キリが良い

 11月29日が誕生日なせいで、決断のタイミングと年末の噛み合わせが悪い。

 誕生日という節目に向かっていく11月は「もうすぐ〇歳になってしまうなあ」という若干の焦燥感と共に「この年齢のうちにこうせねば」とか「この年齢まででこれは辞めにしよう」とか、11月29日をタイムリミットに何かを変えなければならないような気がして落ち着かない。
 かといって11月30日から何かが変わるわけでもなく、12月には「なってしまったなあ」というある種の放心と「なってしまったんだから何かせねば」という焦燥感に結局駆られている。ついでに「もう今年も終わるんだから」の威力も上乗せでやってくる。

 スロースターターと言えば聞こえがいいかもしれないが、僕は何事においても基本的に怠惰である。だから夏休みの宿題は8月31日にやるし、テスト勉強は一夜漬けだった。この歳になってもその怠惰は健在で、現に今も、noteを書くためにカフェに入ったのに実際に書き始めたのは席についてから1時間後だ。ギリギリ目の端に入るくらいの席で、中学校の同級生が彼女らしき相手とイチャイチャしている。1時間前から。彼には、僕が同じカフェにいることに気が付かれないようにしたい。
 こんなだから、11月からずっと引きずってきた焦燥を行動に移し始めるのも大抵12月である。バイトを始めたのも、進学先を決めたのも、俳優になりたくてオーディションを探し始めたのも、全部12月だ。

 12月に何かを始めようとすると、僕の頭の中に「これ、新年からはじめた方がキリがいいんじゃないか?」という意見が湧いてくる。実際、noteの更新頻度を上げようと定期更新を始めたのは今年の1月で、それを考え始めたのは去年の12月だった。
 ただ、この新年スタートにも懸念すべき点がいくつかある。まず「これを始めて何年経ったなあ」を新年に実感するのは勿体無い問題。新年迎えた〜の浮かれ具合に乗せてサラッと流してしまうくらいなら、なんでもない日に始めて周年は周年で新年とは別にしみじみ感じたい。それと、構想が年を跨ぐ事によるモチベーションの低下も問題だ。物事はきっちり時間を使ってじっくり進めた方がいいものと、突発的なエネルギーで突き進んだ方がいいものがあるが、基本的に怠惰な人間にじっくり進めるなんてできやしない。後回し後回しにしてしまうか、時間をかけたことで自分の中のハードルが無駄に上がって及び腰になりボツにしてしまうパターン。そもそも毎日一定のモチベーションを保って生き続けるのは苦手なのだ。筋トレは続かないし、鞄に入れた小説は結局一気読みするし、ポップコーンは映画の序盤で食べ終わる。短時間で連勤するより長時間の単発バイトの方が精神衛生がいい。
 
 そしてこれらの懸念点に対抗する勢力、それが「キリのよさ」なのである。どうしてだかわからないが、不思議なことに僕の中で「キリがいい」かどうかはこれらに対抗しうるほどの力を持っている。「でもキリいいしなあ〜」で十分迷える。なんなんだ、「キリ」って。
 思うに、「キリよく」何かをしたいというのは「ゲンを担ぎたい」みたいな思考があるのかもしれない。別にこだわってるわけではないけど、新品の服は大安の日に着たいし、試合の前日にトンカツが出てくると少し嬉しかった。そういうことの気持ちの良さみたいなものは、人より感じている方かもしれない。
 もしくは、「ピッタリが気持ちいい」みたいなことかもしれない。今ある皿を洗い切ったらちょうど食洗機が満タンになった、とか。この動画が観終わる時間と家を出る時間が全く一緒だ、とか。ちなみに、ぷよぷよよりテトリス派だ。

 そんなわけでこの時期は、12月に何かを始めたい欲と「でも12月はキリが悪くて、1月はキリがいいなあ」が脳内でがっぷり四つになっている。そういえば「がっぷり四つ」って相撲取り2人の状態を表した言葉なのに「四つ」ってなんだかちょっとチグハグ感がある。1つの文章で算用数字と漢数字が混ざってる感じも良くないし、でも「がっぷり4つ」って書いたら気持ち悪い。こんな言葉使わなければよかった。音は好きなのに、「ガップリヨツ」。これからは喋り言葉専用にする、「ガップリヨツ」。
 なんの話だったか。そうだ、やりたいことがあるという話だ。文章を書いていると、こうして思わぬ方向へ脱線してしまうこともあるが、言語化の途中で思考が整理されていくなんてこともある。書き出しと終わりで考えが変化して一貫性を欠いてしまったために、後から読み物として修正したりボツにすることも多々あるが、この感覚は嫌いじゃない。ちなみに今の僕は「やりたいことはやれるうちに。キリ良く始められれば尚良し。キリが悪くてもやらないよりマシ。」という考えに至ろうとしている。書いているうちに「キリ」の優先度が少し下がった。
 年内に始めようが年を跨ごうが、やりたいことがある。大事なのはまず始めることと、きちんと終えることだ。キリ良く始めてキリ悪く終わるかもしれないし、キリ悪く始めてキリ良く終えるかもしれない。その度に修正して、またチャレンジして。真理は至ってシンプルだった。
 
 結論に至ったところで視線を上げると、同級生と彼女がまだいる。イチャつきにキリの良いタイミングはない。イチャイチャすることはダラダラすることとほぼ同義だ。一通り書き終えてぼーっとみていたら、同級生とふと目が合ってしまった。慌てて目線を逸らせて時計を見ると、閉店までちょうど30分。キリは良いけど、バツが悪い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

東京都在住の23歳。俳優。エムキチビートラボメンバー。 CLipCLover所属。
「川﨑志馬」と書いて「かわさきしま」と読みます。

お仕事のご依頼は
事務所HP https://clipclover.tokyo/お問い合わせ/

もしくは shimakwsk@gmail.com まで。(お問い合わせの内容によりましては、ご対応できないことがあります。)

*note定期更新 毎月第2・第4水曜日
*ライブ配信(MixChannel) 毎月最終日曜日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?