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夢眠ねむが語る「食べるノンフィクションが面白い!」

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アイドルグループ「でんぱ組.inc」メンバーとして活動した夢眠ねむさん。芸能界引退後の現在は予約制の書店「夢眠書店」、そして出版社「夢眠舎」の経営者として、自分が好きな「本」や「雑誌」に囲まれながら活躍の幅を広げています。ファンタジーやライトノベルが好きな夢眠さんがSlowNewsで気になったノンフィクションとは。
(聞き手=ライター・姫乃たま)

夢眠ねむさん注目の「食べるノンフィクション」
・小泉武夫『納豆の快楽
・宮内泰介、藤林泰『かつお節と日本人
・鶴見良行『バナナと日本人 フィリピン農園と食卓のあいだ
・村井吉敬『エビと日本人
・中原一歩『最後の職人 池波正太郎が愛した近藤文夫
・湯澤規子「たとえばウンコで未来を語る サステイナブルに生きるには


――今日は夢眠書店にお邪魔しています。「これからの本好きを育てる書店」として、子ども向けの絵本から大人が読む小説まで、いろんな本が棚に並んでいますね。

夢眠 ここを始めたのは、私自身の「成功体験」が元になっているんです。私は三重県の伊賀で生まれ育ちました。普通のお家と同じでゲームや大型おもちゃは誕生日やクリスマスにしか買ってもらえないんですが、本だけはいつでも買ってくれる親で、本屋さんに行っては欲しい本を買ってもらって、だんだん読むのが好きになっていったんです。
そうすると、私は楽しくて夢中で読んでいるだけなんですけど、親は「こんなに字がたくさんある本が読めるようになった」って、褒めちぎってくれるんですよ。私も「ふふーん!」ってうれしくなって、それが最初の成功体験。
この成功体験は、子どもだけが体験できるものではないと思うんです。大人になってからのタイミングだっていい。本が読めたという体験から、世界の見え方が変わったり、思考の幅が広がったり、本と出会うことで人生が変わることがある。それぞれが、本を通した実感を持つきっかけの場所にしたいと思って開店しました。

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差別と偏見の問題が身近になった本


――三重時代は通学に2時間半かかっていたから、それを読書の時間に当てていたんですよね?

夢眠 薄めの文庫が一冊読めちゃう(笑)。私はハリポタ世代なので、そのころはファンタジー小説やラノベ、興味のあった美術関連の本をよく読んでいました。近所に感度高めの書店があって、高校生の頃はそこでバイトをしていたんです。バイト代は、受けとった瞬間に全部そのお店で使っちゃうくらい買っていましたね。クラフトエヴィング商會の作品が大好きでした。ラノベだと『フォーチュン・クエスト』ってシリーズが小学校の時から大好きだったんですが、なんと夢眠書店に作者の深沢美潮先生が来てくださったんですよ!

――えーっ!

夢眠 ファンの方が夢眠書店で最終回に向けたイベントをやったらどうですかって先生に提案してくれて、それがなんと実現。そのきっかけをくれた方はマレーシア在住なのですが、イベントのタイミングで帰国してくれて。 

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――久々にヤバいオフ会の話を聞きました。さっき本棚に沢木耕太郎さんの本が並べてあったんですけど、ノンフィクションはお好きなんですか?

夢眠 最近だとブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がめっちゃ面白かったです。イギリスの町で、ご自身の息子さんが体験する差別や偏見について、子どもの目線に立ちながら書かれた作品でしたが、遠い問題だと思っていたことが身近に迫ってくる感じが印象に残りました。
海外の人から自分はどんな視線を受けているんだろうって、アイドル時代には「ジャパン・エキスポ」みたいなイベントで歓迎を受けることしかなかったから、そのポジティブな経験しかできていないなって思ったんです。見えている景色がそれしかないことに気づいたというか。

――まさに本を読んで、見える風景が変わる体験。

夢眠 そうですね。あと、私も年齢的には親世代になって来てると思うので、近い目線で書かれているような気がしました。SlowNewsで読めるブレイディみかこさんの『労働者階級の反乱』はまったく違う印象なので、どんな話なのか興味あります。

『納豆の快楽』めっちゃ面白いですね

――夢眠さんはアイドル時代に手料理イベントをしていて、そのレシピ本『夢眠軒の料理』も出されていますよね。気になる本はありましたか?

夢眠 『納豆の快楽』を読んでみたんですけど、これめっちゃ面白いですね。常に納豆を持ち歩いている学者さんが納豆にまつわる旅をしてるんですけど、旅先で出された麺とかにもとにかく納豆入れてて。私が作った料理にこれやられたらマジでキレるなって思ったんですけど(笑)、お腹壊しても納豆さえあればO Kみたいなノリでどんどん文章が進んでいく。

ノンフィクションというとお堅い感じですが、SlowNewsには「#食べる」というジャンルがあるんですよね。自分でも読めるものがあるのかなって思ったんですけど、こんな面白い本に出会えました。

――「食べる」ってことと、ノンフィクションって相性がいいのかな。

夢眠 実家が海産物の問屋で、メインがかつお節なんですよ。それで『かつお節と日本人』も気になって、まだ冒頭だけなんですけど読み始めています。

――岩波新書なので堅そうに見えるかもしれないけど、かつお節のルーツをひたすらたどっていくような旅の本としても読めますよね。

夢眠 「ナントカと日本人」シリーズがいくつか読めるようになっていますよね? 『バナナと日本人』もあるし、『エビと日本人』もある。この「日本人」シリーズはもっと見つけ出して読んでみたいな。全部、岩波新書の作品なんですね。

普段、本屋さんに行ってもなかなか新書のコーナーに行かないんですよ。だから、スローニュースの並びで目星をつけて、実際の書店の本棚に行ってチェックしてみたくもなりました。

――「#食べる」のタグがついた作品は今のところ15作あるんですけど、どれも個性が際立ってますよね。

夢眠 『最後の職人 池波正太郎が愛した近藤文夫』は読みたいな。天ぷら近藤の話。

――シブいですね。

夢眠 池波正太郎が好きなんですよ。アイドルだった頃、活動拠点は秋葉原だったので、ついでに池波正太郎行きつけと聞いた神田のお店とか行ってました(笑)。

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「たとえばウンコで未来を変える」は絶対候補になります。

――SlowNewsのタグを使うと、いろいろ新しい本に出会えますね。

夢眠 こうやって、ジャンルやキーワードで本のタイトルが並ぶ機能があるのはいいですね。
毎年「日本タイトルだけ大賞」っていう、内容を一切読まずに、タイトルの面白さだけを基準に賞を決めるイベントをやっていて、私は結構長いことそのゲスト審査員をやらせて頂いてるんです。毎年12月が選考会なので、ちょっと今、その頭になっちゃってるんですけど、それでいうと「たとえばウンコで未来を変える サステイナブルに生きるには」は絶対候補に入りますね。ウンコジャンルは人気なので。しかも流行りのサステイナブルまで入っているし。

――でも「タイトルだけ大賞」は内容を読んじゃいけないんですよね?

夢眠 そうなんですよね。でも我慢できなくて、冒頭の1行目だけ読んじゃいました。
「あなたはウンコが好きですか?」。
「好きでーす!」ってテンションがあがっちゃって、それでもうちょっと読んじゃったんですよね……(笑)。

――ノンフィクションって言うと、堅いイメージがつきまといますが、こうやって話していると幅広いですよね。

夢眠 下北沢に「日記屋 月日」っていう日記だけに特化した書店カフェがあるんです。ノンフィクションと聞くと、私は日記をイメージするんです。そう考えたら、私はノンフィクションを「月日」で一番読んでいるかもしれない。

――アイドルのときってブログやってました?

夢眠 Twitterと Instagramをやってました。

――早くないですか? 

夢眠 秋葉原で電脳系だったんで早かったんですよね、そういうの。アイドルのときは「あれ食べた、これ食べた」って逐一発信していたんですけど、今はnoteを書いています。今でも私が書く文章を読みたいと思ってくれる方たちに向けて、情報マガジンを販売しているつもりで。

知らない世界を読んだという体験は絶対に得難い

――そして、雑誌を創刊するんですよね!

夢眠 『imaginary』という雑誌を創刊します。もともと出版社は作りたかったのですが思い切りがつかず、後回しにしていたんです。ある日、コンセプトクリエイターの水野しずちゃんと、DIVAのゆっきゅんから「雑誌作ろうと思ってるんです」という話を聞いた時、いよいよだなと。この二人が100%を出した雑誌を読みたい、そのためには自分が場所を用意したいなと思ったんです。それで「夢眠舎」を立ち上げて、全国に雑誌が流通するように準備をしました。

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――雑誌をつくってみようと思ったのはどうしてなんですか?

夢眠 私たちが中高生のころって『relax』とか『STUDIO VOICE』とか読んで東京への憧れを膨らましていましたよね。でも今は雑誌がそもそも減っているし、絵や写真がぎっしり載っている大判の雑誌って、なかなか見ることがなくなりました。大きい雑誌って、けっこう重いし、「買った!」って実感があるから好きだったんです。今は持ち運びしやすい小さなサイズのほうがいいのかもしれないけど、「あの雑誌買ってたなー」「あの雑誌で人生変わったなー」という体験を、大判の雑誌をわざわざ買うことを通して経験してもらいたいって思ってます。創刊号は「2020年代のファッション」という特集です。かつての私たちのような、田舎で自分の居場所という意味での”東京”に憧れる子に届いてほしいです。
本からでも雑誌からでも、何か知らない世界を読んだ、憧れるものを見つけた、という体験は絶対に得難いものですから。

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