マガジンのカバー画像

下山進の作品

11
ノンフィクション作家の下山進さんの作品『原子炉・加速器で癌を治す』『がん新薬誕生』をこちらにまとめました。
運営しているクリエイター

#製薬会社

がん新薬誕生 第2回 薬をつくることを諦めないでください

取材・執筆:下山進  合成化学者の仕事は、テーマが決まると、まず論文を読むことから始まる。血管新生阻害剤の場合は、理論を提唱したフォークマンの1971年の論文から始まり、健常細胞に血管をつくらせるファクターXのうちのひとつを最初に特定したナポレオーネ・フェラーラとウイリアム・ヘンゼルの論文。さらに、この理論にもとづいて創薬にとりくむ他社が、特許を取得した化合物についての書類一式を、知的財産部からとりよせる。  一年から一年半、エーザイの筑波研究所にある図書室に通って、日が

がん新薬誕生 第3回 化合物選択

取材・執筆:下山進  プロジェクト名をHOPEと名づけた2000年4月の段階で、すでに化合物は絞られつつあった。  船橋泰博はプロジェクトリーダーであったが、最終的な化合物選択は、合成のチーム長であった鶴岡明彦にまかせることになる。  というのは、翌年の9月に船橋はコロンビア大学の産婦人科に留学することになっていたのだ。船橋は、ここで、新しい作用機序の薬をつくるつもりだったが、船橋のもとで働いている研究所の所員が、どうしても労働過重になってしまうことから、船橋を筑波の研究所

がん新薬誕生 第4回 甲状腺がん治験第三相

取材・執筆:下山進  甲状腺はヨウ素をとりこみ甲状腺ホルモンとして分泌する器官だ。だからそこが「がん」におかされたときには、ヨウ素131を飲む治療が行われる。ヨウ素131は、半減期が7日で、その際に微弱な放射線を出す。この放射線を使ってがんを叩くというわけだ。だから、この治療をうける患者は、アイソトープ室という鉛の壁で覆われた放射能を外に出さない病室で、3、4日過ごす必要がある。  パリ南大学の難治性甲状腺がん関連センターの医者マルティン・シュルンベルジェにとっても、第一

がん新薬誕生 最終回 世界のどこかで誰かが

取材・執筆:下山進  免疫細胞ががんを攻撃することは知られていた。だから、以前の免疫療法というのは、免疫自体の力を強めようとした。  たとえば患者の骨髄からリンパ球をとってきて、免疫細胞を刺激して活性化させ、それをもとに戻す。そうすると熱がでる。つまり免疫が働いている。しかし、こうした方法では大規模治験をしても、結果はでなかった。  ノーベル賞を受賞することになる京都大学の本庶佑の研究が画期的だったのは、がん細胞が免疫細胞を回避しているメカニズムを探ったことにあった。が