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恋と愛の境界線、今こそお薦めの時代小説

もう何年になるだろう、
僕がお薦めした葉室麟さんの小説、
「紫匂う」(講談社文庫)の話で、
もう20年以上お付き合いのある御仁と
ある賀詞交歓会で盛り込がったことがある。

僕が毎年参加してきた賀詞交歓会が
今年は軒並み中止に。
そんなこともあって、先週、
その御仁のことを思い出し、
無性に「紫匂う」が読みたくなり、
今朝読了した。

作中の萩蔵太に久しぶりに会えた。
この人、この人、この人にこそ
会いたかったんだと、心が踊った。

本作の主人公は萩蔵太という武家の妻、澪。
幼馴染みでかつて恋していた笙平と
蔵太との間で揺れる彼女の心を描いた時代小説。

勿論、単なる三角関係ではなく、
時代小説ならではの真剣勝負の決闘、
家族愛、和歌などでの詩情、
武士の処世術なども盛り込み、
僕にとっては尊き人生訓が盛り沢山。

どこか艶のある色男のイメージの笙平に対し、
蔵太は朴訥、凡庸、寡黙。でも誠実で実直、
おまけに剣術の達人でもある。

蔵太は妻を信じ、
生きたいように生きよと諭す。
でも澪への深い愛情を単なる言葉でなく、
行動や結果で然りと表し残していく。
そこが笙平と真逆なのだ。

蔵太にはいくつかの秀逸な名言がある。

まずは「天の目」。
物事を単なる相対で捉えるのでなく、
鳥になったつもりで天から見下し、
広く全体を俯瞰し客観的に見よと。
そして「一息の抜き」。
何事も追い詰めてはならぬ。
人息だけ余白を空けるべきだと。
人を追い込まずひと呼吸置いて接する。
そんなふうに妻に接する。
この余裕のある人が真の大人だ。

それがまさに蔵太であり、
危機に際して揺るがす、
苦境にたじろがない強さ、
冷静で泰然自若な佇まい。

久しぶりに再会した笙平との関わりから
澪は様々なトラブルに巻き込まれる。
それを助けてくれる夫、蔵太の魅力に
気付き始める。

恋と愛の境界線が浮き彫りになる。
真の愛情とは何なのか、
世のカップル、夫婦に絶妙に
語りかけてくれる物語。

感染拡大の止まぬ時節柄、
本作は心底から生きる強さ、
愛情の尊さを湧き起こしてくれる。
今、まさにお薦めしたい本なのです。

ちなみに、僕は誠に勝手ながら
蔵太役に俳優の中村梅雀さん、
澪役に黒木華さん、
笙平役に原田龍二さん
を思い描いて読み進めました。
今でも映像が広がっています。

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