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DJブース構築 4:計測とプロセッサーの調整

前項にて、スピーカープロセッサーを導入した場合、計測マイクを利用して実際の出力させた音声を計測し、部屋やスピーカーなどの特性に合わせて色々な調整を行うことができます。
ここでは簡易的な調整について記載していきます。


全体の調音と測定

調音にはコツがあります。
最初から"好みの音"という曖昧なものを基準にしてしまうと、沼にハマってどうすればいいのかわからなくなりむやみにスピーカーを買い替えよう!アンプを変えよう!、高いケーブルに変えよう!というよくわからない思考に陥りあっというまに破産してしまいます。
まずは基準として、一般的な方式でできるだけフラットな状態にチューニング、それに対してEQなどの調整を施し自分の好みにカスタムしていくのがおすすめです。

調整のポイントは
・スピーカーとウーファーの音量とタイミングの調整
・定在波(部屋の反響)や機材によって増減している周波数帯域の調整
・サブウーファーの位相
・ディレイ(必要であれば)
です。

調整に必要な機材は
・ラップトップ(WindowsでもMacでもどちらでも良いです)
オーディオインタフェース(コンデンサマイクが繋げられる一般的なもの、MOTUのM2なんか人気ですね)
・インタフェースからDJミキサーにつなげるLINEケーブル(ステレオ)
計測マイク
・計測マイクをインタフェースにつなぐマイクケーブル(モノラル)
・音響測定ソフトウェア(私はフリーソフトのREWを利用しました)
これらを接続しオーディオインタフェースのアウトプットをDJミキサーのインプットに繋いで音が出せるようにしておきます。

上記の通り部屋の調音については計測マイクというものが必要になります。
私は、スタジオルーム側でNeumannのDSPスピーカーを使っている関係上MA1というNeumannの計測用マイクがありますのでそれを利用しています。(NeumannのWEBサイト上でシリアル番号を入力するとキャリブレーションファイルが取得できるのでまともに使えてそうです
サウンドハウスなどで色々な測定用マイクが売られていますので予算に合わせて検討してください。ただし、ちゃんとキャリブレーションファイルが手に入るものにしましょう。
値段が高いわりに出番が少ないので、オーディオ好きには難しいことかもしれませんが万が一友達がいる場合は友人と割り勘して共有とかしてもよいかもしれません。
計測マイクはフロアのど真ん中にでも立てておけばよいでしょう、なるべく一番良い音を届けたい場所に置きます。位置はそこまで厳密でなくてもよいです(大体左右スピーカーの真ん中あたり+人間の耳の高さくらい)

チューニングの順番としては以下のようにになります。

  1. クロスオーバーを80Hzでとりあえず設定する

  2. メインスピーカーとサブウーファーの音量バランスを揃える

  3. サブウーファーの位相を揃える

  4. サブウーファーのディレイを設定する(必要であれば)

  5. マイクで全体を計測し、EQで飛び出た帯域を叩く

何をどう調整するのか、は設定項目が多いうえに聞いたことない用語だらけで複雑です。どこからどう手を付けていいかわからないのでEV社が過去に配布していた導入業者向けの資料をベースに以下を基本として簡易的に調整しました。

1. クロスオーバーの調整

とりあえずスピーカー側80Hz HPF、サブウーファー側も同じ80Hz LPFで設定します。
各スピーカーとウーファーの周波数特性やパワーバランスに合わせて70~100の間で調整すると良いと思いますが、とりあえず基準値があったほうが楽なのでここでは一般的な80Hzを基準値として調整します。

フィルタータイプに関しては色々ありますがとりあえず以下の2種類から選ぶのがシンプルです。
・18 dB/oct バターワース
・24 dB/oct リンクウィッツ/ライリー
のどちらか、スピーカー側とウーファー側に同じタイプを設定します。
一般的には室内であれば残響が多い環境の場合は18 dB/oct バターワース、比較的ドライな環境であれば24 dB/oct リンクウィッツ/ライリーが良いとされています。
バターワースとリンクウィッツ/ライリーの違いについて興味がある方は以下の記事たちがわかりやすかったです。

2. メインスピーカーとサブウーファーの出力バランス調整

  1. マイクの音がインタフェースのアウトからそのまま出ないようにインタフェースかソフトウェアの設定をします(ハウリングします)

  2. REWでクロスオーバー周波数のサイン波を出力します(80Hz)
    インタフェースかREWの出力ボリュームを調整してからプロセッサーの各チャンネルをミュートしてそれぞれ左・右のスピーカーとウーファーから同程度のボリューム感で音が出てるかをチェック

  3. 左右バランスチェック:サブウーファーをミュート、左右それぞれをミュートしてみて左右のボリュームが違うようであればプロセッサーの左右の出力かアンプのGainなどを調整して左右同じ音量になるように調整します

  4. メインスピーカーのチェック:サブウーファーをミュートしてクロスオーバー周波数の2倍の周波数(160Hz)信号を出力してメインスピーカーのボリュームを測定します
    ここでパソコンからの音量とミキサー側のGAINを調整して普段プレイするときくらいの音量になるようにしてDJミキサーのアウトプットも普段基準にしたい信号レベル(メーター)まで上げます。まぁ大体メインアウトは0db/+4db/+6dbあたりを基準にすると思います。(私は0dbを基準にしています、Pioneer製ミキサーだと+4dbか+6dbを基準にする人が多い印象です)
    DJミキサー側の調整ができたら「普段このくらいの音量で鳴らしたいな〜」という音量にプロセッサー側で調整し、測定マイクで入力信号レベルをチェックします。大きく出しすぎて信号が歪まないように注意してください

  5. サブウーファーのチェック:左右スピーカーをミュートしてサブウーファーのミュートを解除、クロスオーバー周波数の2/3の周波数(53Hz)でサイン波を出力します
    先程のメインスピーカーと同じ信号レベルになるようにマイク入力のメーターをチェックしてプロセッサーのウーファー用出力ボリューム調整を行います。
    ※ポイント:ここではフラットを目指し、低音が好きだからってサブ側を大きく出すことはしません、それは後でEQで調整します

  6. すべてのミュートを解除、クロスオーバー周波数と同じ周波数のサイン波を出力して全体のボリューム感をチェックします。(ここで大きすぎたり小さすぎる場合はまた調整しなおしです…)

以上です。ちょっと面倒ですがこれで左右スピーカーとウーファーでだいたい同じボリュームでの音が届く様になりました。

3. サブウーファーの位相チェック・調整

サブウーファーだけ位相のチェックをします。これは簡単です。
0度(正相)と180度(位相反転)両方で設定してみてそれぞれ少し離れて聞いてみて、「ブワブワ」「モワモワ」していない方に設定します。
不安にならないでください、やってみてください、聴けばわかります。もし、どちらにしても同じに聞こえる、わからない場合は0度にしておけばよいです。

4. サブウーファーのディレイ、理論値の計算と調整

これもスピーカープロセッサーで調整できますが、自宅の場合はそこまで広くないと思うので無視しても良いかもしれません。
その場合はウーファーとスピーカーの位置を直接調整して聴取ポイントまで高さも距離も大体同じ距離になるように設置しましょう。
ただし、バターワース・クロスオーバーを設定した場合は後述するButterworth Tweakというディレイ値を設定する必要があります。

もし天井が高い、広い部屋、スピーカーを天吊りなどしていてサブウーファーが離れてるなどの条件がありちゃんと設定したい場合は設定します。
基本的なディレイ値の算出と設定の仕方は以下のとおりです。
特定の周波数などに効かせたい場合は、その周波数の波長なども検討すると良いかもしれませんね。

  1. ディレイの数値の計算:スピーカーとウーファーそれぞれから聴取ポイントまでの距離を計算し3ms/メートルを基準にディレイの値を導き出し、スピーカーかウーファーの聴取ポイントにちかいほうのにディレイを設定します
    Delay理論値ms = (遠い方距離m - 近い方距離m) x 3ms 

  2. ディレイの値は環境次第で計算と現実では微妙にずれるので上記理論値から少し増減させてみて一番音が大きいと感じるポイントが正解です

  3. バターワース・クロスオーバーを設定した場合のみクロスオーバー周波数に応じてButterworth Tweakと呼ばれるディレイを追加します。
    80Hzクロスオーバーの場合は3.13msです。これを聴取ポイントに近い方のスピーカーかウーファーに足してみた場合と逆に減らしてみた場合をチェックして最大音量になった方を採用します。
    ちなみにクロスオーバー周波数ごとのButterworth Tweakの一覧は以下の通りです

5. EQによる周波数調整

REWを設定して20Hz〜24kHzくらいのスウィープ信号(ピューン!と一定の速度と音量で各周波数のサイン波を出していく測定用音声信号)を出して計測マイクで計測します。
上記までの設定をしていればだいたいはフラットな傾向(多少ウーファー側強めかもですね)になっていると思うので計測結果を見て顕著に飛び出ている周波数をGEQを使って下げます。
細かくやっても人間の耳はそこまで良くないので3〜4ポイントに絞ってある程度ざっくりと調整するのがコツです。
あまりにあちこちでピークがあってぐちゃぐちゃの場合はスピカーそのものに問題があるか、設置の仕方に問題がありますので見直しましょう。

ここでもあくまでもEQでの調整を行い、低音増強のためにウーファーのボリュームを上げる。などはしません。また、ここでは一旦フラットに近づけることに集中し味付けは次項で別途行います。

6. PEQで好みの味付けをする

4までを何度か繰り返して調整と測定をし、ある程度測定波形がフラットになってから、最後にPEQ(3〜4バンド程度のEQ)などを利用して低音、中域、高域を好みの音になるように持ち上げたりカットしたりします。
一旦音をニュートラルにチューニングしてから味付けをするようにすることで自分の好みの音が明確になりますし、迷子にならずにすみます。
この辺の作業を面倒くさがって一気にやろうとすると多くの場合はぐちゃぐちゃになってしまって迷子になって何も見つからないまま寿命を迎えるでしょう。
また、好みの調整をしようと思うにはGEQは調整幅が細かすぎて我々凡人の耳での調整は難しいです。

測定ソフトウェアについて

測定ソフトウェアはプロ向けのものも色々ありますが、とりあえずは無償のREWで良いでしょう。充分です。
REWを使っていて機能などが足りなく感じてきたらソフトウェアの購入を検討すればよいと思います。
REWの具体的な使い方に関しては、以下の記事がわかりやすかったです。
その他インターネットで使い方を調べて調べてみてください。

お疲れ様でした。各機材の接続と調整が完了しました。
スピーカープロセッサーは「個人宅のブースにはオーバースペックでは?」と思う方も多いでしょうが、結局あれこれ弄くってEQやらコンプ・リミッターやら追加していくことを考えるとプロセッサーを入れてしまったほうが結果的にシンプルになりますし調整のしやすさが段違いによくなります。
behringer社のものなのでも充分なので一旦導入を検討してみてはいかがでしょうか。
またDBXのPA2などを利用すればフラットにする調整を自動で行ってくれたりもしますので検討するとよいかと思います。

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