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水を眺めていて思い出した小説(池澤夏樹の「スティル・ライフ」)

 STILL LIFE


 休日のこと、喉が渇いたので水を飲んでいると、テーブルに置いた水が光を反射しながら揺れていました。

 そんな様子を見ながら思い出したのが、池澤夏樹さんの小説「スティル・ライフ」の一説。


 コップの水を見ている友人に主人公が何してんのと尋ねると

「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」

「何?」

「チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると、光が出る。それが見えないかと思って... 」


 印象的なやりとりなんですよね。
 チェレンコフ光っていうのは、宇宙から降り注ぐニュートリノ等が水の中の電子に衝突した際に放出される光のことなんです。

 この本は、1987年下半期の芥川賞に選出されてるので、多分、自分が読んでから30年以上経ってるはずなんですが、ふとしたことで思い出すんだから、自分にとっても相当印象的だったんでしょうね。

 思い出しちゃうと、無性に再読したくなるもので、買いに行ったけど本屋には見当たらない...
 古書店でようやく見つけて購入したのですが、短い物語なので、すぐに読み上げてしまいました。


 静物画を意味する「STILL LIFE」というタイトル通り、静かで淡々としたした物語なんですよね。
 20歳前後だった当時の自分にとっては、その刺激の少なさに退屈した記憶もあるのですが、今回再読してみると、この静かさが心地よかったりしたのです。


 ある日、ぼくの前に佐々井が現れてから、ぼくの世界を見る視線は変わっていった。
 ぼくは彼が語る宇宙や微粒子の話に熱中する。
 佐々井が消えるように去った後も、ぼくは彼を、遥か彼方に光る微小な天体のように感じるのだ_____


 この本の刊行時期は、チェレンコフ光を感知する装置 ”カミオカンデ” によって、史上初めて、太陽系外で発生したニュートリノを観測したということが話題になった頃だったので、この小説の背景には、その偉業があったのだと思います。

 その後、 ”カミオカンデ” の監督者であった小柴昌俊博士がノーベル物理学賞を受賞したり、高性能化した ”スーパーカミオカンデ” が運用されたり、さらにさらに、現在は ”ハイパーカミオカンデ” の建設が進んでるなんて、なんかロマンがあるんですよね。

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 この ”カミオカンデ” 関連のニュースを聴くと、なんかワクワクする自分がいるんです。


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 ほんとにコップの水の中でチェレンコフ光を見出せるのかは分かりませんが、宇宙とのつながりを求めて、水を眺めてるってのは、まんざらでもないのです。

 静かな休日を過ごしたい時に、池澤夏樹さんの「スティル・ライフ」はお薦めの本なんですよね。