夏からの時間旅行(2)

読書は、旅をすることに似ている。
作者の目や手を通して紡がれる、よく考えられた世界を、思考を頼りに巡り歩く。
最初のページをめくってから、奥書をあとに本を閉じるまでの、ひとときの非日常体験ー

前回の『夏への扉』からの流れで、偕成社文庫の『タイムマシン』(H.G.ウェルズ作/雨沢 泰訳)に手を伸ばしてみた。

時間旅行物の原点の古典SF。ゴージャスなタイプライターみたいなマシンに乗った人のスチール写真は子供の頃から見知っていたが、映画は未見。小説を読むのも今回が初めて。

主人公が訪れた、二分化された階級社会の未来世界での体験談。心踊る冒険のジュブナイル小説を想定していたが…違った。

子供の頃に読んでいたら、タイルトラベラーの行動にハラハラし、冒険譚として楽しめたかもしれない。しかし、大人の感性で接すると、主人公の身勝手さが気になった。過去からの訪問者が、我が身を守るためとはいえ、結構なことをしでかしてますわ。描かれた世界観から、民族扮装には至らなそうだが、(おいおい…)と突っ込みはいれたくなった。
それはさておき、地球が朽ちていくさまを見守る虚無感は、わび・さびの境地。
突っ込みどころは多々あれど、この作品が現代まで与え続ける影響には納得した。

それにしても。
タイムトラベラーは、今頃、どんな時代の様子を観察しているだろうか。

なお、今回手にした偕成社文庫は、ふりがなの付け方等、大人が読んでも遜色無い作りで親しみやすかった。

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