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人事制度は組織のOS。経営課題に紐づく制度変革を─SmartHR人事制度改定プロジェクトの全容

2024年1月、SmartHRでは人事制度の大幅なアップデートを行いました。
人事制度改定を担当したのは、2023年7月に発足した人事制度ユニット(2024年1月より人事制度部)。約半年をかけたプロジェクトを牽引してきた斎藤優衣さんと、人事管理本部を率いる豊田聡さんにその全容を聞きました。


人事制度、こう変わりました(2024年1月〜)


─まずは今回、人事制度がどう変わったのかを簡単に教えてください。

斎藤:私たちが人事制度と呼んでいるのは、等級、評価、報酬制度の3つを指します。
まず、社内の人材レベルを表す「等級」については、5段階から7段階に増やしました。その際、等級を定義する要素である「個のスキルレベル」と「チームワークのレベル」について、要件の一言一句を経営陣とともに再定義しました。等級のステップを増やしたことに伴い、報酬レンジの見直しも行っています。
評価制度については、会社のバリューを体現した行動ができたかという行動評価と、マネジメント評価の視点を強化しました。具体的には、行動評価の項目を12個から8個に減らし、各項目の評価の付け方も5段階から3段階に変更しました。マネジメント評価は新たに組み込んだ形です。

人事制度改定ポイントのサマリ①等級制度が7等級体系に移行。全社の等級要件を「個のスキルレベル」「チームワークのレベル」で再定義。②報酬制度を7等級体系に合わせて変更。③評価制度にマネジメント評価を組み込む。価値観マッチ・基礎スキルを12項目から8項目にまとめ5段階から3段階尺度へ
SmartHR 2024年人事制度改定(説明資料より抜粋)

─等級を増やした一方で、評価項目と尺度はシンプルにしたんですね。

斎藤:評価尺度は増やす場合も減らす場合もメリット・デメリットがありますが、複雑にすると説明コストが上がることが難点でした。行動評価って、要は社員にベースとして求めていきたいものなのですよね。尺度をシンプルにして「全員ができて当たり前」の状態を目指すことで、全員で事業目標を達成していくことにより集中できる環境にしようと考えました。

豊田:95点の方に96点を目指してもらうことに説明コストを使うより、60点ぐらいの方がみんな80点になるほうが、会社全体で見たときには得られるものが大きいですよね。人は「さらに上」があるとそこを目指したくなり、そちらに意識がいきがちです。でも行動評価を上げるために仕事してるわけではないので、ミッションの達成により集中できる環境をつくりたい。そういう考え方ですね。

オフィスのオープンスペースで机を挟んで奥に座る齋藤さんと、手前に座る豊田さんの写真

経営課題に紐づいた人事制度の変革を


─このタイミングで人事制度改定に踏み切った背景を聞かせてください。

斎藤:SmartHRは、実はかなり早い段階から体系立った人事制度の運用を始めています。100人から300人、300人から1,000人と社員数が増えていくにつれ、制度が会社の規模やフェーズに合わなくなってきているという声はこれまでにも挙がっていました。
そんな中、2023年1月の全社キックオフでCEOの芹澤さんから経営課題が提示され、そこにアラインする人事戦略も必要になってきました。そこで、社員数が1,000人規模になろうというタイミングで人事制度を改定する意思決定がありました。

─経営課題へのアラインという点ではどのような課題があったんでしょうか?

斎藤:一つは育成文化の醸成です。これまでSmartHRは中途採用100%で、即戦力のプレイヤーを中心に採用してきました。個々人が次に上がれるステップがあれば、ひとまず等級の制度はうまく回っていたんです。それが会社のフェーズの変化に伴い、さらに上のステップが必要になってきました。また、新卒採用もスタートし、「即戦力プレイヤーが自律駆動で成長する」の先を考えなければならなくなっています。

もう一つは、将来の経営人材を増やしていくことです。事業拡大に伴い、課題の複雑性が増し、目標もより高くなっています。そんな中、組織を率いてレベルを引き上げることで事業目標を達成していく部門リーダー層から、経営人材を育てて登用していける成長ステップが必要だね、と。
経営人材の登用については、これまでもメンバーの中から行っていたのですが、そこには明確な定義や判断基準がなかったんです。社員数が1,000人を超え、マネージャーに求められる資質や能力は改めて定義づける必要があるなと。同時期にマネジメント育成ユニット(現在はマネジメント育成部)が立ち上がったのもあり、きちんとマネジメント向けの評価指標も取り入れて運用できる状態を構築していくことになりました。

等級のステップを増やしたり、マネジメントの評価軸を新設したりしているのは、この二つの経営課題に向き合った結果でもあります。

オフィスのオープンスペースで椅子にかけて話す齋藤さんの写真
【斎藤 優衣(@satoyu)/人事管理本部 人事制度部 マネージャー】ECサイトを運営する企業で運営ディレクターを中心に幅広い職種を経験し、2019年にSmartHR入社。採用やオンボーディングなど幅広く人事業務を経験し、2024年1月より現職。

人事制度設計のキーワード「破壊と創造」


─2023年7月のチーム発足から2024年1月の新制度スタートまでは半年足らずですね。どのように進めていったのでしょうか?

斎藤:実質的なキックオフは2023年の6月6日で、「プロジェクト全体像の整理」というミーティングを行いました。人事制度チームが立ち上がることは6月時点で見えていたので、まずはプロジェクトのゴールやスコープ、タイムラインについてチームで認識合わせをしています。

このミーティングの参加メンバーは、14人とかなり多かったんですよね。
プロジェクトの中核を担う人事制度チームは私を含め4名ですが、他にも豊田さんと、CEO室というCEO直属でいろんな動きをする部署のメンバー、人事労務研究所のメンバー、マネジメント育成チーム、組織パートナーチーム、それに社外の人事コンサルタントの方もいらっしゃいました。
この時点で、等級・評価・報酬制度という軸や、等級を増やすアイデア、人材育成の方向付けなどについてはすでにアイデアが出ていましたね。

─キックオフからすごく有意義な会だったんですね。プロジェクトを進めるにあたり「破壊と創造」というキーワードがあったと伺いました。この言葉はどういう経緯で生まれたんですか?

豊田:どういう経緯でしたっけ?気がついたら斎藤さんが使ってた気がしますが。

斎藤:はい、私ではあるんですが、もともとは前任のVPoHR 薮田さんの言葉が印象的だったからなんです。薮田さんが退任の際に「人事領域ではそろそろ人事制度を変えなきゃいけないと思うので、破壊と創造をしていってほしい」という言葉を書いていて、そのバトンを受け取った感じですね。

豊田:確かにその言葉、薮田さんっぽいかも。

斎藤:キャッチーなキーワードがあると「やるぞ!」というムードを作りやすいですよね。「人事制度改定プロジェクト」というと、きっちりかっちり固くやっていく印象ですが、「破壊と創造」というと「何かが変わるんだな!?」という期待感が生まれる。不安も一定あったと思いますが、そういうムードが醸成されたのはよかったですね。

オフィスのオープンスペースで机を挟んで奥に座る豊田さんと、手前に座る齋藤さんの写真
【豊田 聡(@So.Toyota)人事管理本部 ダイレクター】2019年より約3年半ほど、業務委託でSmartHRのアジャイルコーチを務める。2023年7月に正社員としてジョインし、以降現職。

─斎藤さんの中では「破壊と創造」をどういうふうに捉えていたんですか?

斎藤:何でも壊せばいいということではなくて、良いところや、守りたいコアな部分は残す。でも変えるべきところはドラスティックに変える、それを怖がらずにやる、そう考えていました。変化に抵抗をおぼえる人は一定数いると思いますが、SmartHRの場合は変化を好意的に受け取ってくれる人が多いので、そこは安心していた部分です。

─守りたいコアな部分と変えるべき部分については、それぞれどのように考えていましたか?

斎藤:少し抽象的な話になりますが、まず制度の透明性はキープしたいと考えていました。SmartHRでは給与レンジや等級要件、評価のロジック、成果給のテーブル、成果給の業績係数の計算式などがすべて公開されています。そういう制度の透明性は変えずにいこうと考えていました。

あとは、自律的に考える余地を残したいというのもありました。
制度って作り込むほど「ルール」と化してしまうんですよね。あらゆることを厳密に定義するほど判断はしやすくなるかもしれませんが、逆に説明コストが上がったり、組織フェーズが変わったときに運用しにくくなったりと綻びが生じやすくなると考えています。そのため、ある程度は各部署に判断を委ねられるよう、抽象度を残すことは大事にしたいと思っていました。

─制度としてどうあるべきかという点でキープしたいことがあったんですね。変えるべきところについてはどうですか?

斎藤:最も明確に変えるべきだったのは、人材の成長ステップという観点から、等級をさらに細かく刻むこと、それから行動評価の項目を減らしてシンプルにすることでした。
削ぎ落とす判断は、難しかったですね。評価項目は、SmartHRの7つのバリューに「チームで働く技術」を加えた8項目にしたんですが、なくすものについて「本当になくして大丈夫か?」という議論と判断はとても慎重に行いました。マネージャーの皆さんにアンケートをとったり、なくした場合のシミュレーションをしたりして、残った項目でカバーできそうか確認していきました。

オフィスのオープンスペースで椅子に座ってジェスチャーを加えながら話す齋藤さん

最難関は「議論の着地」をいかに実行するか


─このプロジェクトの話、とても整理されていて、まるでスムーズに進んだかのように聞こえるのですが、きっとそんなことはないですよね(笑)。

斎藤:そうですね。私自身手探りで進める中、経営や人事の関係者のみなさんから大いにアイディアやフィードバックを頂きながら、プロジェクトそのものの進め方をブラッシュアップし、議論の方向性を定めていきました。特に難しかったのは、どう議論を着地させるかでした。いただいた要望をすべて叶えることはできません。最終的には経営課題である「育成文化の醸成、将来の経営人材を増やす」に立ち戻って決めていくわけですが、納得感を醸成するためにも、60~70人いるマネージャー以上のみなさんの意見を吸い上げたいけれど、全員と議論することは難しい。このジレンマを乗り越えるために、どう意思決定プロセスを整理するか。これは難しかったですね。

─どうやって進めていったんでしょうか?

斎藤:工夫していたのは、議論の過程をオープンに共有していくこと、分科会をうまく機能させることです。課題特定と仮説設計の後、議論から意思決定までは8〜10月にかけて3か月ほどで進めました。この間にCxOの皆さんと90分程度のミーティングを6回ほど行い、月に1回はマネージャー以上のメンバーにサマリーを共有するようにしていました。
議論の着地に向けては、VPの分科会、マネージャーの分科会をそれぞれ開き、そこで意見を吸い上げるようにしていました。各過程で、皆さんと共通認識を作っていくようにしていましたね。

豊田:会議の設計が、斎藤さんはとにかく上手で。たとえば、CxOは他の案件も山ほどあるので、前回の議論を思い出すにも時間がかかるのはよくあることです。それがもうばっちり整理されていて、「ここまでのあらすじがあって今日はここを話したいですね、この先にはこういう話をしていきたいです」と最初に説明されて「ああ、なるほどなるほど」と議論に入っていける。その段取りが抜群でした。

斎藤:CxOの皆さんには期待とともに鋭い指摘もたくさんいただきましたが、「会議の認知負荷が高い」という声を早期にもらって、この負荷を下げるための工夫ができたのはよかったと振り返っています。あとは議論がなるべく空中戦にならないよう、たとえば等級の議論ではペルソナを設定して具体的なイメージを共有するといった工夫をしていましたね。

豊田:人事制度の議論って、現在に焦点を当てるか、未来に焦点を当てるかで矛盾することもあるんですよね。例えば「こういう人は何等級ですか?」と議論を進めていくと、現実ベースで人物像ができて、おのずと決まっていきます。でも「それって目指している7等級とは違うんじゃないですか」という話にもなってくるんです。ここは分けて議論できるよう意識していましたね。

オフィスのオープンスペースで椅子に座ってジェスチャーを加えながら話す豊田さん

斎藤:社内だけで考えていると、どうしても現実寄りの話に陥るんですよね。今後2,000人、3,000人規模の会社になったときにどうあるべきかと逆算で考えるには、易きに流れない客観的な視点が大事になってきます。これについては、長年コミットしてくださっている人事コンサルの方と定例ミーティングを持って、私たちだけでは抜けてしまう視点についてフィードバックをいただきながら進めていきました。

─外部の方とのやりとりも意義あるものにしていくには何かコツがあるんでしょうか?

豊田:斎藤さんの定例ミーティングの設計がうまかったと思いますね。基本的に1週間単位で回していくんです。人事コンサルの方に見ていただく日が火曜日に設定されていて、そこまでに、1週間分の進捗を出す、その都度途中のものを見てもらって意見をもらう、というのをずっと繰り返していました。ある程度形にしてからフィードバックをもらおうと思うと手戻りが大きくなるので、途中でもいいから見せて意見をいただくようにしていましたね。

─進め方がすごくスクラムっぽいですね。

豊田:そうですね。僕からはスクラムの考え方は伝えますが、それをどう取り入れるかはその人の自由で、今回斎藤さんはとてもうまく取り入れていましたね。

斎藤:どう進めていくか、豊田さんにはかなり密に相談に乗っていただきました。この方法をとってすごく良かったなと今でも思っていますね。
今日は私がお話ししていて、なんだか私が全部やったみたいになってますけど(笑)、もちろんチームで進めていて。私自身が手を動かしたところもありますが、等級・評価・報酬とチームメンバーで分担して、1週間単位で進めてお互いにレビューをして、外部コンサルの方が参加する定例に持っていく。そしてチーム、人事、CxOに共有していくという細かいプロセスを作っていきました。

スクラムを取り入れることができたのは、チームとしても学びが多かったです。今回、いちメンバーでも、自分の担当領域はCxOとの議論で責任をもってファシリテーションしてもらうようにしていました。自分が作ったものに対してCxOから鋭い意見をもらうと、気持ち的にはちょっとうっとなることもあったと思いますが、それは成長機会でもあるので。怖がらずに受け止めるために、チームで互いにフィードバックしあう文化を作れたのがよかったと思います。

オフィスのオープンスペースで机を挟んで奥に座る齋藤さんと、手前に座る豊田さんの写真

人事制度は組織のOS。OSのアップデートで全社の変化を生み出していく


─お話を聞いていると、SmartHRでは経営課題に人事が紐づいていることを大事にしていると伝わってきます。一方で、ある程度制度が固まっているような会社では、人事というと制度の管理や運用が中心で、経営と紐づいた実感が持てないケースもあるかもしれません。お二人はどう思いますか?

豊田:人事の中でどんな専門性の仕事であっても、経営戦略とまったく結びつかない仕事はないはずです。ただ、組織によっては、何のためにやってるんだっけというWhyの部分を知りたくても知ることができず、その意識を持てないケースはあるのかもしれません。SmartHRは、知りたい情報はすぐに得られるよう情報のオープンさが担保されていますし、発信も活発です。経営側も、経営戦略を達成するのに人事が大事だというメッセージはしっかり出してくれていて、期待値も高いと感じますね。

斎藤:私、芹澤さんが言う「人事制度は組織のOS」という表現がすごく好きなんです。私自身、人事制度だけで何かが達成できるとは実は思っていなくて、大事なのは制度をどう使いこなすのか、制度を使ってどうマネジメントするかに委ねられる部分がとても大きいと感じています。だからこそ、OSをアップデートしたら全体にいい変化が生まれる、その最初の部分を作れるのが人事制度設計なのかなと思っています。

また人事のキャリアを積むという個人の視点でも、経営陣の皆さんとまさに膝を突き合わせて議論を重ねてきたこの経験は、なかなか得られない貴重なものでした。SmartHRでは、管理職ではなくいちメンバーであっても、自分が作ったものを責任を持ってCxOに説明して、直接議論ができる。すごく鍛えられましたね。

─1月から新制度が始まって1か月あまりですが、これからの動きについてはどのように見ていますか?

豊田:今はまだ、新制度があるだけ、なんですよね。これからの人事各所の連携と運用が大事ですね。
新制度の運用は正しく行われているか組織パートナーと連携して確認し、必要なら制度部が入ってサポートしていく動きも発生します。マネジメントの評価も、定義した条件でちゃんと評価がなされていくか、これはマネジメント育成部に見ていってもらいたいことです。採用との連携もありますし。各所との連携が密に機能している状態を作って、会社全体に浸透させていくフェーズに入っていきます。

斎藤:人事制度の改定も、これで終わりではなく今後も改定の時期は訪れると考えています。今回改定した制度は本当に実効性があるのか、今後モニタリングしていきますが、ここをもっとこうしたほうがいいよねとか、次の組織フェーズだとこうしたいよね、というのが必ず出てくるはずです。
「制度は作った瞬間に古くなる」とよく言われますが、プロダクトも制度も、リリースしたらフィードバックして改善していく作業はずっと続けることになります。改善なのか、もっと大きな変革になるのかわかりませんが、次の制度改定は、今回の改定を経験したメンバーと、新しく入ってきてくださるメンバーとが入り混じって、より多様性のある強いチームになっていくといいですね。

オフィスのフリースペースで並んで立っている齋藤さん(左)と豊田さん(右)

今回インタビューに登場した豊田さんも登壇し、SmartHRの人事戦略についてお話しするイベントを4月2日に開催予定です。お気軽にご視聴ください!

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インタビュー・文:伊藤 宏子
撮影:@4hu(SmartHR)