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真っ向勝負で「夢を買う」採用を。〜エグゼクティブ採用のプロに聞いたCxO人材との向き合い方〜

取締役や役員、CxOといったハイレイヤーの人材を採用する際、どんな能力や経験を求め、それをどうやって見極めればよいのか……悩んでいる経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか。今回は、エグゼクティブ層の転職支援サービスを展開するクライス&カンパニー代表取締役の丸山貴宏氏をゲストにお招きし、SmartHR取締役COO倉橋との対談が実現。ハイレイヤー採用の現状や、人材の見極め方、人材を惹きつけるポイントなどを教えていただきました。


左:倉橋 隆文(SmartHR)、右:丸山 貴宏さん(クライス&カンパニー)

丸山 貴宏 さん(写真右)
株式会社クライス&カンパニー 代表取締役社長

大手就職情報会社にて約7年間人事採用を経験した後、クライス&カンパニーを設立。前職からの採用面談者数は10,000名を超え、その経験と実績に基づいたカウンセリングは業界でも注目されている。単なる企業情報の提供に留まらず、「候補者の根っこのエネルギーを発掘する作業が我々の使命」がモットー。

倉橋 隆文(写真左)
株式会社SmartHR 取締役COO

2008年、外資系コンサルティングファームであるマッキンゼー&カンパニーに入社し、大手クライアントの経営課題解決に従事。その後、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。2012年より楽天グループ株式会社にて社長室や海外子会社社長を務め、事業成長を推進。2017年、SmartHRに参画し、2018年1月から現職。

スタートアップの待遇面が整い、大企業からの転職ハードルは低くなった


ーーハイレイヤー採用を積極的に実施している会社はどのくらいあるのでしょうか?

丸山貴宏さん(以下、丸山):現在弊社に寄せられている求人数を見てみると、CIO、CTO、CDOといった技術系の求人が120件、それ以外のCxOで441件のご要望をいただいています。CxOでなくても、事業責任者や執行役員、またPEファンド、コンサル、VCといった年収が1,350万円以上の求人も2,000件近くあります。とにかく引く手あまたといった感じです。

倉橋:かなりの件数ですね。こうしたハイレイヤーの求人は、スタートアップ企業に多いのでしょうか?

丸山:CxOの場合は、多くがスタートアップですね。特にシリーズA以降の企業がメインとなっています。0→1段階というよりは、1→10→100と事業を大きくしていく過程で、事業の要となるCxOの存在が重要になってくるのだと思います。

倉橋:ハイレイヤーの求人は増加傾向にあるのですか?

丸山:コロナ流行の少し前ぐらいから増えてきたのですが、これはスタートアップに潤沢に資金が集まりだしたタイミングといえます。
ひと昔前のスタートアップは収入の低さがネックとなり、採用が難航していました。想いの強い経営者側は、条件が厳しくても参画してくれるのか?という覚悟を候補者に問うていた側面もあると思います。
しかし、スタートアップにうまく資金が流れるようになり、トレンドが変わりました。

倉橋:私の周囲でもスタートアップに興味のある人が増えてきた印象があります。やはり給与面の改善が大きく影響しているのでしょうか?

丸山:100%そうだと思いますね。少し前までは候補者本人は転職を決断しているのに待遇面が原因で配偶者に反対されてしまう、というパターンもよくありました。収入の不安が解消され、身近にスタートアップへ転職する人が出てくると少しずつ情報が得られるようになり、これまで諦めていた人たちが続々と挑戦する、という流れになってきたわけです。

候補期間をうまく活用し、育成込みでポテンシャルのある人を採用する


ーーかなりの求人があるようですが、候補者数は潤沢なのでしょうか?

丸山:たくさんいる、とはいえないですね(笑)。転職ニーズが顕在化している人だけではとても足りないので、しっかりとデータベースを作り、潜在層も含めて長期的な人材の確保を目指しています。例えば会社のフェーズが移行したタイミングで興味を持ってくれる方もいますし、さまざまな角度から幅広い人材にアプローチできるようにしています。

倉橋:ハイレイヤー採用の候補に挙がる人には、どんな特徴がありますか?

丸山:CxO候補の場合は、ほとんどがCxO経験者です。その一歩手前の候補者としては、ある程度優秀な大学を出て、商社やコンサルティング会社などで就業経験を積み、事業責任者を任されているような30代前半が多いイメージですね。
私たちは学歴や職歴ももちろん重視しますが、いかに実力があるか、人間的な魅力があるか、そして会社の経営層とのフィット感があるかを見極め、推薦しています。

ーー倉橋さんが今、SmartHRでハイレイヤーの採用を依頼するとしたら、どんな人材を求めますか?

倉橋:SmartHRは現在事業部制を敷いていますので、PLの最終的な数字に責任を持って事業運営をした経験者が望ましいと思います。丸山さんはどう思われますか?

丸山:そのような人はどの会社にも強く求められていますね。とにかく需要過多なので、その条件ど真ん中を探しにいくと、なかなか採用できないんです。そこに近しい人、一歩手前にいる人をどう探しに行くかが重要になってきます。

倉橋:「一歩手前の人」をどのように採用するのがよいのでしょうか?例えばPL責任を持ったことがない人は、いきなりCxOなどのポジションにはつけず、別の形で社内で経験を積んでもらうべきですか?

丸山:「CxO候補」として一つ下のポジションに配置するのがいいと思います。
ただし、「候補」として採用したのに、放っておくのはいけません。利益の出し方は会社ごとに文化があり、とにかく利益を出せばいい会社もあれば、リターンが少なくても良いものを作ろうとする会社など、空気感も異なります。企業カルチャーをCEO含め役員から学べるよう、バックアップ体制を整えておくのがいいでしょう。

倉橋:採用段階から、活躍サポートにコミットできるようにしておく必要があるということですね。そうした前提で候補者を探せると、可能性が広がるということですね。

ーーサポートありきというお話でしたが、CxO候補だから自力で頑張ってほしいという考え方もありそうですがいかがでしょうか?

丸山:まだまだそういう考え方の会社が多いのが現状ですね。

倉橋:私自身、「COO候補」としてSmartHRに入社し、一定期間を経て正式にCOOに就任しています。候補期間中は一つの大きな課題を任され、自身でそれと向き合う経験をさせてもらいました。必要に応じてサポートしてもらえたのもありがたかったです。もし、そもそもの課題から自分で見付けにいかなければならない、となっていた場合は大変だったと思います。

丸山:課題が曖昧なまま、CxOを採用してしまっている会社も多いです。その結果、CFO候補なのにほぼCOOの仕事をしている、といった事態もしばしばあります。
一方で、スタートアップのCxOとして働くということは、与えられた問いに対してさまざまな角度から考え、自走することが求められる、ということも候補者側は意識すべきですね。

面接外の場面で候補者の人間性を見極め、経営者のフィロソフィーで惹きつける


ーそうしたハイレイヤー人材を、会社側はどう見極めたらよいのでしょうか?

倉橋:私自身はたくさん面接を重ねる中で、その人の実力・実績・考え方を深ぼっていき、合わせて経営層とのフィット感も確認するようにしています。このぐらいが精一杯なのですがどのようにお考えになられますか?

丸山:付け足すとしたら、ありとあらゆる部分に現れる候補者の人間性を見極められるかでしょうか。たとえば、面接の度に候補者をアテンドしている受付社員がどんな印象を受けたか、面接でCEOが席を外した時の態度はどうか、普段のメールのやりとりに違和感がないかなど、あらゆる場面で、いろんな人の目を通して、その人の本性を見極めることをお勧めします。

加えて面接の中で注意したい点が、いわゆる「あれおれ詐欺」です。あれ(大きな事業)はおれ(自分)が関わったんです、という話があった際は、どのぐらい責任ある仕事を任されていたのか、時系列で細かく聞き明らかにする必要があります。
見極めるポイントは、話を聞いていておもしろいかどうか。リアルな人の話には必ず事件があり、それをリアリティを持って語ってくれるはずです。

ーー需要過多のハイレイヤー採用で、どうすれば優秀な人材を惹きつけられるでしょうか?

丸山:会社のビジョンへの共感以上に大事なのが、経営者自身の魅力です。「何をやるか」よりも「誰とやるか」。実績や条件などで選択に迷っている候補者に「どの経営者のもとで一番働きたいか?」を聞くと、案外すんなり答えが出てくるものです。
そのため経営者は自分自身のフィロソフィーを語り、惹きつけていく必要があります。一方で、会社としてイマイチな部分もしっかりと伝えていくことが肝要です。入ってみて「こんなはずじゃなかった」となるのもよくある話で、すべてが思っていた通りというわけにはいきません。そのギャップを和らげるためにも、経営者として「今こんなことができていない」という課題を候補者に素直に伝えるべきです。

倉橋:そして候補者には課題解決に向けて変革していってほしいですよね。

丸山:採用することが目的でなく、入社後に要として活躍してもらうことが大前提なので、洗いざらい見てもらったうえで「僕がなんとかします」と腹をくくってくれるぐらいの人が会社側としては理想的ですね。

倉橋:とはいえ会社によっては「本当に手が回ってないから、今すぐほしい、多少妥協してでもとにかく採用したい」という場合もあると思います。そのあたりのバランスや条件の緩和についてはどう考えたらよいでしょうか?



丸山:切羽詰まっている時ほど、目先の実績を求めてとにかく「売上を伸ばしてくれそうな人」に飛びついてしまいがちです。しかし、採用において短期的な視点はNGです。能力ももちろん大切ですが、「カルチャーフィット」を最優先にすべきです。ハイレイヤー人材は、共にカルチャーを作っていってくれるポジションですからね。

ーー最後に、今回の対談を経て、改めてハイレイヤー採用で大切にしたいことについて聞かせてください。

倉橋:会社側も候補者側も、真っ向勝負で自分をさらけ出し、本当にフィットする方々とお会いしたいなと思いました。

丸山:採用に「絶対」はありませんので、経験を重ねる中で、やってみたことを必ず検証し、精度を高めていくしかありません。
経営者にとって、採用とは「夢を買う」ことです。この人が来てくれたらこんな会社になるんじゃないか?こんな課題を解決できるのでは?と、その人を通して自分たちのビジョンに向かう「夢」を共に見れるかどうか、を大切にしていただきたいです。

ーー貴重なお話、ありがとうございました。

執筆・編集協力:リスナーズ株式会社
撮影:@houshi(SmartHR)