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『十三機兵防衛圏』を布教したいだけ

もう発売から4か月以上経ってるのに今さら『十三機兵防衛圏』の話なんて……とは思うのですが、どうしても書きたくなってしまったので書きました。


十三機兵防衛圏はこんなゲーム

「隕石に似た大型の未確認物体」と形容された怪獣に街が壊され、逃げ惑う人々。

その人の流れに逆らって1人の少年が街を行く。

行き着いた先の交差点では1人の少女が艶のある所作でロボットを呼び出し、乗り込む姿を目撃する。

一部始終を見届けた少年はポツリと呟くのだった。

「本当に…始まったのか」


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もはや古典的とまで言われそうなほどテンプレート通りのボーイミーツガールなロボット物の冒頭


『十三機兵防衛圏』はタイトルの通り13人の少年少女が如何にしてロボットに乗って怪獣と戦う運命に導かれたか、そして戦いの先に何を求めるのかを描いたSFジュブナイル群像劇である。


本作はタワーディフェンス系の戦闘がメインの〈崩壊編〉、アドベンチャーゲーム形式でストーリーを読み進める〈追想編〉、それら2本の進行度に応じて解放されるギャラリーモードの〈究明編〉の3本から成り立つ。
〈崩壊編〉と〈追想編〉の進行度は互いに比例する形になっており、片方を無視してもう片方だけ先にクリアするというプレイは不可能になっている。
この構成こそがこのゲームの肝であることだけまずは述べておく。


最初からクライマックスの〈崩壊編〉

先述したオープニングを見終えるとすぐにチュートリアルも兼ねたシュミレーションバトルがはじまる。

慣れた所作でロボット(作中では機兵と呼ばれる)に乗り込んだ少女も実戦ははじめてだったことが冒頭で判明する。
どうも既に顔見知りらしい眼鏡をかけた男が少女に機兵操縦の手ほどきを行い、少女は辛くも怪獣を撃退する。
その後も機兵に乗る少年少女がわらわらと出てくるが、崩壊していく街で出会う彼らは既に見知った顔のようですぐさま仲間であることを認識して怪獣と戦うために団結する……。

ゲーム開始時点でいきなり訳が分からないのは無理もない。〈崩壊編〉で描かれるストーリーはシナリオ全体で見るところのクライマックスなのだから。
13人の主人公たちは既にほとんどが顔見知りどころか、この時点で何組かカップルが成立していたりする。
プレイヤーは、端々の主人公たちのやりとりから何となく事情をわかったようなわからないような複雑な心境のままで、襲い来る怪獣を撃退することになる。

しかし、この訳の分からない序盤こそが大きな意味を持つのだ。


月並みな言葉で申し訳ないのだがパズルのピースが繋がる瞬間だ。

〈崩壊編〉には多くのピースの繋ぎ目が隠されている。

それらは〈崩壊編〉と対となる〈追想編〉を進めることでしか浮かび上がってはこない。

まずは、わけも分からずボーっと眺めて何となくわかったような気になっていればいい。もちろんストイックにこの時点で明かされるキーワードをもとに自分なりの推理を組み立て考察するのも楽しいだろう。

とにかく、この時点でストーリーを理解しようがしまいが今後のプレイに支障はないということは保証しよう。


というのも私はエンディングを迎えると真っ先に〈崩壊編〉のプロローグを再びプレイしたほどだ。

全てを知ったうえで見るそれはゲームをはじめた時とはまったく違う顔を見せるのだ。

そして、〈崩壊編〉のプロローグはクライマックスの序章でありながら13に別れた入り口からはじまった迷路の合流地点でもあることを再確認してまた感動した。


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地味ながらかなり好きなシーン


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女の子も野郎共も機兵の中では等しく全裸


さて、肝心の〈崩壊編〉の戦闘だが良く言えばシンプルでわかりやすい、悪く言えば単調という評価になる。

オープニングで武骨かつメタリックな機兵の姿を見せられた割には〈崩壊編〉でその姿が拝めるのはアクション選択画面のミニアニメーションくらいのもので、実際の戦闘画面はもはや記号というまでディフォルメされた自陣の駒を動かし、自陣の拠点を狙う同じくディフォルメされた怪獣の駒を撃退していく構成になっている。

難易度もそう高いものではなく、後半に現れるステータスを底上げした既出怪獣のパワーアップ版との戦闘はお世辞にもテンポが良いとは言えない。

しかし、このシンプルさがシュミレーションゲーム初心者にも取っ付きやすく、意外と癖になり〈追想編〉のボリュームとの帳尻合わせにはピッタリなのではないかというのが私の意見だ。

難易度調整もあるため自分に合った難易度調整を行えばストレッサーにはならない。

いくらシンプルといえども何だかんだ言って第三世代機の広範囲攻撃で大量の怪獣をまとめて薙ぎ払う様を見るのは気分爽快だ。(ただし画面がカクカクになるほど重たくなるので処理落ちしないかヒヤヒヤもする)

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「ミサイルレイン」という広範囲攻撃。本当にめちゃくちゃカクカクだから急に画面が消えるんじゃないかと不安で怖いんですよ。



謎が謎を呼ぶ〈追想編〉

〈崩壊編〉が13に分かれた迷路の合流地点ならば、13に分かれた迷路が1つの道に繋がるまでを描いたのが〈追想編〉である。

こちらでは13人の主人公それぞれの個別シナリオが記されており、〈崩壊編〉に至るまでの主人公たちの活躍を知ることができる。

13のシナリオに1つとして似たものは無く、どのシナリオも多種多様な魅力に溢れている。



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目が覚めると記憶喪失、目の前には見知らぬ女性の遺体……謎の黒服の男たちに追われながら失われた記憶を取り戻す【関ヶ原瑛編】


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失われた恋人を取り戻すために、人の言葉を喋る猫から課せられるミッションに挑む【薬師寺恵編】


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スパイ容疑をかけられた思い人の正体はタイムトラベラーな上に実は男だった……彼(彼女)を追ったタイムトラベル先の1985年での生活を描く【比治山隆俊編】


このようなバラエティに富んだ様々なシナリオが展開される。

こんなまとまりのない話ばかりできちんと〈崩壊編〉の冒頭に繋がるのかと言いたくなるが心配無用だ。

13人の主人公たちはそれぞれ違ったアプローチで隠されていた真実を解き明かす。それらの真実1つ1つだけでは物語全てに隠された謎の全体像を把握することはできないのだが、〈崩壊編〉ですべてが繋がるのである。

〈崩壊編〉でパニックを起こした脳も〈追想編〉でストーリーのカバーを進めていくと、今この世界で何が行われているのか、ここでの戦いの意味が何なのかが判明していき少しずつ理解できるようになるだろう。

〈追想編〉の特徴的なシステムとしてはクラウドシンクがある。

クラウドシンクとは会話の端々から得たキーワードを脳内で思考したりキャラクターに投げかけることで物語を進めることができるシステムだ。

システム的に見るならばワードを投げかけることでルート分岐が発生し、そこで新たなキーワードを取得することでまた新たなルート分岐を発生させる役割なのだが、このシステムの真骨頂は物語への没入感を飛躍的に高めることにある

フルボイスで主人公たちが得た情報をもとに脳内で考えを巡らせる様はもちろん、箸を食卓に置く薬を飲む焼きそばパンを食うなどのキャラクターの行動のトリガーにまでなっている。

よく動きころころと表情を変えるキャラクターグラフィックも相まって世界観にどっぷりとハマる〈追想編〉の立役者ともいえるシステムなのだ。


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鞍部十郎編の一幕。どこかで聞いたことあるタイトルの映画の名前がたくさん出てくる


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みんな大好き焼きそばパン



影の主人公〈究明編〉

残る〈究明編〉はよくあるギャラリーモードでありこれといって語るようなことはない。

……なんてことはない。

それどころか本作をプレイする上では〈究明編〉の存在が必要不可欠といっても過言ではない。

繰り返しになるが〈究明編〉はギャラリーモードだ。中にあるのは〈追想編〉のイベントムービー、〈崩壊編〉を進めることで埋められる本編中の登場人物や固有名詞についての設定を詳細に記した情報であり、ギャラリーモードとしては一般的なものだ。

だが、それこそが複雑に絡み合ったストーリーの情報整理を行う上で最適なのだ。

というのも本作のストーリー上に仕込まれたギミックの数々はそれ単体で見ればそう驚くものばかりというわけではない。勘の良いプレイヤーであれば(多分こいつの正体はあいつだな……)とか(この現象の真実は恐らくこういうことだな)などある程度までは予測できるだろうし、事実その予測のいくつかも正解だろう。

しかし、ここで活きてくるのが冒頭で述べた〈崩壊編〉と〈追想編〉の進行度が比例するつくりだ。

〈追想編〉の進行順はかなり自由度が高い。

気になった主人公を1人絞り込んで進めてもよし、各主人公のストーリーをバランスよくつまみ食いしながら進めるもよし……。〈崩壊編〉をどのタイミングで進めるかまで考えるとプレイヤーの数だけ進行順は存在するといっても過言ではない。

あっちこっちへ飛び回る時系列に、怒涛の勢いで現れ続ける物語の謎の数々をこれら2つのモードだけで理解しようとするのは到底不可能だろう。

また、これもネタバレなので多くは語らないがこれまでのお話を全部ひっくり返すようなどんでん返しも存在するのでその事実を突き付けられた上で、冷静にストーリーをなぞるのは至難の業だ。

繋がりそうで繋がらない複数の事柄の歯車を嚙合わせるためには〈究明編〉のギャラリーモードの存在が非常にありがたい。「ストーリーが気になるのであってギャラリーモードなぞ興味ないんじゃい!」という人でも必ず〈究明編〉のお世話になる時が来ることを予言しておこう。


おわりに


本当はネタバレ込みの感想のような駄文を発信したくて今回noteに登録した。とりあえず最低でもゲームのおおまかな内容くらいは書いておこうと思い、その前置きとして本作の概要を記していたところ、それだけでそこそこの文字数になってしまった。そのため、今回は本作を未プレイの幸運な方々に向けた布教という形を取った。

ネタバレ込みのお話はそれはそれでまたまとめたいと思う。

本作が気になった人はまず体験版からはじめてほしい。〈崩壊編〉のプロローグと〈究明編〉の各主人公のプロローグがプレイできる。壮大で複雑怪奇な物語の入り口としては十分なボリュームだ。体験版をプレイして何かしら惹かれるものを感じた人は直感に従え。買うんだ。


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