ファーさんとベリアル

「絶対服従」のプログラミング

 そういえばベリアルさん、サリエルさんに「オレ達のボスはファーさんだろう!」(「000」5話4節)って檄を飛ばしたり「被造物の所有権は造物主にあるものだ」(「000」6話2節)なんてビックリするほど謙虚なことを言い出したりしてたけど、ミカエル様が「天司は星の民に従っているのではない。天司長の指示によって動いているのだ」(「どうして空は蒼いのか」4話3節)って言ってたわけだから「造物主への絶対服従プログラム」みたいなものは基本的に天司には施されていないと考えられる。
 フェル様に「処刑」される時のファーさんも「いずれお前とは見解を違える時が来ると思っていた」(「失楽園」3話3節)と言っている(自分の被造物であるルシフェルが自分に逆らう可能性をわかった上で看過していた)し、アザゼル様やサリエルさんが堕天司に入ったのもベリアルから「ファーさん直属になって動きはちょっと変わるけど、最終的にはルシフェルのためになるから」みたいな勧誘を受けたから(ファーさんに服従するようなプログラミングはされていない)だったようだし、オリヴィエちゃんもフェル様に必ずしも服従を誓っていたわけではない模様だし(ただし彼女については不明なポイントが多いのでちょっと何とも言えない)。この場合の「造物主」がファーさんを指すのかフェル様を指すのかはともかく、天司には「この人に絶対服従せよ」みたいなプログラミングは施されていないか、あるとしてもあんまり強いものじゃないのではないだろうか。もしかしたらレベル違い対象違いの設定はそれぞれされてるのかもしれないけど、あの「適当」なファーさんがそんなマメなことするかな…自分が与えた「使命」にふさわしい知性・精神制御すらろくすっぽやってなかったじゃないあのひと…。

例外の「副天司長」

 そうなるとちょっとわからなくなってくるのがベリアルの献身とファーさんの横暴なんである。
 前述したようにファーさんはフェル様が自分に反逆するのはわかっていたし、反逆できるようなプログラミングを施していたこともうかがえる。もしベリアルにも同じようなプログラミングを施していたならあの暴言の数々大丈夫なの?アレ普通に一般社会でやったらブン殴られても刺し殺されても是非もないやつじゃない?っていうところ。
 それだけならまだしも「使えん」とか「下らん」とか言ったその相手を結構ヤバい秘密の企てに引き込んでいる。むしろ自分が「処刑」された後には自分の首と計画の続行まで預けている。あれだけ暴虐を尽くしているというのに、ファーさんは裏切られるとか反抗されるとか、そういう不安や疑いをベリアルに対して一切持っていないようなのだ。
 しかもベリアルがあれやこれやと世話を焼いても、感謝したり評価したりはしない。ベリアルに対して「罵倒しても暴力をふるっても反抗されないのが当然で、自分の思った通りの仕事をこなしているのが当たり前」と思っていなければこんな接し方はできない。ルシフェルに対しては「お前は俺の予想以上だよ」とか言って毎回ベタ褒めなのに。
 なぜファーさんはこんなにもベリアルに対して塩なのか。ただ塩なだけならまだしもそのくせめっちゃ大事なことをやたらめったら任せるのは何なのか。もしかしてファーさん、「ベリアルの献身は所詮すべてプログラミング上のことである」と思っている(=ベリアルにだけは自分への絶対服従を意識的にプログラミングしてある)ので感謝も評価もしないのでは?
 どんなに尽くされてもそれを「俺がプログラミングしたことだから当然」と思っていればねぎらうとかいたわるとか感謝するとかそりゃしない。「そうプログラミングしてるんだから当たり前」という確信があるから、どんな暴言だって平気で吐きつけるしどんな重大な秘密だって何の心配もなく共有できるのではないか。
 そしてなぜそんなプログラミングをしたかというと、ベリアルはそもそも「ルシファーの助手・秘書」となるべくデザインされたからじゃないか、というのがこちらのエントリ。
https://note.mu/slowdown/n/n1e0f48ae4e06

ルシファーへの過剰適応

 ベリアル本人に聞かれたら一瞬で首と胴を永遠にサヨウナラさせられそうなことをさらに重ねて言ってしまうんだけど、彼の言う「イイ罵倒」「オレのマゾヒズムを擽る気か?」(「失楽園」3話4節)「人も獣も神も、少々偏ってこそ魅力的なもの」(「失楽園」4話1節)」っていうの、アレ全部「これだけファーさんからひどい目に遭わされてもファーさんを嫌いになれない俺」の辻褄合わせのためなのでは?
「ファーさんに何をされても愛して尽くし続けるようプログラミングされて逃げられない」という事実から目をそらすためか整合性を自分の中で取るために、バブさんの「偏り」やビィくんの「罵倒」を褒めて「俺は罵倒されるのが好きなマゾヒストだからいくら罵倒されてもファーさんを嫌えないし、偏った人が好きだからこそその極であるファーさんを好きなんだ」と自分に言い聞かせているのではないだろうか。「魅力的」な「偏り」は「少々」と違うんかい。
 そうしないと「ファーさんを好き」であることが「所詮プログラムされた本能に過ぎず、故に逃れられない」ということや「自分が何をやったところでファーさんはそれを『プログラムの演算結果に過ぎない』と受け取るから感謝も労いもなくて当然」ということを受け入れなくてはいけなくなる。
 逃れられないようプログラミングされているからこそ、ベリアルはルシファーを愛し尽くし仕えることをやめられない。どんなに冷たくされてどんなに傷つけられてもルシファーを嫌いになったり逃げたりできない。ルシファーよりも愛せる誰かを、自分の意志で探しに行くこともできない。だったらそりゃあ辻褄を合わせて自分の心を守るしかないよね。あのねベル、よく聞いて。それはDV被害者の心の動きにかなり近いやつですよ。

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