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山本文緒さん追悼:『紙婚式』の想い出


 "note" の中でも、多くの方が追悼記事を書かれていますが、作家:山本文緒さんの訃報は、ちょっとショックでした。



 

 山本文緒さんの経歴については言うまでもないですが、昨年、『自転しながら公転する』で、久しぶりに新作をリリースされて、また、これからたくさんの作品を世に出していくのだろうと思ってた矢先だっただけに、とても残念なのです。

("note" の中には、そのときのご本人の記事も残っていますね。)


 いろんな方の追悼記事にもコメントさせてもらったのですが、自分にとっても、印象深い作品を紹介して、追悼とさせてもらおうと思います。


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 自分にとって、特に印象深いのは、初めて読んだ山本文緒作品で、『紙婚式』という短編集なんです。

 一緒に暮らして十年、小綺麗なマンションに住み、互いの生活に干渉せず、家計も完全に別々、という夫と妻。傍目には羨ましがられるような二人の関係は、夫の何気ない一言で裂けた。一緒にいるのに満たされない、変化のない日常となってしまった結婚のやるせなさ、微かな絆に求めてしまう、そら恐ろしさ。
 表題作「紙婚式」ほか、結婚のなかで手さぐりあう男女の繊細な心の彩を描いた、新直木賞作家の珠玉短編集。


 読むきっかけとなったのは、職場の同僚との本交換なんです。

 職場の同僚の中に、読書好きが何人かいて、ある日、お互いに面白いと思う本を貸しあいこしてみようって話になったんですよね。

 こう、一人だと、読書する傾向やジャンルが硬直化してくるじゃないですか、それで、新しい本との出会いの場として、交換してみたら面白いんじゃないかと...

 そして、その中の1人が貸してくれたのが、山本文緒さんの『あなたには帰る家がある』と『プラナリア』、『紙婚式』だったわけなのです。


 当時は、あまり聞いたことのない作家さんだったし、SFやミステリーばかりの自分なんで、多分、手に取らない作家さんだったと思うんですが、読んでみたら、ちょっとハマっちゃったんですよね。


 様々な夫婦を描いた短編集だったのですが、一言で言うと

 一筋縄ではいかない本でした。


 見た目の印象とはかなり違ってたんですよね。
 決して、ホラーではないんですが、ちょっと怖かったし..
 平凡で、普通の夫婦のように見えるけど、ちっとも平凡じゃない...

 いや、むしろ、平凡や普通って「ものさし」自体が幻想なんじゃないかと考えさせられたんですよね~。
 感動ものかと思っていたら、そこにはミステリーやサスペンスがあって、これが山本文緒流なのかと思ったのです。


 続けて読んだ『あなたには帰る家がある』や『プラナリア』も面白かったのですが、まだ、山本文緒作品への心構えのなかった段階で読んだ『紙婚式』に不意を突かれてしまったわけなのです。

 


 その後も、山本作品を時々読むようになるわけなのですが、山本文緒さんって、ハッピーエンドとか、結論じみた結末にはしないんですよね。
 なんか、最後、平気で読者に放り投げたりするんです。

 いろいろうまく行かない事ばかりだけど、そんなもんよね。みたいな感じです。

 それを諦観と見るかは人それぞれなんですが、自分的には、何かを決めつけない山本文緒さんの温かさも感じていたのです。


 もう、山本文緒さんの新作が読めないのは悲しい事なのですが、まだ、読み残してる作品がいくつかあるので、時々、山本文緒流の、べたべたしない温もりを思い出すように、読んでいきたいと思います。