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腰痛発症を未然に防ぐ作業者の体幹力と仕事の腰部負荷のチェック

職場での腰痛は生産性の低下、すなわち損失である。

腰に負担がかかる作業といえば、中腰姿勢(前傾姿勢)の維持や上半身の屈伸やひねりの繰り返し、重量物の持ち上げ、長時間の立ち仕事などを思い浮かべます。

また、腰痛発症は中高年に多いイメージがあると思います。この理由は加齢とともに腰椎が脆くなり、筋力も低下するからです。腰に負担がかかる姿勢や作業が繰り返し、長時間続くと疲労が蓄積して、さらに腰痛発症のリスクが高まります。

腰痛の発生要因は腰にかかる負荷だけではなく、メンタルの不調などさまざまな原因があり、実際に腰痛を感じていても診察の結果、異常がないと言われることもあります。日本人は生涯に腰痛を経験する人が8割にものぼり、割と身近であるにも関わらずわからないことが多い疾病です。

仕事に出ていても、今ひとつ体調が悪く生産性が低下している状態をブレゼンティーズムと言いますが、腰痛による経済的損失が最も多いとされています。今も腰が痛いといいながら職場に出ている人も多くいるのではないでしょうか?

腰痛に不安を感じながらベストな状態で仕事ができないことによる損失は金額にして、年間3兆円以上に上ります。ひとりあたりにすれば、年間、約45,000円が腰痛によって失われています。プレゼンティーズムは目にみえる損失ではないので実感が伴いませんが、精神的(メンタル)の不調、肩こり、寝不足などを入れれば20兆円を超える損失になっています。


松平 浩 職場における新たな腰痛対策 Q&A 50より
松平 浩 職場における新たな腰痛対策 Q&A 50より

さて、プレゼンティーイズムの中でも最も経済的なダメージが大きい腰痛を減らすためにはどうすれば良いでしょうか?

最近は人手不足の影響もあり、腰痛になりやすい高齢者や体力的に不安を持つ女性が現場でも活躍しています。すぐに対応しなければ職場での腰痛発生による損失はどんどん膨れ上がるでしょう。

職場における腰痛対策として、「軽労化ナビ」では2つのアプローチを提案しています。

職場のきつい作業による負荷を数値化

ひとつは、職場にある作業の腰にかかる負担(腰ストレス)を定量化することです。この負担は力の単位であるN(ニュートン)で表示することができます。腰にかかる負荷は手元で扱う重量物の重さや自分の上半身の体重などが腰部に負荷となります。前屈み(中腰)が深くなったり、手を伸ばして、身体から遠い位置で仕事をする場合には腰部負荷が高まります。

身体のひねりやくり返し、中腰を維持する時間などによっても負荷の大きさは異なりますが、職場の仕事で、「あの仕事はきつい」というのはあると思います。おそらく、その仕事の負荷に耐えうる体力を持った人が、その作業にあたっていると思います。

そのような、職場でのちょっときつい作業について、負荷を数値化することで腰痛のリスクを可視化することができます。

労働者の体幹力を数値化

「軽労化ナビ」のサービスでは、厚労省の「身体的能力のセルフチェック」を参考にした、体力測定があります。種目は、閉眼片足立ち、2ステップテスト、握力(左右)、ファンクショナルリーチ、タオルギャザー、座位ステッピング、プランクの7種目です。全ての種目を実施しても15分程度で終わります。汗もかかず、心拍数もそれほど上がることがないので、仕事の合間に測定に参加することができます。

体力測定の結果から、体力要素として、筋力、平衡感覚、柔軟性、身体操作性、体幹剛性、俊敏性を評価します。さらに、ご自身の体力レベルに合わせておすすめのトレーニング(ストレッチ、体操、筋トレ)などのメニューを動画でご案内します。

さらに、体力測定の結果から、体幹力の評価をしています。体幹力の評価には体力測定結果に対して、身長、体重などの体格、年齢、性別などによって補正し、体幹力指数、体幹力年齢、腰部負荷許容値を提示することができます。

ご自身の腰部負荷許容値と職場の作業の負荷を照らし合わせてみて、その仕事が自分にとって適当なものであるか評価することができます。もし、職場の作業負荷がご自身の体力と同じか、それ以上だと腰痛発症リスクが高まりますの注意が必要ということになります。

適正な作業員配置と作業者の体力づくりで腰痛労災を削減

腰痛は日本人の8割が生涯に1度は罹患する疾患です。一度、腰痛になると4,5日は仕事に出ることができず、仕事に復帰しても腰痛発症の不安があって、十分なパフォーマンスが発揮できません。その生産性低下の損失は一人あたり年間45,000円ほどになるという試算もあります。

職場の作業による負荷と作業者の体幹力を定量的に把握することで、作業に対する適切な作業者の配置が可能になります。また、負荷の高い作業は、省力化、軽労化するなどの措置が必要になるでしょう。

作業における腰部負荷の基準値について、日本では明確な規定はありませんが、欧米では3,400Nというのが一般的です。これは、米国労働安全衛生研究所の基準であり、今後、日本においても何らかの指針が出る可能性もあります。