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Schneeeinsamkeit

通学路の途中には花屋があって、ギムナジウムがあって、郵便局があって、大きな公園があって、いくつもの喫茶店があって、そのすべてを、雪が覆っていく、うすい琥珀がまざったような色をして、足をのせるとキュッと音を立てて、すべすべと、すこしざらざらと、だけどすべすべとした雪が、世界の音をすべて消して、降ってくる、何も聞こえない街に、誰も歩いていない街に、傘を差して、白い息を見る、赤い指先を見る、ぼとぼとと落ちてくる、すべすべと、すこしざらざらと、だけどすべすべとした雪を見る。

イレーネが眺めている新聞の天気予報欄には雪マーク、
千裕の故郷は、とイレーネが言う、千裕の故郷は雪が降る?
降るよと私、
どのくらいとイレーネ、
そうだな1メートルくらいと私
1メートル? イレーネ、まるくて大きな目がますますぱっちりしている、
それはすごいね、たくさん降るね、
私はイレーネから新聞をもらう、マイナス12度、
私の故郷はこんなに寒くない。

公園にひとり、キュッと鳴る足音、たしたしと傘に落ちてくる雪、重くなってゆく傘、その傘を両手で、握り、たしたしと、おちてくる音を聴く、たしたし、したした、雪はおちる、それだけの音に変えて、それだけの世界に変えて、今ふいに、この遠い街と私の町とが接続される、灰色、私の雪、右へ左へひらひらと、ふらふらと、新雪、雨にまざってびしょびしょと、みぞれ雪、灰色、吹雪、声は聞こえない、存在は聞こえない、たったひとり、誰にも邪魔されることなくたったひとり、どこにいても同じ、これだけは、たったひとり、ひとり、しとり、しとしと、したした、たしたし。

ひとり、しとり、しとしと、したした、たしたし。
たしたし、したした、しとしと、しとり、ひとり。


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