見出し画像

隅田川と吾妻橋

スローリー余話
川と橋と美味しいもの#3

江戸時代から「大川」と呼ばれ親しまれてきた「隅田川」。「桜」や「花火」などの季節の風物詩は、令和の今も多くのひとびとに愛されつづけている東京を象徴する水辺のひとつです。
江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による「隅田川両岸景色巻」などからも隅田川が文化的にも経済的にも当時のひとびとにとって大切な川であったことが想像できます。現在は多くの橋梁が架かる隅田川ですが、まずは浅草と向島に架かる「吾妻橋」について紹介します。

ライトアップされた吾妻橋と東京スカイツリー。そしてアサヒビールの黄金の目印
現在の橋梁は1931(昭和6)年に竣工

浅草と向島を結ぶ「吾妻橋」は1774(安永3)年に架橋され当初は「大川橋」と呼ばれていたいましたが、明暦の大火以降、隅田川に架橋された四つの橋(永代橋、新大橋、両国橋、吾妻橋)のうちもっとも東にあったことから「東橋」と俗称され、向島にあった吾妻神社の参詣道でもあったことから「吾妻橋」と改名されたといわれています。
そんな吾妻橋から、ほど近い浅草馬道通り沿いに1866(慶応2)年創業の「弁天山 美家古寿司」があります。
(以下、2023年7月発売「東京Slowly² vol.3」より)

継承される“心”と“技”
気どらない“一流”

浅草
弁天山 美家古寿司


美味しいものは美しい証し

「手前どもの寿司の特徴は『酢飯』『仕事を施した寿司ダネ』『新鮮な山葵』そして『にきり醤油』この4つのバランスによって寿司の美味しさを最大限に引き出すことにあります」と語る柔和な笑顔が印象的な五代目・内田正さん。冷蔵庫のない時代には必ず寿司ダネに仕事を施していた技を先代から引き継ぎ、今も、マグロの醤油漬けやヒラメの昆布締め、アナゴの爽煮など、ほとんどの寿司に下ごしらえをした古典的な江戸前寿司を愉しめる希少な一軒である。

全てひと手間加えた江戸前寿し

現在は、五代目の内田さんと六代目の山下大輔さんがカウンターの定位置に並び、カルテットの演奏を奏でているようなリズム感で“江戸前の仕事“をされている。いただく寿司の一貫、一貫に込められている”手間“と”思い“は、その美味しさとともにご主人たちの心意気も感じられる、他では味わえない逸品である。「三代目と四代目の時代には空襲がございまして、五代目と六代目の時代にはコロナ禍で…」と淡々と語る内田さん。その穏やかな表情の中には世紀を超えて受け継いできた強い”心“が垣間見える。有名店にありがちなカウンターの緊張感を感じることもなく、心地良く、しっかりと技を施された極上の美味しさを堪能できる気取らない一流の寿司が浅草にはある。

五代目の内田さんと六代目の山下さん

弁天山 美家古寿司
〒111-0032 東京都台東区浅草2-1-16
03-3844-0034
営業時間:火~土 12:00~14:30(L.O.14:00) 17:00~21:00(L.O.20:00)
日・祝 12:00~18:00(L.O.17:00)
定休日:月曜 第三日曜