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マリファナのカバー

都内に出かけたついでに、南青山の諸国工藝品店「グランピエ」に寄った。

金曜日の暖かな夕暮れ。帰宅中の会社員とすれ違いながら外苑西通りを歩き、スキーショップジローの角を曲がれば平穏な空気が心地よい裏通り。異国の街みたいな界隈の洗練した光と景色が好きで、かつてはよく好んで表参道方面へ抜け通っていた。キラー通り沿いの味わい深いビルにあったグランピエが建物の取り壊しに伴いこの通りに移転したと知ったときは一瞬がっかりしたが、新店舗の佇まいもまたきわめてユニークで、トルコの市場に彷徨いこんだようなドキドキする昂揚感を覚え、高くラフに積まれた商品の山を前にして安堵し、嬉しくなった。

自宅土間に据えたベンチの背が急傾斜すぎて身体との間にクッションが必要だとずっと感じていた。できれば長く愛用していきたいからお気に入りを選び抜きたいと願いグランピエでの出会いを期待した。果たして、同店の秘密めいた離れの一室にはなんとなく佳いなとイメージしていたオールドキリムのクッションカバーを文様のバリエーション豊かにたくさんストック。どの文様も魅力的に思えて眼がひたすら泳ぎ、迷いすぎて頭が真っ白になった。次なる表参道でのアポイントの時間も迫る。焦る気持ちを鎮め、もう直観的に決めようと心定めたとき、白くて風合いが佳いカバーが眼に入った。70年代までトルコでマリファナの繊維を編み組みして織っていた敷物で、ドライフルーツを天日干ししてつくるのに用いていたそう。それをリサイクルした製品だという。無地だけど眼を凝らすと一枚一枚、色合いや表情が異なり、これはこれで一枚に絞りこむのは容易ではないが、最初に視界で捉えたものを選んだ。

マリファナのカバーにはモンベルの厳冬期用羽毛シェラフを、30年ほど前にバリ島で入手したコットン素材のシンプルなボーダー柄クッションには夏用中綿シェラフを市販の中綿がわりに入れた。劇的にベンチの座り心地が快適になったし、災害時の備えともなるアイデアが上手く収まり、自画自賛。いざというとき、シェラフをどこに仕舞ったのか忘れて慌てることもなくなるかな。佳い買い物ができてよかった。

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