「ヒトリゴト」振り返り

 川﨑志馬・志水もえの自主企画「ヒトリゴト」
 2023年6月9日〜6月11日 エビスSTARバー
 脚本・演出 川﨑志馬
 出演 川﨑志馬/志水もえの/川座かな

 2日前、初めての企画・脚本・演出を務めた「ヒトリゴト」が終演した。
 自分の頭から生まれた物語。敢えて卑下して言えば、どこの誰ともわからない人間が勝手に考えただけのただの空想。それを表現してくれた俳優がいて、それを形作ってくれたスタッフさんたちがいて、そしてそれを観にきてくれた人たちがいた。その事実にひたすらに感謝をするのと同時に、どこかとても不思議な気持ちでいる。なんとなく、「ヒトリゴト」を書き始めたころから今まで、何に突き動かされて、その時々でなにが起こっていたのか未だに理解できていない自分がいるのである。

 まず、6月にエムキチビートラボ公演をやろうという話が出始めたのが3月の終わり頃だったと思う。「ハコブネ」から4ヶ月が経ち、その間ラボメンバーは各々の仕事や課題に向き合ってきた。その上で、個人単位ではなく、ラボとしてもきちんと稼働させたかったというのがこの企画の始まりだった。
 6月に何かをしようというのを目標に、さまざまな意見が出た。別の戯曲をやるか、もう一度「ハコブネ」をやるか、ファイトアローン(一人芝居企画)をやるか、お客さんを呼んだ公演ではなく劇団員やラボメンバーに向けた練習会をするか。ラボとしてのSNSを立ち上げようという案も出た。
 僕はといえば、「ヨツバリベンジ」の終わりが見え始め、その先の予定が空白だったことに焦っていた。立ち止まりたくなかったし、自分の手では及ばない範囲の人に自分のことを知ってもらわなければならないと思っていた。そこで、僕が先頭に立って6月の公演を動かそうと名乗り出たのだ。
 
 さて何をするかとなった時、そこにはいろいろな課題があった。主にスケジュール的な問題だったのだが、「ハコブネ」の時と比べてラボメンバー全員がそれぞれ忙しくなっていたのだった。僕はなんとしてもお客さんを入れた公演をしたかったのでその為にはそれなりに稽古期間も必要としたし、十分な稽古ができないことが最初からわかっている上でお客さんの前に立つことはできないという他のラボメンバーの気持ちも非常に理解できた。結果的に、稽古と本番のどっちのスケジュールにも対応できたのが僕と志水だけだったのだ。
 短い期間に爆発的なエネルギーで公演をやり切る。という経験や、その衝動そのものを僕が求めていた。というのが「ヒトリゴト」が走り出したきっかけであり全てだったようにも思う。

 志水と2人でお互いのやりたいことを話し合った。僕は「ハコブネ」の時に1度だけやった一人芝居をもう一度やりたくて、15分くらいだったら自分で作演出をしてみたいと言い、志水も一人芝居をやってみたいということで、もう1人くらい誘って一人芝居企画をしようということになった。
 エムキチビートの外部の人をお誘いして、劇団員の方々が昔にやった一人芝居の戯曲は使用せず自分達のオリジナルの脚本でやるのなら、ラボ公演を銘打つのは適当ではないとの判断をして「川﨑志馬・志水もえの 自主企画」とした。
 ただ一人芝居をやるのでは面白くないということで、それぞれの世界線をつなげるという案や、最後にユニットコントのようなこともやるという案が出て、結果的にそれらは「一人芝居の連続、そして合流」という「ヒトリゴト」の構成の下地になっている。

 さて、そうしたら今度は誰に声をかけようかということになる。ちなみに、僕の中ではこの時すでに、川座かなへのオファーはほぼ決定していた。僕は以前彼女のお芝居をワークショップで拝見したことがあり、その時すでに「面白い人がいるな…」と思っていて、いつかご一緒したいと思っていた。彼女は既ににピン芸人として活動しており、僕の人脈の中でここまで一人芝居企画に適した人物はいなかった。僕の中のポコが「姉ちゃん!いつかって今さ!」と叫んでいた(伝わる人にだけ伝わればいいです。ミュージカル化楽しみすぎる)。
 そして川座にオファーをしたところ快く承諾していただき(後から聞くとそうとう重なっててマジで忙しかったらしい)、晴れて「ヒトリゴト」の3人が集結したのである。

 前述したように、「ヨツバリベンジ」が終わった後の自分のスケジュールは何もなかった。だから、1ヶ月半くらいをかけてバイトしながらじっくり脚本を書こうと思っていた4月の中旬、思わぬ仕事につかせていただくことになる。「Collor x Malice -柳愛時編-」のアンダーである。それから「ヒトリゴト」の稽古開始までは、電車の中で脚本を考え、カラマリの稽古に行き、帰りに他のオーディションの練習をしてから帰宅という毎日で、それでも「ヒトリゴト」の脚本が間に合わず稽古の休憩時間や本番の楽屋でも書いていた。そうして出来上がったのは稽古開始の3日前だった。それと、稽古場が見つからない問題や、内容がわかってないから宣伝がままならない問題、当時の時点で集客が寂しい問題などもあり、そしてそれが実はめちゃくちゃ楽しかったりした。

 稽古初日。家で印刷した台本を2人に渡し、読み上げてもらった。ものすごく、安心した。このシーンは成立してるのか、ここは伝わるのか、ここは本当に面白いのか。不安だった要素をしっかり解釈して演じてくれて、そして自分では辿り着けなかったキャラクターの意外な表情も見せてくれた。僕の初めての拙い台本をそんなふうに素敵に演じてくださった2人には本当に感謝しかない。

 脚本も初めてだったけど、演出も初挑戦。ただこれについてはまだ自分の中できちんと言語化して落とし込めていないので、あと結構長くなってきたのでここではあまり詳しく書かないでおこうと思う。少しだけ言うと、どこからどこまでが「演出」なのか。そもそも「演出」とはなんなのか。それを掴みきれないまま、でもそこで立ち止まっていたらこの企画は停滞してしまうと思ってそこを敢えて無視して、とにかくその場で最善と思えるディレクションをした。それがどうだったのか、次はどうするのか。それはまたこれからじっくり考えていこうと思う。

 そして迎えた、公演初日。もちろん出演者の我々もいろんな思いを持って臨んだ大変な1日だったけど、それ以上に大変だったのはスタッフをやってくれたラボメンバーの風間さん、篠塚さん、米田さんだったように思う。僕は制作という面の下準備を何にも考えられていなかったのである。それを各々の現場の対応力や、役者としての感度の高さで補ってくださって、この3人がいなかったら本当に終わっていた。現場の全てをやっていただいたと言っても過言ではない。3人が間違いなく我々にとってのスーパーヒーローであった事実はここに記しておかないといけない。

 公演期間、3日。公演回数5回。それぞれの日で、それぞれの回で、本当に毎回違う景色をみた。全てが本当に幸せな時間だったけれど、正直言ってかなり悔しい思いをした瞬間もあった。それらをひっくるめて、いい企画だったと心の底から今思えている自分に安堵しながら、ここまでをやっと振り返り終えたかと思う。

 最後にこの場をお借りして、一緒に企画を進めてくれた志水もえのさん、出演してくれた川座かなさん、スタッフの風間さん、篠塚さん、米田さん、エビスSTARバーの星野さん、お忙しい中足を運んでくださってアドバイスやありがたいお言葉をくださった若宮さん、票券でご協力していただいた小林さん、差し入れをいただいたエムキチビートのみなさん、ラボメンバーの安野さん、協賛してくださった企業さま、そして、お客さま。すべての方々に多大なる、心からの感謝を。ありがとうございました。

川﨑志馬

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東京都在住の22歳。俳優。エムキチビートラボメンバー。 CLipCLover所属。
「川﨑志馬」と書いて「かわさきしま」と読みます。

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