今後期待される低軌道衛星通信について
皆さん、こんにちは!つながる東京推進課です。都では、あらゆる人、モノがいつでも、誰でも、どこでも、何があってもネットワークにつながる通信環境を目指しています。
今回は、「つながる東京」実現の重要な要素となる衛星通信をテーマに、近年注目されている「低軌道衛星」について、ご紹介させていただきます。
1.低軌道衛星と静止衛星
① 低軌道衛星(Low Earth Orbit, LEO)
低軌道衛星(LEO)は、地球の周囲を低い軌道で回る人工衛星の集合体であり、高度約2,000 km以下で運用されています。これらの衛星は高速で安定したインターネット接続を提供することができます。
(出典)株式会社TD衛星通信システム「通信衛星の種類 – 低軌道衛星」
② 静止衛星(Geostationary Earth Orbit, GEO)
地上から見ると衛星がいつも同じ位置に止まって見える人工衛星のことを言います。静止衛星の場合、衛星3~4機でほぼ地球全体をカバーできます。衛星放送や、これまで実用化されてきた低速の衛星通信の多くは静止衛星による通信システムです。
(出典)総務省「電波利用ホームページ」
(出典)
日本電信電話株式会社(NTT)「5G evolution & 6Gに向けたNTTドコモの取組(NTTジャーナル記事)」
2.低軌道衛星と静止衛星の比較
(出典)
・株式会社TD衛星通信システム「通信衛星の種類 – 低軌道衛星」
・国際社会経済研究所(IISE)「【図解コラム】スターリンクで注目の「衛星コンステレーション」メカニズムを解説(note記事)」
3.低軌道衛星の国内動向
現在、地上で電波がつながらない通信困難地域(圏外エリア)は世界中に存在します。日本でも山間部や島しょ地域、海上など、地上通信で必要な光ファイバー回線や電源ケーブルを敷設するのが困難で携帯電波がつながらない地域は多くあります。
低軌道衛星の通信はそんな課題を解決する、地球上のどこでも空への視界さえ確保されれば通信を可能にするサービスです。
静止衛星サービスとStarlinkやOneWeb、Project Kuiperといった新たに開発されている低軌道衛星を利用したサービスとの違いは、通信の「遅延時間」・「通信速度」です。
これまでの衛星通信は高度約3万6,000kmを周回する静止衛星を利用しています。静止衛星は地上から見て常に同じ位置にあり、特定の地域に対して継続的で安定したサービスを提供でき、さらに広範囲にわたる通信ネットワークを比較的少数の衛星で提供することが可能です。しかし、地上と静止衛星との距離が遠いため0.6秒以上の遅延が発生します。これに対しStarlinkなどの低軌道衛星は高度2,000km以下であり、地球と衛星との距離が近いため、通信の遅延時間が短縮されます。
一方、低軌道衛星は地球を周回しており、様々な国の上空を通過するため、地上にあるアンテナと低軌道衛星が通信できる時間は短くなります。また、一基あたりの通信可能なエリアも狭いというデメリットもあります。しかし、衛星を多数打ち上げてそれぞれを連携させることで、これらの課題を解決しました。よって、高速インターネットやリアルタイム通信に適した通信サービスを提供することができるようになりました。
4.低軌道衛星の比較表
※WEB情報及び通信事業者様へのヒアリングより作成
(出典)
・ソフトバンク株式会社「世界中に通信ネットワークをつなぐ ソフトバンクのNTN」
・日本電信電話株式会社(NTT)「Amazon の Project Kuiper と NTT、スカパーJSAT、戦略的協業に合意」
・KDDI株式会社「【KDDI】Starlink Business」
・SpaceX「Starlink」
・楽天モバイル株式会社「AST SpaceMobileとの衛星と携帯の直接通信による国内サービスを2026年内に提供を目指す計画を発表」
5.各低軌道衛星の特徴
① Starlinkについて
Starlink(スターリンク)は、アメリカに本社を置くSpace Exploration Technologies(SpaceX)が運営する衛星コンステレーション※1です。アンテナを設置するだけで、固定回線や携帯電話ネットワークが整備されていない山間部や海上などで高速なインターネットが利用できます。通信速度は、下り最大220Mbps、上り最大25Mbps。遅延も20~50msほどと短く、ビデオ通話や動画視聴も快適に利用できます。
また、ビジネス向けの「Starlink Business」も提供されており、国内ではKDDIやソフトバンク、NTTドコモがSpaceXと提携し、Starlink Businessを活用した企業・自治体向け事業継続計画(BCP)ソリューション、船舶向け、山小屋や山間部の建設現場向けのデジタル化ソリューションなどを展開しています。
(出典)
・SpaceX「Starlink」
・国際社会経済研究所(IISE)「OneWeb、Project Kuiper、中国政府……スターリンク以外の衛星コンステレーションの動向(note記事)」
② OneWebについて
OneWeb(ワンウェブ)は、英ロンドンに本社を置くEutelsat OneWeb(ユーテルサット・ワンウェブ)が運営する衛星コンステレーション※1です。OneWebは高度1,200kmにある12の極軌道上に衛星を打ち上げ、通信サービスを提供しています。静止衛星よりも地球に近い低軌道に多くの衛星を打ち上げることで、従来の静止衛星通信と比較して高速かつ低遅延の通信が可能となっています。通信速度は、下り最大195Mbps/上り最大32Mbpsという高速通信と静止衛星の約10分の1という低遅延通信となっています。
また、既定の通信速度を保証する帯域保証サービスや、セキュアな閉域網で通信が可能です。
(出典)
・ソフトバンク株式会社「ソフトバンクとOneWeb、日本における衛星通信サービスの展開に向けて販売パートナー契約を締結」
・ソフトバンク株式会社「ソフトバンクとOneWeb、日本およびグローバルでの衛星通信サービスなどの展開に向けた協業に合意」
③ Project Kuiperについて
Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)は、米Amazon.comが設計・構築・運営を進めている低軌道の衛星コンステレーション※1です。計画では3,236基の衛星を打ち上げ、うち半数を2026年7月までに配備する予定です。2023年10月には最初の試験衛星2機の打ち上げ、さらに12月には2基の間で光通信のデモンストレーションも複数回成功しています。
Project Kuiperでは地上と衛星の間だけではなく、衛星同士でレーザーによる光通信の網の目構成(メッシュネットワーク※2)を形成し、高速かつ大容量、低遅延のデータ送信を実現させる計画となっています。
(出典)
日本電信電話株式会社(NTT)「Amazon の Project Kuiper と NTT、スカパーJSAT、戦略的協業に合意」
④ AST SpaceMobileについて
テキサスに本社を置くAST SpaceMobile社は、既存のスマートフォンで直接通信可能な世界中で使える携帯及び高速インターネット網を宇宙に構築しています。このサービスは、電波強度を強くする仕組み(フェーズドアレイ※3)を持たせた大型低軌道衛星のコンステレーション※1を使用し、地上の携帯電話のエリア外にいるユーザーに高速インターネットを提供されています。日本でのサービス開始は、2026年予定となっています。
2019年4月1日に最初の試験衛星「BlueWalker 1」を打ち上げ、2022年9月10日に「BlueWalker 3」を打ち上げました。2023年には、既存スマートフォンでの双方向音声通話、下り最大14Mbpsのダウンロード速度、ビデオ通話を実現しています。
(出典)
・楽天モバイル株式会社「楽天、米AST & Science社へ出資し、戦略的パートナーシップを締結」
・楽天モバイル株式会社「楽天モバイルと米AST SpaceMobile、世界初となる低軌道衛星と市販スマートフォンの直接通信試験による音声通話に成功」
・楽天モバイル株式会社「楽天モバイル、AST SpaceMobileとの衛星と携帯の直接通信による国内サービスを2026年内に提供を目指す計画を発表」
6.最後に
現在、山間部・島しょ地域及び海上船舶など通信困難が解消されない地域等を対象に、民間の衛星通信サービスを活用した検証を行い、継続的かつ安定した通信環境の確保に向けた取組を推進しています。
都は、こうした基地局の整備が難しい場所に対し、今回ご紹介した低軌道衛星などの新たな通信手段の活用も視野に入れ検討していきます。
今後も本noteにて衛星通信活用事業の取組をご紹介しますので、お楽しみに!