるでしょう。次に、その問題に対する既存の解決手段を調べます。
日本のような成熟社会では、何かの問題に対して、何かしらの解決策が存在することがほとんどです。②既存の解決手段を把握し、それでは不十分な点を捉えます。値段が高くて利用できないかもしれませんし、都市部のみで提供されているかもしれません。「ただ我慢している」ことが、既存の対応策の場合もあります。
③顧客課題の解決策は、自社の強みを活かすことで、圧倒的に良いソリューションが提供できるのが理想です。④そのソリューションの課金モデルや単価、顧客数をざっくり計算して、大まかな収支のイメージを捉えます。

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2研究開発資産や技術力起点

自社の研究資産の商用化や、圧倒的に優位性ある技術の別領域への活用を模索するような新規事業です。
このパターンの良さは、事業の強みの根幹となる研究資産や技術コアは社内にあるため、事業の具現化がしやすいことです。また、事業立ち上げができれば、その後の優位性の構築や継続的な事業成長させやすい良さもあります。反面、自社技術ありきのプロダクトアウトになる可能性が高く、自社技術が競争優位に繋がらないとわかった場合に困難に直面することになります。顧客や課題の模索難易度が高く、初期アイデア創出ステージから時間がかかる傾向にあります。

研究開発資産起点の場合も「リーンキャンバス」のフレームワークは有効です。①まず自社研究資産や技術が、どのような独自性を持つか客観的かつ正確に把握します。そしてどの領域の何に対して、既存技術と比べて圧倒的な効果や成果を創出できるか仮説立てます。
次に、②その独自技術が役立つ可能性のある顧客セグメントと抱える問題、その問題の既存の解決手段を調べます。このパターンにおいて、この作業が最も重要です。技術起点の新規事業で最も発生しやすい失敗は「架空の顧客・問題に取り組んだ結果、誰も欲しがらないものを作ってしまう」こと。この失敗に陥らないようにしなければなりません。
顧客や課題の探索を1週間程度で行うことは難しく、初期アイデア創出ステージから時間がかかる傾向にあり、探索を続けても顧客や課題を見出せない可能性もあります。
顧客と課題を定めたら、自社研究資産や技術用いることで、③既存より圧倒的に良いソリューションを提供できるか検討します。既存の解決手段よりも圧倒的に優れたソリューションを提供できなければ、いかなる研究資産も新規事業開発においては意味をなしません。

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3経営陣の思いつき起点

経営陣や新規事業担当部長から新規事業アイデアを突然言われることが、きっかけになるパターンです。経営陣が社長の集まりで上手くいってる他社の話を聞いてきた、部長がはやりの言葉に飛びついたなど、大した根拠がない場合もあれば、熟慮の末の場合もあります。
このパターンの良さは、経営陣や意思決定層の合意を得られやすいことです。新規事業アイデアがある種の制約となり、検討範囲を狭められるのもメリットです。一方で難しさは、新規事業リーダーの力量がないとなんら事業化できないこと。新規事業リーダーの能力が問われます。

経営陣の思いつき起点の場合、リーンキャンパスを使う前に2つ行うべきことがあります。
まず、思いついた役員に、その事業アイデアを思いついた背景や理由を時系列でヒアリングします。ヒアリングでは言葉尻を聞くのではなく、役員の思考の本質を捉えます。例えば「ビッグデータ活用した新事業が必要」という発言に対して、ヒアリングしてみたら「これまでの間接販売だけでなく、今後は顧客との直接接点を持ち、直接の中長期関係性構築が重要」と考えているかもしれません。前者と後者では、新事業アイデアは大きく変わります。
次に行うことは、役員の考えを具現化したような他業界や海外サービス情報を調べ、自社・自業界に当てはめて考えます。他業界で成立している事業内容を拝借し、アナロジー的に考えて、初期アイデアのタネを構築します。
その後は「1市場や顧客課題起点」と同じです。初期アイデアのタネの顧客と課題を捉え、既存の解決手段を調べ、それより圧倒的に良いソリューションを検討します。

4社内に眠る過去の事業案起点

新規事業の初期アイデア検討のために社内情報収集したところ、過去にボツになった新規事業企画や立上げに失敗して閉じることになった”元”新規事業の情報など、社内に眠る案に出くわす場合のパターンです。過去にボツになったり失敗した原因確認は必須ですが、内容によっては、改めて新規事業として立ち上げる価値がある内容もあります。
このパターンのメリットは、その事業アイデアをなんとか形にしたい人が、社内にいる可能性が高いことです。当時の失敗理由を直接学べることは、新規事業開発において有利です。その反面、「昔やってダメだったじゃないか」という極めて真っ当な反対意見に対して、合理的な説得材料がないことには、事業化の判断がなされる可能性は低いです。

社内に眠る過去の事業案起点の場合、まずPEST分析を行います。
PEST分析とは、政治的要因(Politics)、経済的要因(Economy)、社会的要因(Society)、技術的要因(Technology)の観点から、事業に影響を与えるマクロ環境要因を把握するために使うフレームワーク。新規事業企画・開発された「当時のPEST分析」と「現在&先数年のPEST分析」を行い、当時の技術や社会背景ではできなかったけれど、現在なら上手くいく可能性があるかどうか分析します。

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特に技術的要因(Technology)の観点は重要です。ひと昔前は不可能だったことが、現在では可能かもしれません。ひと昔前は高価な技術が、現在では安価に活用可能かもしれません。任天堂で、世界初の携帯型液晶ゲーム「ゲーム&ウォッチ」を開発した横井氏の名言「枯れた技術の水平思考」は、新規事業リーダーは常に肝に銘じるべきものです。

「ゲーム&ウォッチは、もし5年早く出そうと思ったら10万円の機械になっていた。それが量産効果でどんどん安くなり3800円になった」そうです。

たった5年の差が、技術利用可能性を高めた実例です。
2020年代の現在は、デジタル技術は必ず確認しましょう。2010年代前半に登場した「スマホ・クラウド・ソーシャル」は、多様な産業にデジタル活用可能性を持ち込みました。

PEST分析を通じて、社内に眠る案を新規事業化する可能性を感じたら、リーンキャンバスを用いて初期アイデアの肉付けを進めます。②まず顧客セグメントと問題、並びに既存の解決手段も確認します。顧客と課題は、以前と同じ場合もあれば、時代変化に伴い拡張して捉え直すのが良い場合もあります。
次に、③その問題に対する新しい解決策を検討します。その解決策は、過去ボツになった時には具現化できなかったけど、技術などの環境変化・進化に伴い、現在では提供できるようになったものであるはずです。

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5自社の課題起点

新規事業は「課題発見とその解決」が基本ですが、なぜか「顧客の課題」ではなく「自社の課題」しか考えられない方が一定割合で存在します。
「自社の課題」は確かに社員の多くが気にするでしょうが、一方で、顧客はあなた会社内の課題には一切興味はありません。興味があるはずがありません。

もし、上から降りてくるお題や、新規事業リーダーが考えることが「自社の課題起点」になっている場合は、まずやるべきことは、それを「顧客の課題」対応に変えるべく、上司や新規事業リーダーを全力で説得することです。上司や新規事業リーダーにとっては、それはコペルニクス的転回かもしれませんが、それをしないことには、新規事業の失敗率は100%です。
「自社の課題解決」ではなく「顧客の課題解決」に考え方を大転換できた後は、「1市場や顧客課題起点」と同じです。初期アイデアのタネの顧客と課題を探り出し、既存の解決手段を調べ、それより圧倒的に良いソリューションを検討し、初期アイデアが破綻してないか算数で確認しましょう。


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