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学園ミステリーのシリーズ(彼や彼女は、無事に卒業できるのか...)

School mystery


 中学時代、”赤川次郎” さんのミステリーで育った自分としては、中高生が主人公で活躍する「学園ミステリー」は、この歳になって読む気恥ずかしさがありながらも、ついつい読んでしまうジャンルだったりします。

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 作家さんたちにとっては、主人公が自分の年齢に近い方が書きやすいのか、「学園ミステリー」(特にシリーズとなる作品)は、デビュー時や、キャリア初期の頃に執筆される傾向が見られます。

 ただ、年数を経て、作家生活が成熟してきて、いろんなジャンルの作品を書くようになると、キャリア初期に立ち上げたシリーズを置き去りにしてしまうことも...

 高校生活というのは3年という期限があるので、シリーズの中で3年が経ってしまえば完結になると思うのですが、あまり、卒業まで描かれたシリーズはないように思えます。

 今回は、そんな「学園ミステリー」のシリーズ作品について ”note” していこうと思います。 



相沢沙呼さんの「酉乃初の事件簿シリーズ」

 2019年刊行の『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』が話題となった相沢沙呼さんですが、そのデビュー作となった『午前零時のサンドリヨン』。
 一応、「酉乃初の事件簿シリーズ」と言われるシリーズなのです。

午前零時のサンドリヨン(2009年)短編集
ロートケプシェン、こっちにおいで(2011年)短編集

 短編集のシリーズなんで、読みやすいのですが、シリーズという割に2冊しか出ていません。
 美貌のマジシャンってとこは、泡坂妻夫の「曾我佳城シリーズ」へのリスペクトが感じられて好きなシリーズです。
 相沢沙呼さんの描く女性探偵は、少しクセがあっても魅力的なのです。

 シリーズ中では、1年ぐらいしか経ってなくて、まだまだ高校生活を残してるのですが、2011年以降、残念ながら続編は出てないままです。 


 ポチこと須川くんが、高校入学後に一目惚れしたクラスメイトの女の子。
 他人を寄せ付けない雰囲気を纏っている酉乃初は、実は凄腕のマジシャンだった。
 放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』でマジックの腕を磨く彼女は、学校で起こった不思議な事件を、抜群のマジックテクニックを駆使して鮮やかに解決してみせる。



青崎有吾さんの「裏染天馬シリーズ」

 シリーズの第1作『体育館の殺人』がデビュー作となります。
 その後の続編も『水族館~』『図書館~』と続くので、某「館」シリーズのパロディっぽいのですが、実は、意外と王道のミステリーです。

体育館の殺人(2012年)
水族館の殺人(2013年)
風ヶ丘五十円玉祭りの謎(2014年)短編集
図書館の殺人(2016年)

 風変わりな探偵はアニメおたくのダメ人間... でも、抜群の推理能力を持ってるみたいな設定で、軽いのは軽いんですが、”おっ”と思わせる展開もあって楽しいシリーズなのです。
 シリーズの中では、1年経ってない状況なので、まだまだ話がありそうなのですが、前巻からはすでに5年が経過...   途絶が危ぶまれましたが、昨年、久しぶりに、シリーズ短編が発表されたので、もう少し、続けてもらえそうな感じです。


 風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。
 密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚乃は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間に―。



初野晴さんの「<ハルチカ>シリーズ」

 高校の吹奏楽部を舞台とした学園ミステリーです。
 主人公たちが、廃部寸前の吹奏楽部を立て直していくために、1人、また1人と仲間を増やしながらコンクールを目指すという、少年漫画的「熱血青春ストーリー」と並行して、主人公たちの周りで起きる日常の事件を解決するミステリーとなっています。

退出ゲーム(2008年)短編集
初恋ソムリエ(2009年)短編集
空想オルガン(2010年)短編集
千年ジュリエット(2012年)短編集
惑星カロン(2015年)短編集
ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇(2017年)短編集

 これまで本編5冊、番外編が1冊刊行されています。
 吹奏楽部員の各々が個性的で、顧問の先生には謎があったりと、ミステリー部分よりも学園ドラマの方が面白いシリーズです。
 シリーズのクライマックスは主人公たちが3年生となった全国コンクールあたりだと思われるのですが、シリーズの中では、主人公たちが2年に進級した1学期あたりまでが描かれています。

 アニメ化や映画化もされた人気作なのですが、残念ながら、現在、著者の初野先生は作家活動を停止してるみたいです。
 何篇か未収録のシリーズ作品もあるので、いつの日か、復活していただけるのを期待しているのです。


 穂村チカ、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。
 上条ハルタ、チカの幼なじみのホルン奏者。
 音楽教師・草壁先生の指導のもと、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見る2人に、難題がふりかかる。化学部から盗まれた劇薬の行方、六面全部が白いルービックキューブの謎、演劇部との即興劇対決…。



米澤穂信さんの「<古典部>シリーズ」と「<小市民>シリーズ」

 さて、最後に紹介するのは米澤穂信さんの2つのシリーズ。 
 米澤穂信さんは、ミステリー作家としては、もう中堅として人気・実力を兼ね備えた作家さんですよね。
 様々なタイプの作品を発表していて、ちょっと怖い短編集『満願』や、ネパールを舞台とした硬派なミステリー『王とサーカス』なども話題になりました。
 そんな米澤先生が、キャリア初期から書いている日常の謎をテーマにした「学園ミステリー」のシリーズが2つあります。


「<古典部>シリーズ」

 デビュー作となる『氷菓』は、高校の「古典部」に入部した4人が、学校生活に隠された謎を追いかけるシリーズで、後に漫画化やアニメ化もされるほどの人気で、通称「<古典部>シリーズ」と呼ばれています。

氷菓(2001年)
愚者のエンドロール(2002年)
クドリャフカの順番 (2005年)
遠まわりする雛(2007年):短編集
ふたりの距離の概算(2010年)
いまさら翼といわれても(2016年):短編集

 部員4人の関係性も気になるところなのですが、刊行ペースの方は00年代は順調だったのに、前作は6年ぶり、その後も6年経過という感じで、ちょっと途絶が心配されるシリーズなのです。
 シリーズの時系列では、主人公たちは、まだ、高校2年生なので、あと1学年分の話が残っているはずなのですが...


 いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。
 あるはずの文集をないと言い張る少年。
 そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実──。
 何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。



「<小市民>シリーズ」

 このシリーズの主人公は類まれな推理力を持っているのですが、中学の頃に様々な事件を解決したことにより恨みや反発を買ってしまい、高校では探偵としての能力を隠し、目立たず<小市民>として暮らしていこうとしている人物です。
 そして、もう一人、同様の境遇のヒロインがいるのですが、この二人が、人知れず、小市民としての互恵関係を結びながら、時々、学校で起きる事件に関係していくシリーズです。

 「<古典部>シリーズ」が、王道の「学園ミステリー」とするならば、こちらのシリーズは、ちょっと変化球多めの非青春「学園ミステリー」で、片山若子さんの可愛い表紙絵とは違って、けっこうビターな展開があるのもシリーズの特徴です。
 ...と、いっても、無類のスウイーツ好きであるヒロインのおかげで、タイトルだけでなく、たくさんのスウイーツが登場するとこが楽しいのです。

 このシリーズは、これまでに長編3冊と、短編集1冊が刊行されています。

春期限定いちごタルト事件(2004年)
夏期限定トロピカルパフェ事件(2006年)
秋期限定栗きんとん事件(2009年)
巴里マカロンの謎(2020年)短編集

 刊行年を見るとわかるのですが、このシリーズは「春期」→「夏期」→「秋期」と続いてきて、最後に「冬期」で終わる予定とされていたのですが、秋期の後、シリーズが途絶...

 昨年、11年ぶりの新作が刊行されたのですが、サイクルからは外れた短編集でした。

 「秋期」の時点で3年生の秋だったので、こちらは卒業にリーチがかかった状況なので、「冬期」で終わることは間違いないのですが、いつ刊行される事か.... 
 まあ、読者の期待が高まる分、完結編にはプレッシャーがかかっているとは思うのですが...


 小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。
 それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。
 名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?

 


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 20代の頃から読んでるシリーズもあるのですが、気が付けば、自分も50代になってたりするので、そろそろ、手に取るのは気恥ずかしい部分があるのはしょうがないですよね。

 ただ、長く読んでいると、シリーズのキャラたちにも愛着がわいてきたりしてるので、ぜひ、卒業の様子も読ませてもらえればと思うのです。

 できれば、おじいさんになる前に....