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SLOW MOVEMENT ①-障害の有無を超えて同じ舞台に立つということ-

みなさん、こんにちは。
SLOW LABEL ディレクターのクリスです。

今日は、スローレーベルが2015年に立ち上げた「SLOW MOVEMENT(スロームーブメント)」というパフォーマンスプロジェクトについて、その立ち上げの経緯や想いを綴りたいと思います。

このプロジェクトを立ち上げたきっかけは、その前年に開催したヨコハマ・パラトリエンナーレで直面した課題のひとつ、「障害のある人たちが舞台にあがり、障害のない人に混ざって作品をつくったり発表したりすることへのバリアを何とか取り除きたい!」と思ったことにあります。

当時、目の当たりにしたバリアの中には様々な種類のものがありました。

          (ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014の展覧会風景)


一つ目は、物理的なバリアです。もちろん様々な障害のある人が参加することを想定していたので、「稽古場やワークショップ会場に多目的トイレが付いているか」「入り口から実際にワークショップを展開する部屋までの導線にバリアはないか」などなど、事前に対処することのできることは全て整えていたつもりです。しかし、会場までの道のりや介助者の確保といった、参加者ひとりひとりが抱える課題について、主催者として予測したり対策を練ったりするには限界がありました。二つ目のバリアは精神的なバリアです。「障害のない人に混ざって一緒に身体を動かすことに対する不安」や「体調不良や発作によるドタキャンで、他の参加者や主催者に迷惑をかけてしまうのではないかという不安」。このような見えない不安の数々が、これほどまでに、障害のある人やその家族が申し込みを躊躇する要因になっているとは想像しきれませんでした。そして、3つ目のバリアはコミュニケーションのバリアです。2014年時点で、私たちは「情報保障」という単語の存在すら知りませんでした。情報保障とは人間の「知る権利」を保障するもので、障害のある人が情報を入手する上で必要な配慮をすること。例えば、聴覚障害者に対する手話通訳や字幕、視覚障害者への点訳や音声ガイドなどです。こうした配慮があることで、視覚や聴覚に障害がある人もプログラムに参加しやすくなります。また、知的や発達障害といった人たちが理解しやすい情報の届け方やプログラムの進め方など、工夫することで取り除くことのできるバリアがたくさんあることを知りました。

         (福祉施設にアウトリーチ活動をしながら参加を募る)


もともと、ヨコハマ・パラトリエンナーレは、海外の先駆事例などに習い、横浜発の国際アートフェスティバルとして、障害のある人とない人の協働で高い質の芸術作品をつくりだすことを目指して立ち上げたものです。しかし作品づくりどころか、障害のある人がワークショップ会場まで足を運ぶことすら出来ないという現状に、日本はまだ創作のスタート地点にも立ててないのだと愕然としたことを覚えています。と同時に、やるべきことが見えた瞬間でもありました。まずは、障害のある人たちが安心して創作活動に参加したいと思える環境を創らなくてはいけないと思ったのです。

2015年にSLOW MOVEMENTを立ち上げて、まずはじめに取り組んだことは・・・年齢・性別・国籍・障害の有無などを限定せずに市民パフォーマーという呼び名で参加者を募り、10回程度のワークショップを重ねて作品をつくり、不特定多数の人が目にするような広場のようなオープンスペースでパフォーマンスを披露するという活動です。

一見、市民参加型のパフォーマンスとして、作品づくりに主軸が置かれているように見える活動ですが、本当の狙いは作品制作の過程で「人」と「技術(ノウハウ)」を開発することにありました。

いわゆる「障害者アート」と聞いて多くの方が想像するであろう、絵画や造形などの作品。これらは、個人が自分と向き合って創り上げた作品が、美術館やギャラリーに運ばれて展示され、不特定多数の方の目にとまります。しかし、舞台芸術の世界は、生身の人間が観客の前に立って演じて初めて成立するもの。他の共演者やスタッフなど、大勢の人と協力しあって一つの作品に創り上げるので、自分のペースや事情をただ押し付けあっているだけでは完成しないのです。いわば、小さな社会。創作から発表までには、関わる人全員にとって沢山のバリアやハードルがあります。けれども、その分、障害のある人にも、ない人にも、気づきや学びが個人の成長を促し、実社会で応用できることが生まれたり、出来ることが増えていく、、、これは、舞台芸術活動の最大の魅力でもあると思います。そして、全ては「人」からはじまり、その人から生み出される「技術」や「ノウハウ」こそが、障害のあるなしを超えて誰もが参加できる創作環境の基礎でもあり、インクルーシブな社会をつくっていく原動力なのでは?と考えています。

「人」の中でも、特に力を入れて研究開発したのが「アクセスコーディネーター」「アカンパニスト」という二つのスペシャリストです。


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