見出し画像

食と農と環境の未来を、土と肥料と微生物の専門家から学ぶ vol.2

80億人を超える世界人口に温暖化、一向にあがる気配のない国内の食料自給率。そんな簡単に答えの出ない問題に、人間の歴史と暮らしに深く関わる3つの学問からアプローチするこの講座。

・農業の土台であり、森林減少や地球温暖化とも密接に関わる土壌学
・人口増加を支えてきた化学肥料に関わる肥料学、植物栄養学
・環境負荷の低い自然栽培の可能性を示す植物生態学

それぞれの学問の専門家の話を聞き、自然の土壌を観察しながら「未来」を考える。そんなスモールファーマーズの「新たな学び」の現場をレポートします。

2023年・スモールファーマーズ春季集中講座 |第2回:
化学肥料の専門家から有機農業はどうあるべきかについて学び、考える。

間藤 徹(まとう とおる)先生
京都大学名誉教授、元日本土壌肥料学会会長、近畿土壌医の会会長。専門は植物の栄養に関する研究。 京都市内の農業者の土壌診断や指導など現場における土づくりにも造詣が深い。

間藤 徹 先生

肥料の意味を考える

「農業の基礎である土壌について、自然にできる土を観察することで学び、考える」春季集中講座の第2回目。
「化学肥料の権化です」と、茶目っ気たっぷりに自己紹介されるのは、植物と栄養との関係を40年以上にわたって研究されてきた間藤先生。

「わたしたちが食べているものを辿っていくと、土に辿り着きます。その中でも特に土に生える作物、それを餌にしている動物という関係を踏まえ、植物が何を餌にしているかを知ることは、とても重要です。それを知って、そこから“肥料の意味”を考えてほしい」

そう話される先生の言葉を聞きながら、植物に必要な17の栄養素、動物に必要な21の栄養素、それらの関係性を元素周期表で確認。土に生える植物が何を食べ、動物であるわたしたちが植物から何を得て生きているのか見直すとろことから話は始まっていきました。


窒素、その歴史と今を知る

「人間にはタンパク質をつくる力がない。だから植物にやってもらう必要があるんです。そのためにも、アンモニア態窒素をタンパク質に変えることが、農業のひとつの大きな機能だとも言えます」

人間に必要な5大栄養素のひとつであるタンパク質。
植物は根からアンモニアや硝酸態の窒素を吸収し、ブドウ糖とむすび付きタンパク質をつくっていきます。そして、80億人の人口が必要とするタンパク質から換算する窒素量は、年間2000万トン。更にトウモロコシや小麦、米、大豆などの主要な作物の窒素・約6000万トンを得るために、年間で約1億トンを超える窒素肥料が撒かれている、と先生の話は続きます。

「自然界の循環で土の中に固定される窒素は1億トン。そして今、人間が工業的に固定する窒素の量は、自然界の循環量を越え、1.2億トンになりました」

間藤先生から繰り出されるこの数字の大きさに、受講生の間に啞然とした空気が広がります。

かつて産業革命がもたらした文明発展と人口増加で、自然界がもたらす循環だけでは窒素が不足。人口増加による食糧危機が叫ばれた19世紀末を経て、化学肥料が誕生しました。そし20世紀初頭には、「空気からパンを作る」とも言われた、大気中の窒素ガスからアンモニア合成する「ハーバー・ボッシュ法」が登場。
その後も続々と増え続けている世界の人口を、窒素肥料は確かに支え続けてきたのです。

ではこれからも、80億人の食を支えるために人間は更に多くの窒素肥料を使い続けるのでしょうか?
プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)では窒素とリン、特に窒素は地球の持続可能な限界を超えていると言われ、工業的に土に固定された窒素は自然生態系に流れ、温室効果ガスの排出や、河川や海の富栄養化をもらたしていると言います。果たして…。
そんなハテナで頭をいっぱいにしていると、間藤先生の声が聞こえました。

「だからこそ、化学肥料を減らす方法を考えてほしいんです」


新しい「出口」を探して

SDGsを考えるにあたって重要なのは「化学肥料を減らす」こと。そのために有機農法や自然栽培という手段も考えられ、化学肥料と同じくらいに効果のある有機肥料もあるのだと先生は話されます。ところが資材が海外から輸入されている背景や、効果を出すための投入量の多さにジレンマも。

「じゃあ、堆肥だという話にもなりますが、牛糞堆肥など、リサイクル堆肥をつくろとすると、好気性開放系なので大気中にアンモニウムイオンが出ていきやすいんです。
一方で、乳牛の排泄物を嫌気的発酵をすることで、二酸化炭素、メタン、アンモニウムイオン、が逃さないで消化液を肥料として用いる試みがされています。でもこの方法も費用もかかるため、ベストであるかどうかは分からない。

しかしSDGsもプラネタリーバウンダリーも、こういったことを理解することからなんです。それと母材。その土地に元々ある土、その母材にどんな栄養素が含まれているのか。土がどんな状態であるか、それを知ることです」

既にあるものを知ること。やれば良いというものではなく、“使い方”を知ることだ、と先生は言います。

先生の話で思い起こされる、1回目講座の土壌断面と母材

そんな先生のスライドにの中に、今日の話を象徴する先生からのメッセージがありました。

『わたしたちの生命は有限な地球の上にある。
窒素やリン酸の過剰な使用は、食料を作るためであっても、地球環境に大きな負担となる。
排泄物や生ごみに含まれる窒素やリン酸を、もう一度肥料として利用して、化学肥料を減らそう。
それは石油石炭天然ガスの使用量を減らすこと(低炭素)にもつながる。
この活動のゴールは、堆肥やリサイクル肥料の消費が増えて、化学肥料の生産量が減ることである』

植物にとって、ひいては人間にとって欠かすことのできない窒素。その窒素が来た道、行く道に人間は「食と農」を通して大きく関わってきました。
近頃では農林水産省が「みどりの食料システム戦略」を掲げ、2050年までに化学農薬50%低減、化学肥料20%低減、有機農業の取組面積を25%・100万haに拡大、という目標数値もよく見聞きするようになりました。

化学肥料が人類の食と農を支えてきた歴史。その出口に向かって、世界も日本も動いています。では自分は?わたしはどんな答えを見つけられるんだろう?そんなことを思いながら、第二回目の講座を聞き終えたのでした。

会場となった京都大学旧演習林事務室

レポートする人
今井幸世さん

2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。


NPO法人スモールファーマーズでは、農を通してより良い世界をつくる活動に共感いただける「仲間」を募集しています。
ご自分のペースで、ゆっくりゆる~く関わっていただけたらと思います!

Small Farmersサポートメンバー

NPO法人スモールファーマーズ公式ライン

この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?