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斜光の江戸散歩
5月の連休後半は東京佃島の実家に顔出し。ついでに都内で気になっていた場所もパトロール。いちばん訪ねたかったのは、リスペクトするスタイリスト長谷川昭雄さんが個人的に気に入って通い、雑誌『POPEYE』最新号でスポットライトを当てた空間、墨田区立川のワインショップ「倉庫」である。
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小さな町工場や昭和初期の商家が残るエリア。縦横に整然と走る広い道は車や人の通行が少なく、静穏としたムードにとても心休まり、強く惹かれる街だ。江戸時代に拓かれた運河がそばに流れているのも下町の情趣を醸し、緩やかな空気感に作用しているのだろう。その一角に立つ倉庫の2階でひっそりと営まれている空間。
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マニアックで秘密めいた在り様にワクワクし、今の東京にしかありえない場でなごみたいと願った。
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折しも、試飲としてグラスでのナチュールワイン提供が始まった直後。ボトル買いは自分にはかなり敷居が高いが、グラスならと幸運なタイミングを悦び、ショップの扉を開いた。たまたま開栓されていた赤白の2本を注いでもらった。
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デイリーなコンビニの安ワインとは当然だが、異次元の美味しさ。沁みる香りと味わいを心身で楽しみ、深く感動。滞在したのは開店の15時から30分ほどだが、ビルの隙間に差す午後の斜光がトタン板を貼ったテーブルに映り、ほのかな煌めきと色味、陰翳にも心酔した。やはりこのショップ、東京ならではの特別だ。
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佃島に泊まった翌朝は決まって7時半に出発する。朝陽が昇り始めたころの時間帯はまだ涼やかで水辺の散歩が心地よい。
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隅田川の遊歩道から徳川家康の命で掘られた運河沿いへと歩き進み、八丁堀・亀島川ほとりのパン屋を目指す。
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高いビルだらけの都会。その壁の間からの陽光と建物の影。コントラスト激しい陰陽の光景、運河に映りゆらめくビル群が劇的なシーンとなって心奪われてしまう。だから、ぼくはルーティン的に7時半に実家を出ることにしている。
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佃島ステイの朝食はここでと決めている。「Cawaii Bread & Coffee」。ぼくはここほど美味しく魅力的なイートインが可能なパン屋を都内では他に知らない。
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座る席もテラス一択。ここから眺める運河の流れがたまらなく好き。
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太陽が昇るに連れて刻一刻と水鏡の風景が変化していく。この移り変わりをなんなら一日中だって飽きずに見つめ続けることができるから、いまだに運河を臨む生活を選択できなかったのかと自身の半生に疑問を投げかけたくなる。
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口にするのもマイ定番。国産小麦と天然酵母で焼く『クロワッサン・オ・ザマンド』と京都のコーヒー焙煎家オオヤミノルさんの焙煎所による深煎り豆を当日の気温湿度に合わせて挽き、エスプレッソマシーンで絶妙に抽出する『アメリカーノ』(ホット)と、快楽的食感の甘きクロワッサンをダークチョコレートみたいな旨さのコーヒーと愛で尽くし、満ち足りる。次回はいつ来れるだろうか。湿度もグッと上がり、目前の葦群が成長し、川に吹く風にたなびき、さらさらと音を奏でる初夏あたりかな。
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店を後にする時間もいつも同じ。葉山に帰るのに、京急直通の三崎口行きの特急がすこぶる快適でスムーズだから乗車時間に合わせて最寄りの京橋、宝町駅に移動する。8時を過ぎるとたちまち暑くなる。さらに深度を増す影と眩い光を横目に地下へとエスケープ。
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潜行間際に法被姿の人たちと遭遇した。この日は地域の祭が控えているらしい。「旦那! 今日はやらないのかい?(神輿を担ぐ)」。個人商店主っぽい人どうしの会話が粋だ。日本橋や銀座、東京駅に近い利便性高い場所だから異国のツーリスト向けのビジネスホテルが盛況な中央区だけど、どっこい江戸の気風、ローカリズムも健在なマイホームタウンである。
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