見出し画像

スタートアップやベンチャーが挑む新市場型破壊的イノベーション事例

クリステンセン教授の名著「イノベーションのジレンマ」に書かれるとおり、無消費者層向けの新市場型破壊的イノベーションは、業界大手企業ではなく、スタートアップ企業や別業界からの参入が引き起こすことが多いです。
その理由は単純明快で、大手企業が無視するユーザー層が、無消費者だからです。大企業がターゲット顧客外と定義する無消費者層を、自社のターゲット層としようなどと思いもよりません。
クリステンセン教授は著書にて、大手企業が狙う「消費者」と「無消費者」という分け方をしました。しかし新市場型破壊イノベーション創出においては、対象はユーザーや消費者だけに限らず、大企業が「対象としているか」と「対象外か」に分けて捉えることで、より多様な事業機会を見出すことができます。

【顧客】
顧客領域にて無消費者を探すのは、新市場型破壊イノベーション創出の基本パターンです。受験サプリ、マイシェフ、ななつ星in九州、ホンダジェット、ABEMAはいずれも無消費状態にあるユーザー層に、既存と大きく異なるプロダクト提供することで、新たに新市場を創造した事例です。

【仕入れ調達・商流】
以前は仕入れ調達元と見なされなかった相手(=無視されていた対象)から仕入れられるようにすることで、圧倒的な低価格や商品多様性を生むパターンです。

●クラウドワークス
例えば、法人が業務委託やアウトソーシングを行う際、その契約相手は法人でした。個人フリーランスが法人と契約するのは特定業界を除きハードルが高いものであり、個人フリーランスは無視された対象でした。
そのような状況の中で、クラウドワークス社は、個人フリーランスに安全に発注するクラウドソーシングの仕組みを作り、法人が個人に業務委託する新市場を創造しました。

●スペースマーケット
レンタルスペースや貸し会議室を借りる場合、スペースの貸し主は法人であり、個人保有スペースを直接借りる方法はありませんでした。つまりレンタルスペース市場において、個人保有のスペースは対象外でした。
そのような状況の中で、スペースマーケット社のプラットフォームには、個人保有のスペースも多数掲載されており、法人や個人が、個人のスペースを借りる選択肢を新たに創り出しました。

●ラクスル
印刷業界は、大手の大日本印刷(DNP)と凸版印刷の大手2社が全出荷額の半分近くを占める、大手2社による寡占市場です。大手2社は案件の6〜7割は下請け会社に外注しており、およそ2万社の中小印刷会社がその仕事を支えています。印刷業界はそのような多重下請け構造にあり、また季節などによる繁閑差が大きいため設備稼働も不安定で、大半の中小印刷会社は慢性的な低収益構造に陥っていたそうです。
ラクスル社はその多重下請け構造を問題とし、印刷のオンライン注文ビジネスを作りました。中小印刷会社の稼動設備状況を把握して、印刷注文を稼働率の低い設備に割り振ることで、中小印刷会社にとっての新しい販路を作るとともに、圧倒的な安さを実現しました。

●スターマイカ
中古マンション再販事業を営むスターマイカ社も、業界で仕入調達元と見られず無視されていた対象を、仕入れるモデルで独自の優位性を構築した事例です。一般に中古マンション再販ビジネスでは、仕入後にすぐ売れる「空室」を買い取ります。同ビジネスは「大量仕入・スピード販売・薄利多売」な回転率を重視するモデルが基本です。そのため再販ビジネス業界では、「人が住んでいる賃貸中マンション」は、すぐに売れないため買い取り対象外とされます。
そのような業界常識の中で、スターマイカ社は他社が無視する「賃貸中マンション」を仕入れ、自然退去するまで待ち、空いてからリフォームして販売するビジネスを構築。「賃貸中マンション」は他社が無視するため、じっくり吟味して安価に仕入れることができます。「吟味仕入・中長期保有・高利益率」なモデルを構築して成長を続けています。

●Creema
ECビジネスのプラットフォームはAmazon、楽天、Yahooの大手3社が圧倒的なシェアを占める市場です。ここに出店するのは基本的に法人で、新品の規格品を販売します。中古品は新品の劣化版として安価に販売されます。この市場においては規格品以外は対象外でした。
そのような中で、ハンドメイド作品マーケットのCreemaは、ハンドメイド作家の作品に特化。規格品ではないハンドメイド品を販売・購入できる新市場を創造しました。

●レアジョブ
英会話業界は、先生の良し悪しと人数重要なビジネスです。教室立地から遠くない場所で先生を見つける必要があり、教室から遠くにいる先生は対象外となるのが一般的です。
そのような状況の中で、オンライン英会話のレアジョブは、フィリピン在住の英語ネイティブを先生として活用。オンライン特化にすることで場所の制約をなくし、日本よりも人件費の安いフィリピン人講師活用により、圧倒的に安価にサービス提供することで新市場を創造しました。

【時間軸・期間】
利用期間や時間軸を、業界慣習と異なる単位に変更することで、新たな需要を創出するパターンです。 

●wework
例えば、法人のオフィスの賃貸借契約は、通常契約期間は2〜3年であり、最初に支払う保証金は賃料の6ヶ月〜12ヶ月分が相場。それより短い期間は通常ありません。そのような業界慣習のため、従業員数が急速に増加する急成長ベンチャーや、東京や大阪進出を検討する地方の企業などにとって、オフィス賃貸借契約は負担の大きいものです。
米国wework社はそのような業界慣習に意を唱え、最低契約期間1ヶ月で保証金ゼロのレンタルオフィスを提供。契約期間2〜3年の縛りのために、都心進出を諦めていた(無消費状態)地方企業に、新しい選択肢を提供し新市場を創出しました。 

●NOREL
例えば、自動車に乗るには、購入して保有するか、数日レンタカーのいずれかの選択肢が存在しています。その間に該当する選択肢はなく、例えば夏の間は趣味のサーフィンのためにSUV(スポーツ用多目的車)に乗り、それ以外の季節は燃費重視で小型車に乗る、といった要望があっても我慢するしかありません(無消費状態)。
そのような中で、中古車大手ガリバーの自動車乗り換えサービス「NOREL」は、無消費状態のニーズに対応するサービスです。90日ごとに車を乗り換えられるプランや、1ヶ月単位でレンタルできるプランを提供し、新市場を創出しました。 

●PlayStation Plus
時間軸や期間を変えるのは、購入・保有が前提だった業界に、毎月課金型のサブスクリプションやSaaS(Software as a Service)提供することも該当します。 例えばソニー社プレイステーションは、かつてゲームソフトは現物ディスクを購入・保有するものであり、友達同士でのディスク交換もゲームの一つの楽しみ方でした。
しかし月額課金型サブスク 「PlayStation Plus」を2010年に開始。プレステ保有者向けに、サブスク型という新しい課金モデルで、オンライン対戦という新しい価値を提供しています。有料会員は世界で5000万人を超え、「PlayStation Plus」だけで5000億円の売上。コンソール(ゲーム機本体)の売上が横ばいになる中、ゲームソフトの月額課金という新市場を創出し、プレイステーション登場から25年を過ぎてなお、ますます事業成長が加速しています。

【利用単位・権利単位】
それまで存在しないものを新たに利用できるようにしたり、利用できなかった単位で扱えるようにすることで、新市場を創出するパターンです。 

●絵画の証券化による権利の小口販売
例えば、不動産の売買は一般的に高額になりがちですが、所有権を小口化することで流動性を確保する不動産の証券化スキームはこのパターンです。同様のことが絵画売買の世界でも起こりつつあり、2021年7月にスイスの銀行が、ピカソの絵画「Fillette au béret(ベレー帽の少女)」の所有権をブロックチェーン技術を用いて証券化して売り出しました。

●共同購買EC
例えば、法人間ビジネスでは大量購入により商品単価を下げる(値切る)商習慣がありますが、個人が購入する場合は大阪以外ではそのような商習慣はありません。
そのような中で、自分1人ではなく、共同購入によりより安価に購入できる仕組みで、新市場創出を狙う試みは何度も行われてきました。古くは生協コープの共同購買の仕組みがありますが、インターネット登場後は、2000年にネットプライス社がギャザリング(共同購入)通販サイトを開始、2010年頃に米国グルーポンや、リクルート社のポンパレが、共同購入型クーポンサイトを開始しました。その後しばらく共同購入は下火状態が続くも、中国でソーシャル共同購入ECのPinduoduo(拼多多)が創業からわずか3年で上場するほど急成長したことにより、日本でも複数の共同購入ECサイトが立ち上がっています。 

●空中権の売買
過去には存在しないものが利用できるようになった例は、2000年の法改正により可能になった容積率売買ビジネスがあります。いわゆる「空中権」の移転です。「空中権」とは当該土地の空中を利用できる権利のことで、法改正により、未利用となる容積率の一部を他の建物へ移転(売却)できるようになりました。
東京駅駅舎が復元工事費用約500億円を捻出するために、空中権を近隣の「新丸ビル」や「グラントウキョウ」など、6棟のビルへ売却したのは知られるところです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?