その腰痛、労災ですか?
腰部負担の軽減、腰痛による労災予防のためにスマートスーツの開発や販売をしていると、労使双方からさまざまな相談があります。当然ながら、我々は腰痛を診断できる立場にはありませんが、産業医の先生などから話を伺っていると、腰痛というのは労災として判断するのが難しいようです。
腰痛以外の労災の場合、作業中の事故と疾病が瞬間的に結びつきます。多くはつまづきによる転倒や、高所からの落下など、疾病の原因が瞬時に特定することができます。
しかし腰痛は、必ずしも腰痛の原因が業務上に由来するかどうかの判定が難しく、仕事中に発生した腰痛が必ずしも労災になるとは限りません。
腰痛にはいくつかの種類があり、最も多いのがぎっくり腰です。重たいものを持ったり、中腰の状態で捻りを加えたりといった動作がきっかけとなって腰部に激しい痛みを感じるもので急性腰痛と言われています。
急性腰痛に対して、常に腰に痛みを感じている状態を慢性腰痛と言います。急性腰痛がなかなか治癒しない場合もあれば、他の要因で腰痛が長引く場合もあるようです。
腰痛はその原因がはっきりしているものを特異性腰痛といい、原因がはっきりしないものを非特異性腰痛といいます。原因がわかって入り特異性腰痛は全体のわずか15%で、残りは原因不明の非特異性腰痛です。そんな背景から腰痛が労災に認められにくいようです。
厚生労働省では、労働者の腰痛が業務上に起因するもので、労災として認められるかどうかを判断する基準を示しています。これによると腰痛は災害性の原因によるものかどうかの2つの種類に分けられていて、それぞれに労災認定の要件を定めています。
また、仕事中に発症したぎっくり腰であっても、ぎっくり腰は日常的な動作の中で発症するため労災とは認めません。としています。(ただし、発症時の動作や姿勢の異常性などから、腰への強い力の作用があった場合には業務上と認められることがあります。)
また、腰痛を認定するためには医師によって療養の必要があると診断されなければなりません。
このように、誰もが経験する腰痛は、仕事中に発症したとしても労災に認められない場合が多いので、腰痛で治療しても、仕事を休んでも保障されるとは限りません。腰痛は労働者だけの問題ではなく、作業現場を管理する労務管理者や経営者にも大きな負担になります。ですから、労使協力して腰痛予防にしっかりと努めなければならないのです。
厚生労働省では、「職場における腰痛対策指針」を提示しています。前回は19年ぶりに2013年に改訂されています。この改訂では、少子高齢化を背景に介護労働者の腰痛が増加していることから、介護現場にも適応を拡大したものでした。
それから約10年が経過しています。
最近の”高年齢労働者の社会参加”によって、事業所には高齢者の雇用の義務が課さられています。腰痛は加齢による体力の減少と比例して増える傾向にありますので、次回の改訂では特に高年齢労働者への適応拡大も予想されます。
腰痛による作業現場での生産性の低下は1兆円を超えると言われています。このうち労災となった治療費はわずか(?)800億円程度とのことですから、腰痛で生産性を毀損しながら、労災に認められていない人は非常に多く、将来的に職場における腰痛対策指針の変更によって、腰痛がいかに社会的、経済的な損失となっているかがクローズアップされることになるでしょう。
腰痛予防のためには、腰にかかる負担をなくすような現場のライン変更や機器の開発はもちろんですが、作業にあたる人の体力を向上させることや、体力(腰痛耐性)に応じた仕事を割り当てるなどの対応が必要になると思われます。