猫につままれた、些細な偶然

読書は、旅をすることに似ている。作者の目や手を通して紡がれる、よく考えられた世界を、思考を頼りに巡り歩く。最初のページをめくってから、奥書をあとに本を閉じるまでの、ひとときの非日常体験─

柳 広司 著 角川文庫刊『漱石先生の事件簿 猫の巻』読了。
夏目漱石の『吾輩は猫である』を典拠にしたミステリー。あとがきで著者自身が記しているとおり、『吾輩は猫である』は、書き出しの部分は強烈に覚えているが、内容となると正直あまり覚えていない。一度くらいは読んだと思うのだが…
ただ、最後の部分は記憶があったので、それに倣うと本書の最終話「春風影裏に猫が家出する」は・・・と、ハラハラした。

読後の感想は一言。巻末の解説で田中芳樹が述べているが、よくできたパスティーシュであった。

ところで。読み終えて奥書に目をやれば、この文庫版の初版発行日は、平成22年11月25日─なんと、ちょうど十年前。一瞬、照れ隠しに身繕いをする猫の姿が脳裏を過ぎった。

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