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新規事業アイデア創出のクセ9選【初期アイデア創出ステージ】

初期アイデアの着想起点やきっかけは、市場や顧客起点の場合もあれば、経営陣の思いつきに端を発することもあります。着想の起点やきっかけに良し悪しはないものの、より良く検討を進めるために、自社の無意識な思考のクセやパターンを把握しておくのは有効です。

仮に、あなたの会社が革靴ビジネスを営んでいるとして、新規事業を開発するとしましょう。
思考の切り口はいろいろあります。靴ですから、靴革の品質や製法に着目するかもしれません。データ活用すべくIoTチップを靴に仕込み3Dプリンター活用パーソナライズ靴もあるかもしれません。靴は消耗品なのでサブスクリプションでの提供やシェアリングモデルもあり得ます。環境負荷軽減のためにリサイカブル素材活用もあるでしょう。靴の本場イタリアテイストなオーダー靴も良い案かも。国内の靴需要は右肩下がりのため靴以外の市場参入の検討は価値があるかもしれません。いつも外回りする営業は足が痛いと言ってて何とかできないかな。そもそもビジネスでなぜ革靴が必要かを起点に捉え直すやり方もあるでしょう。
新規事業の初期アイデアを考える際、どのような観点で考え始めるか、それが自社やあなた自身の無意識の思考のクセです。

●思考のクセ1:自社製品・技術中心主義
ほとんどの会社が、自社製品・技術中心主義的な思考のクセを持っています。内向き志向とも言えます。
自社製品や技術中心主義の良い面は、具現化可能で地に足のついた新規事業検討ができるところです。デメリットは、自社製品や技術ありきで考えがちで、現状の延長線上になりやすいこと。「ハンマーしか持っていなければ、全てが釘に見えてしまう」というアメリカのことわざの通り、自社製品という「手段」に囚われると、顧客の課題解決という「目的」を考えなくなり、手段のはずの自社製品が「目的化」しがちです。
自社製品・技術中心主義的な会社は、顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎に目を向けるのが良いでしょう。顧客と課題をうまく見出せられない場合は、流行中心主義や他社モノマネ中心主義的に考えるのも、染み付いた思考のクセから離れるには良い方法です。

●思考のクセ2:先端テクノロジー至上主義
「今後ブロックチェーンが来る」、「デジタルツインで新規事業を考えよ」、「ヒューマンオーグメンテーションに取り組む必要がある」など、先端テクノロジーに過剰な執着を示すパターンです。議論の際にガートナー社の「ハイプ・サイクル」が引き合いに出される場合は、まず先端テクノロジー至上主義な思考のクセがある状態です。
先端テクノロジー至上主義の良い面は、テクノロジー活用に積極的であり、既存の延長線上にないアイデアを創出しやすいところです。一方で、顧客と課題不在になりやすいのがデメリット。
先端テクノロジー至上主義な会社は、顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎に力を入れるのが良いでしょう。
ガートナー社のハイプ・サイクルは、黎明期、過度な期待、幻滅期、啓発期とフェーズ毎に先端テクノロジーが予測されます。新市場創出型の新規事業はテクノロジー活用する場合が多く、先端テクノロジーに前向きなのは好ましい状態です。
2010年代前半に世界で生まれたデジタル関連スタートアップの多くは、スマホ、クラウド、ソーシャルの波を掴みました。2010年のハイプ・サイクルを振り返ると、それら技術は過度な期待や幻滅期にあったことがわかります。先5年10年を見据えて新規事業開発ができる場合には、幻滅期にある先端テクノロジーに着目するのはひとつのやり方です。

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●思考のクセ3:流行中心主義
「うちでもシェアリングエコノミーのビジネスを始めよ」、「SaaS元年に乗り遅れてはいけない」など、その時々のビジネス流行に敏感に反応するパターンです。社長や担当役員がどこかで聞いてきて、うちも取り組めと素早い指示が飛んで来ることもあります。
流行中心主義は、社長や決裁者層が社外の新しい流れや情報に敏感というメリットがあります。会社の上層部が内向きで社外の情報に鈍感な状態よりも、社外の流行に敏感な方が何倍も好ましいです。ビジネスモデルが最初に定まることによって、ビジネスモデルを色々と考えずに済むという良さや、社長や上層部のお墨付きで活動を進められるメリットもあります。その反面、顧客と課題不在な状態からのスタートとなるため、新規事業リーダーの力量が問われます。
流行中心主義的な会社は、顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎にまず目を向けましょう。

●思考のクセ4:お上絶対主義
親方日の丸が言うことは絶対である、世界の団体がいうから正しい、という考え方をする会社です。2021年時点では、急に「SDGs」や「デジタルトランスフォーメーション」と言い出している会社は、無意識レベルでこの思考のクセが染み付いていると言えるでしょう。
昭和時代には、高度経済成長期の「政」「官」「民」の鉄のトライアングルでみんな一緒に成長し、護送船団方式で当局の監督の下みんな横並びが普通だったそうです。平成時代の30年を過ぎ、令和時代になりましたが、昭和時代の成功体験の記憶が社内に残ったままなのかもしれません。
お上絶対主義の特徴は、概念的な話や総論的な内容になりがちなこと。会社の中期経営計画や全社ビジョンならそれで良いものの、新規事業では何らメリットはありません。お上絶対主義の面倒なところは、賢いことを言っていそうで、実質的には何も言っていないところ。お上の権威を纏うため、そこはかとなく正しそうな雰囲気だけを醸し出す面倒さがあります。
お上絶対主義的な会社は、まずお上が言うことだけでは、事業アイデアでもなんでもないことを自覚する必要があります。自分の頭を使い、完全にゼロから新規事業アイデアを創出しましょう。

●思考のクセ5:他社モノマネ中心主義
新規事業の検討というと、条件反射的に「他社を調べろ」となるパターンです。顧客や顧客課題を調べようとするのではなく、世の中のどこかに既にある答えを真似るために「他社を調べよう」となります。
他社モノマネ中心主義の良いところは、他業界や他国の先行事例を調べるならば、顧客と課題とプロダクトをセットで調べられるところです。他業界でも、ベンチャーでも、海外スタートアップでも、調べられる時点で、顧客と課題とプロダクトを知ることができます。特に無消費市場狙いや過去の延長線上にない新事業を狙う場合は、アメリカやヨーロッパのスタートアップを真似するのは、効率の良いやり方です。俗にいう「タイムマシン経営」です。
デメリットは、リサーチセンスや判断軸がないと、ほぼ無限に時間をかけて調べられること。闇雲に調べ始めるのではなく、一定の判断軸や枠を先に検討するのが良いでしょう。

●思考のクセ6:市場分析とビジネスモデル中心主義
市場分析、競合分析、外部環境分析、ビジネスモデルなど机上の分析から始めるパターンで、コンサル会社や経営企画部はこのパターンで検討しがちです。
市場分析主義の良いところは、適切に分析されるため、一見根拠や論理構成がしっかりしてそうに見えることです。社内に対する説明責任を適切に果たせます。デメリットは、パワーポイントなどの資料上は良さそうに見えても、机上の空論な場合が多いこと。要は「中身がない」となりがちです。過去の分析から、未来の機会は見出せるかもしれませんが、その機会に対してどういう新プロダクトを打ち出せば良いかは、市場分析やビジネスモデルから見えることはありません。
顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎に力を入れるのが良いでしょう。

●思考のクセ7:未来からの逆算至上主義
新規事業は既存の積み上げではなく、将来からの逆算で考えようと、未来予測を起点とするバックキャスティング方式で新規事業を考えるパターンです。
未来からの逆算中心主義の良いところは、ものごとを大きく考えて捉えられること。概念的な話や総論的な内容になり、中長期の会社の方向性を示したり、エネルギー事業など10年20年スパンで捉えるべき事業にはバックキャスティングな思考は有効です。
一方で、新規事業にはあまり向きません。とある企業が「将来はこうあるべきだ」と考え、そこから逆算で新プロダクトを作ることは、実質的には自社発想プロダクトアウトと何も変わりがありません。未来はこうであるという、企業都合の妄想や妄想顧客に立脚するのではなく、実際に存在する顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎に力を入れるのが良いでしょう。

●思考のクセ8:顧客課題中心主義
具体的な顧客ニーズや困りごとが着想のきっかけになる場合です。新規事業の着想の王道です。
新規事業が失敗する原因は山ほどありますが、最大の失敗原因の1つは「架空の顧客・問題に取り組んだ結果、誰も欲しがらないものを作ってしまう」こと。顧客課題中心主義的に取り組むメリットは、この問題に引っかからずに済みやすいことです。顧客課題中心主義的に進めるデメリットはありません。
認識しておくべきは、取り組むに値する顧客・顧客課題は、そんなに簡単に見つからないということ。新規事業の活動スケジュールが定められている場合に、「スケジュール通りに進めないといけない」という、自信の評価を優先する発想にならぬよう、留意しましょう。スタートアップ創業者が取り組むべき顧客と課題を見出すために、1年以上かかることは珍しいことではありません。企業の新規事業担当者が、取り組むべき課題を見出すのにそれ以上の時間がかかることは、おかしなことではありません。

●思考のクセ9:業界の不合理破壊主義
業界の不合理への憤りなどが新事業アイデアの起点となるパターンです。
業界の不合理破壊主義の良いところは、その不合理が大きく、その不合理から不利益を被ってきた人が多いほど、ポテンシャル市場が大きく本質的であることです。その反面デメリットは、自社の業界に取り組む場合、その不合理こそが自社の利益に繋がっているため、社内から大反発を食らう可能性が高く、進めるのは極めて困難なことです。自社業界とは別の業界に取り組む場合、その業界の大手企業からの強い反発がくることに、会社として覚悟しきれない可能性が高いです。
その覚悟をした上で、顧客と課題を見出すという、新規事業の基礎にまず目を向けましょう。「不合理だ!」と声高に叫ぶだけでは、なんら新規事業に繋がりません。

さて、仮にあなたの会社が革靴ビジネスを営んでいるとして、新規事業を開発するとしましょう。
自社製品・技術中心主義的な思考だと、靴革の品質や製法に着目するかもしれません。先端テクノロジー至上主義者は、データ活用すべくIoTチップを靴に仕込み3Dプリンター活用パーソナライズ靴を思いつくかもしれません。流行中心主義な場合は、革靴サブスクリプション提供やシェアリングモデルもあり得ます。お上絶対主義的な会社の場合、SDGsだからと環境負荷軽減なリサイカブル素材活用が有力なビジネス案になるかもしれません。他社モノマネ中心主義的に考えれば、先端イタリアを追うべくイタリアテイストなオーダー靴も良い案かも。市場分析とビジネスモデル中心主義者は、国内の靴需要の今後の市場規模推移に着目し、靴以外の市場参入を検討するかもしれません。顧客課題中心主義的な視点では、ビジネス革靴の主顧客である営業マンに着目し、外回りで足が痛いという課題に対応する案を考えるでしょう。業界の不合理に取り組む場合は、そもそもビジネスでなぜ革靴が必要かを起点に捉え直すやり方もあるでしょう。
自社のいつもの思考回路だけでは、既存の延長線上にないアイデア創出できる可能性は低く、様々な切り口から検討を多面的に行うのは、より良いアイデア創出に有効です。新規事業部門の決裁者を通すためにも、自社の思考回路のクセを利用するのが良い場面もあるかもしれません。

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