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ONLY TODAY、その先にある未来

2014年日本公開の米国映画
「ウォルト・ディズニーの約束」は、
1964年のミュージカル「メリー・ポピンズ」の
製作の舞台裏を描いた名作。

「メリー・ポピンズ」の原作者である、
英国の作家トラヴァース夫人(エマ・トンプソン)は、
端から映画化に乗る気でない。
その彼女をハリウッドに招き、
ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)をはじめ
製作スタッフが必死に彼女を
その気にさせるというストーリー。

「メリー・ポピンズ」という小説は
トラヴァース夫人にとって
幼少期の父親との生活、
その想い出をかさねた作品。
いわば大好きだった亡き父への
オマージュだ。

彼女は小説の実写化にあたり、
アニメ化に猛反対するなど、
ディズニー社の意向に
ことごとく反発、
製作の契約も正式に結ばないままに
映画化は難航の一途を辿る。

でもいよいよという段階で
ディズニー社長は彼女に、
亡き父との想いを後世に残すために
製作を続け完成させようと説得。

彼女ははたと気付く。
自分の時計は  
父と過ごしたあの頃のまま
止まっていたと。
最近の自分は
過去に生きていたのだと。
未来に向かう決意をするのだった。

一方、本作には大変貴い脇役がいる。
共感される方も多いと思うが
ディズニー社に雇われたリムジン運転手で
トラヴァース夫人専属となる、
ラルフ(ポール・ジアマッティ)。

トラヴァース夫人は当初、
他のディズニー社スタッフのみならず
この運転手も気に入らない。
彼の決まり文句のような挨拶
「良い天気ですね」にイライラする。

ある日、ラルフは
トラヴァース夫人に打ち明ける。
自分の娘が実は持病があり、
車椅子の生活を送っている。
彼女にとって晴れであれば
外に出れるが、雨であれば
家の中で過ごさねばならない。

父親である彼は、
それが故に天気が気になるのだと。
娘は明日のこと、未来のことなど考えず、“ONLY TODAY”、
今日を懸命に生きていると。

この言葉が、
父との追憶の世界を漂う
トラヴァース夫人の心を揺さぶる。
これを機に彼女は彼を
米国での唯一の友人とするのだ。

トラヴァース夫人と父。
ラルフとその娘。

この映画は、こうした親子愛を通じて、
今日を懸命に生きる大切さ、
今を生き切れば、未来が見えてくることを
じんわりと描く。

ミュージカル映画の傑作「メリー・ポピンズ」。
僕は、小学生の頃だから半世紀近く前に、
街の旧作専門の映画館で母親と観た。
母がこの名作を僕に観せたかった理由は、
判然としない。
両親亡き後ゆえ、今では理由も訊けない。

だけど、これだけは言える。
「ウォルト・ディズニーの約束」を観て、
蘇ってきたことが、確かにある。
教わったことも、確かにある。

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