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新規事業の領域パターン⑤:未解決への対応・潜在的な需要×既存客×新商品

ここまで説明した新規事業の4つの領域パターンは、全て「顕在化した既存需要」に対応する新規事業です。自社にとっては、過去に取り組んだことのない新規事業である一方で、世の中や顧客の側から捉えると、既にプロダクトを提供する会社は存在する類の事業です。
一方、新規事業の領域パターン⑤は、潜在的な未解決問題の対応です。今まで解消されずにいる、顧客の不満、不便、不条理、不幸、不公平、不安、不都合などの「不」に取り組む新規事業です。

【市場・顧客軸】
「未解決への対応・潜在的な需要」×「既存客」

【商品・ビジネスモデル軸】
「新商品(既存ビジネスモデル・新しいビジネスモデル)」

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この領域パターン⑤は、顧客は既存客のため、どういう課題や問題の構造が存在するか、センスの良い社員は薄々気づいているものです。しかし、その課題の切り出し方と、解決策を考え事業化するのが難しい。
事業案によっては自社ビジネスを毀損させる場合もあり、「カニバライズ」という社内の保守本流部門からの非難の声と戦う必要があるのは、この新規事業のパターンです。
レンタルビデオ屋で返却期限を過ぎたら発生する遅延金は、顧客の誰もが嫌悪していることを、知らないレンタルビデオ屋はいないでしょう。しかし延滞金はレンタルビデオ屋の高利益の源泉であり、延滞金をなくすビジネスを考えることは至難の技です。

この領域パターンは、問題の切り出し方や解決策の作り方、課金・提供モデルや販売の仕方、オペレーションから社内保守本流部門との兼ね合いまで、既存の延長線上とは異なるイノベーティブなアイデア、クリエイティブな発想が求められます。
未解決問題への対応であり、既存では市場規模は算出できないため、社内で新規事業の正当性を主張することは、骨が折れる作業になるかもしれません。同じ社内でありながら、社内本流部門の面々と、机の上では笑顔で握手をしながら、机の下で蹴り合うような社内政治力も求められます。
名著「イノベーションのジレンマ」にて、「新市場開拓型イノベーション」と呼ばれる新規事業はこの領域パターンです。未解決の課題が存在し続けていても、解決策となるプロダクトが企業から提供されていないため、企業から見て「無消費」状態や、「不満足な解決策」で対応している状態であり、そのような「不」を既存常識とは異なる方法で解決しようとする新規事業の取り組みです。
領域パターン⑤は、名著「ジョブ理論」に書かれている通りの取り組みと言うこともでき、この新規事業の取り組みが成功すれば、大きなリターンが期待できます。

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「未解決への対応・潜在的な需要」×「既存客」×「新商品(既存ビジネスモデル」の領域
この領域は、既存客が抱え続ける課題に対し、新しいプロダクトを提供するものです。
例えば、アパレル大手のオンワード社の「KASHIYAMA」は、この領域に該当する新規事業です。「KASHIYAMA」は、廉価なオーダーメイドスーツを工場直送で提供するF2C(Factory to Customer)ビジネスです。
オーダーメイドスーツは、もともと高価で、注文から納品まで1ヶ月以上かかる嗜好品でした。そのようなオーダースーツを、フルデジタル工場を含めたデジタル活用により、注文から納品まで1週間に短縮し、価格破壊による既製スーツより安い価格で提供しています。 

私が以前勤めたネットベンチャーで立ち上げた新規事業も、この領域パターンの新規事業でした。当時、ウェブのアクセス解析ツール会社で働いていました。アクセス解析ツールとは、ウェブサイトを訪問するユーザーの動きを可視化し、ウェブ広告の費用対効果を把握する「数値分析のツール」です。
当時は「アクセス解析=ウェブサイト分析ツール」が常識でしたが、そのような頃に、アクセス解析技術とデータを用いて「営業マンの営業効率を高めるツール」を新サービスとして企画開発して販売しました。
社内の本流事業の常識と全く異なるコンセプトの新サービスだったこともあり、受注して顧客は使ってくれるにも関わらず、社内の営業はなかなか売ってくれない、と状況に直面したりもしました。

「未解決への対応・潜在的な需要」×「既存客」×「新商品(新しいビジネスモデル」の領域
既存客への、新しいビジネスモデルでの新商品提供の例は、例えば、アパレル大手のストライプインターナショナル社の「メチャカリ」は、この領域パターンの新規事業です。
「メチャカリ」は、新品の服を借りられるサブスクリプションサービス。洋服を自社で企画製造し、販売するアパレル企業にとって、「服を利用する権利」を販売するのは新しいビジネスモデルです。店頭接客せずにどう好みの服を決めるのか、戻ってきた中古服はどうするのか、その在庫はどう管理するのか、など保守本流事業と異なることばかりの新規事業です。

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中古車販売ガリバーを運営するIDOM社が提供する、自動車サブスクリプションサービス「NOREL」も、この領域パターンの新規事業。
中古車を仕入れて、整備して、売り切り販売する中古車販売会社にとって、「自動車を利用する権利」を販売するのは新しいビジネスモデルです。

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この領域パターンで、平成の30年の間に最も成功した新規事業は、ドコモ社のiモードです。「携帯電話は通話をするもの」という常識から、「携帯電話はインターネットをするもの」という新しいマーケットを作り出しました。

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この領域パターン⑤に取り組む際の体制
新規事業に向く、新規事業経験のある異端児的社員を中心に進めるのが良いでしょう。
社内リソースや知見だけでは難しい場合は、ゼロイチ事業開発を支援する専門会社の利用するのが現実的な選択肢です。いまどきはデジタル絡みの新事業となることも多く、事業企画から事業具現化、事業開始後の試行錯誤を共に推進できる支援会社の活用も必要となります。

ドコモ社iモードの企画着手時の体制は、法人営業部門と兼務の榎部長、社内公募の若手志願兵5人、コンサル会社2人とNEC出向1人。そこに中途採用の松永真理氏と夏野剛氏の外人部隊が加わったそうです。
地方帰りの中間管理職の榎氏、リクルート事件で世間の冷たい風を浴びた元とらばーゆ編集長の松永氏、画期的ビジネスモデルで一斉を風靡して倒産したネットベンチャー元副社長の夏野氏。このような異端児・ばか者・よそ者集団で、iモードの企画検討は始まったそうです。

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