見出し画像

7月_兄と弟の夏休み[フライフィッシング歳時記]

僕には5才年上の兄がいる。あまり一緒に遊んだ記憶が無いが、とある一件だけは脳裏に在る。

兄は子供の頃から生き物に興味が強く、夏休みには昆虫採取の見本を作る様な人だった。
カブトムシやクワガタ採りの名人だった。
僕が小学校の低学年の頃、虫取りに連れて行って欲しいと頼んだ。
鬱陶しがる兄に見かねた母が口沿いをしたので、渋々僕を連れて行く事になった。

兄が採取場所にしていたタカヤマの森は大人の足でも1時間かかる距離。
おそらく兄はその頃既に自転車だったと思うが、僕は未だ乗れてなかったので徒歩で行く事になったとのだと思う。

朝寝坊の上に徒歩1時間半、着いた頃には既に陽は高く、虫の取れる時間帯ではなかった。
結局、小さなコクワガタがニ匹。
憧れのノコギリクワガタは採取できず、肩を落としての帰り道はグダグダだったはずだ。
ぐずる弟に兄は仕方なく貴重なお小遣いからアイスキャンディーを買った。
バーが2つ有って真ん中で割って2本になるやつ。

この件は後々、コトある毎に持ち出された。
「俺はあの時のお前に、、、」


僕にフライフィッシングを勧めたのはその兄だった。
釣果には恵まれなかったが、僕はフライにのめり込んだ。
フライを始めて2、3年の頃だっただろうから、早期の夏季休暇で帰省してきた兄とフライ談義となり、「釣れない」と言う僕に、兄はかつて自分が通っていたイワナ釣り場を案内すると言う事で翌日一緒に釣行する事になった。

目的の場所は木曽の開田高原。
R19を北上し木曽福島で左折してR361を御嶽方面に走る。
この国道沿いに流れるのが木曽川の支流黒川。
開けた里川で春のアマゴ釣りには良い川らしい。
時間に余裕もあるので、ここで竿を出そうと言う事になった。

とは言え真夏の里川、簡単には釣れない。
別れて釣っていた兄がやって来て、土手の上から「そろそろ切り上げよう」と声をかけて来た。
見上げたその視線の奥、上流のプールでライズがあった。
「いまライズしたよねー?」
僕は兄の見つめる中、静かに上流のプールに異動した。
ライズかあったのは流れ込み白泡の切れめ辺り。距離は10メートル。
当時の僕(てか今でも)にしてはロングキャストのディスタンス。
勢いをつけて投じたフライは珍しく一発で決まった。

白泡の切れめに落ちた僕のフローティングニンフ(カゲロウの水面羽化を模したフライ)がそのままナチュラルにトントントンと流れにのった次の瞬間、押さえ込む様なライズに毛針は消えた。

尺には届かなかったが、体高の有る綺麗なアマゴが釣れた。

ドヤ顔で兄を見ると、「やったな」と言い表情で岸際を指さした。
その方向を見ると、そこには体調3センチ程の大型のカゲロウが居た。
おそらくはたまたまモンカケロウのハッチに遭遇したしたのだろう。

その後はまた釣れなくなってしまい、僕らは目的の開田高原に向かった。


その場所は、古い地図だと表記されていた、ちょっとした池の様な場所だったらしい。
実際には土砂で埋まってしまったのか、とくに何の変化も無い、見過ごされる流れだった。

先行して良いと兄が言うので、僕は最も信頼している、そしてついさっき黒川でアマゴを釣ったばかりのフローティングニンフて挑んだ。
しかし反応が無い。
すると、しばらくして後ろから釣り上がっている兄がイワナを釣った。
<えっ?そこさっき流したんだけどなー>
集中して釣る。
と、また後ろで兄が釣った。
「えっ、フライ、何使ってんの?」
兄が使っていたのはトラディショナルな#14のアダムス<(古!>。しかもティペットは5X<太!>

おみそれしました。

当時の僕はかなりフライにのめり込んでいて、雑誌の記事を隅から隅まで読みあさっていた。
情報過多と言うか、あたまデッカチと言うか。
一方、兄は久しぶりの釣行で、持ち駒は古き良き時代の毛針のみ。
そもそもドラッグなど気にしないピンポイントの釣りでイワナを誘い出していた。
なるほど、古のポイントに住む岩魚には巷で流行りのフライなど通用しないと言う事か。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?