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人と異なる見方で世の中をどう捉えるか【事象やモノゴトの捉え方】

新規事業は、社内の既存と異なる新しいプロダクトを創り出す営みです。
新しいプロダクトを創る前段として、そのプロダクトが解決する新しい課題を見出す必要があります。新しい課題を見出す前段として、とある事象や事柄を世の常識や業界慣習とは異なる捉え方をする必要があります。

「人と異なる見方で世の中をどう捉えるか」「何もなさそうなところから何を見出すか」とは、ある状況や情報に対して「どこに目を向けて、何を読み取るのか?」「感じ取った情報を、どう解釈するのか?」という情報取得・処理プロセスの話であり、世の大半の人とは異なるユニークな「知覚」が新規事業の出発点です。
例えば、「赤ちゃんはすぐ泣くから、赤ちゃん連れでレストランに行きづらい」という状態は、多くの人が知っており、子育てすれば必ず経験することです。私がその状態を知ったとき、「まあ、そうだよね」と思うとともに「赤ちゃん連れでレストランに行くのではなく、レストランが自宅に来てくれれば良いではないか」と思いました。
その着想が起点となり、出張シェフサービスのマイシェフを立ち上げました。

アイザック・ニュートン氏は、「りんごが木から地面に落ちる」という現象から、万有引力の法則の着想を得たと言われます。世のほとんどの人にとって「りんごが落ちる」は、「りんごが落ちる」以上でも以下でもなく、何ら違和感を感じることはないでしょう。
しかしニュートン氏は「りんごは落ちるのに、なぜ月は落ちてこないのだろう」、「りんごは落ちているのではなく、地球に引かれているのではないか」と考えを深めていきました。「りんごが落ちる」という、誰もが知っている現象を目にしたとき、ニュートン氏特有の心の目で観察し、自らの心の中に「新しいものを見出し」たのです。
人と異なる見方で世の中を捉えるとは、このようなことです。

●ありふれた領域に、人と異なる観点で新しく見出す

新規事業の企画の多くは、ごくありふれた領域で起こっています。ありふれた領域に、まだ十分に理解されないままの問題が解決されずに残っています。
何故そうなっているのだろうと、人と異なる見方をする人がそれを見出すことによって、初めて解決に向けて動き出します。ありふれた領域に存在する事象を、当たり前のことしか捉えない人には、そこに新しい何かを発見することはあり得ません。

企業の新規事業の中で大きな成功を収めたものは、経営者がふとしたきっかけからある種の発見を掴み、その発見を起点に実践に移したものが多いです。同業他社や世の大半の企業は気づかない世の中のわずかな動きを巧みに捉え、モノゴトや事象を自らの目で観察し、自らの心象の世界で捉え直すことのできる人を抱える企業には、いくらでも新規事業や成長の機会は転がっています。

「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」 by マルセル・プルースト(フランスの作家)

マルセル・プルースト

「天才とは、その人にだけ見える新事実を、見ることができる人ではない。誰もが見ていながらも重要性に気づかなかった旧事実に、気づく人のことである。」by塩野七生氏 著作「ローマ人の物語」

塩野七生

人と異なる見方で世の中を見て、次々と新規事業を成功させた代表例は、セブン・イレブン・ジャパンを立ち上げ、30年以上に渡り同社グループの経営の舵取りをした鈴木敏文氏です。

鈴木敏文氏

鈴木氏は30歳の時にヨーカ堂(現イトーヨーカ堂)に転職して管理畑を歩んだ後、コンビニを日本に持ってくるという新規事業を立ち上げました。セブン・イレブン・ジャパンです。
その後、家で作るのが当たり前だった「おにぎり」を店舗販売したり、ATM銀行を立ち上げたり、社内の経営陣が反対した新規事業を次々と成功させました。
セブン・イレブン・ジャパンを立ち上げた際、鈴木氏の当時の役職はイトーヨーカ堂の人事部長でした。コンビニ新規事業を立ち上げるといっても、社内で手をあげる社員はいなかったため、新聞広告で人材募集しました。自衛隊のパイロットや商社マンなど、異業種出身者ばかりでの事業立ち上げとなりました。

当時の日本は大型総合スーパー全盛時代で、例えばヨーカ堂は1年に10店舗も大型スーパーを出店するほどでした。その一方で、商店街の小型店は衰退の一途を辿っていました。大きいことはいいことだ、小さな店はもう成り立たない、というのが流通小売業界の常識でした。
そのような中で鈴木氏は「小さな店が伸びないのは、規模ではなく、時代の変化に対応できてないからではないか」と考え、小型店であるコンビニ事業を立ち上げました。
業界常識の真逆である小型店コンビニ事業の立ち上げは、社内からも、小売流通業界からも、マーケティング学会からも「無理だ」「小型店がうまくいくはずがない」と反対論の大合唱だったそうです。

人と異なる見方で世の中を捉え、新しく見出したものを新事業として具体化しようとすると、往々にして周囲からは異常行動と見なされます。新しい試みを始めるたびに、社内外から反対意見が出ます。
鈴木氏は「みんなが反対することこそ、挑戦する価値がある」と言い続けていたそうです。むしろ誰もが賛成することは、ただの「業界常識」で過去の延長線上の産物です。
セブン銀行を発足するときも反対意見ばかりで、メインバンクの頭取からは「失敗するとわかっていることを、見過ごすわけにはいかない。おやめになった方が良いですよね」と、親切な助言や忠告を受けたそうです。
プライベートブランド(PB)商品開発時、質の良いものを開発し、グループの百貨店、スーパー、コンビニのどこでも同じ価格にしようとした際も、グループ各社から反対意見が出たそうです。



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