ミツバチ

ぽつぽつ幻想小説

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魔法の境界線

剣を振り下ろすと魔獣の肉が裂け、黒い血が迸り騎士の顔を汚した。耳障りな断末魔の叫び声が騎士の耳を震わせ、魔獣は地をのたうち回る。荒い息を吐きながら、騎士は一瞥だけ向けた。獣の血の混じった汗が額から顎へと伝い落ちる。それを拭う余裕はなかった。 剣を固く握った手はだいぶ前に痺れ、今ではもうなにも感じない。 先を急がなくては。 騎士は左腕の老婆を抱え直した。 老婆は頭から爪先までを覆う長衣に身を包んでいる。ひどく色褪せ、古ぼけた覆いから覗く顔は、乾いた皮膚がかろうじて骨に張り付

    • 【創作小説】飢餓不死鳥喰 第六夜

      十五、虚言 侍女「はい、妾は確かに聞いたんです。奥様の割れんばかりの悲鳴を…。でも何事かと駆けつけた時には、既に奥様の姿はそこには御座いませんでした。なにしろ最近、奥様は常にお人払いをなさっていて……ええ、そうなんです、あの雛を拾ってからというもの、奥様の雛への愛着ぶりは…不謹慎を承知で言いますが、あの先に身罷られた黒王様を思い出させる程で…。雛に与える食事だって、喪中なのにも関わらず奥様が表立ってあちこちの国から取り寄せてらしたし、御自分の手をわずらわせてお作りになってい

      • 【創作小説】飢餓不死鳥喰 第五夜

        十二、鳥の雛  孵ったばかりの雛は、あの淡い虹色の光彩を放つ美しい鳥からは想像もつかない程貧弱で、灰色と白との黒の毛がまだらに入り交じり見るからに見窄らしく、その上あろうことか両脇にあるべき翼がなかった。  斯くして雛は、其の様な大変醜い姿で生まれた。  しかし朱金の奥方はこれを不死鳥の雛であると疑わず、籠の中に雛を移すとしばしば開くことなく雛を見つめた。すると時折ではあるがわずかに、奥方の目には雛の躯全体がほんのりと淡い虹色の光彩を纏っているように見えることがあった。  

        • 【創作小説】飢餓不死鳥喰 第四夜

          十、弔葬  黒王の葬儀は盛大に行われ、北方の民は突然の王の死を嘆き悲しみ、葬儀の行われている殿中に続々と詰め掛けては亡き王への敬愛と悲しみの意を表した。また、黒王の制圧した西方、東方、南方の各国よりも続々と使者が派遣され、香典や王の死を悼んで贈られる献上品の数々に、宮殿は埋めつくされんばかりであった。    偉大なる王の弔いの儀式は終わることなどないかのように続けられたが、しきたりに従い王が棺に横たえられてから十九日目の夕刻に、数多くの葬送品と共に棺には蓋がされ釘が打たれ、

        魔法の境界線

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        • 【幻想小説】飢餓不死鳥喰
          6本

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          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第三夜

          五、ふたりの奥方  黒王の後宮には千人を超える女性が暮らし、彼の妻は皆、世界中から選り抜かれた美姫ばかりであった。彼女のたちのうちのあるものは、この北の大地では考えられぬ程褐色の滑らかな肌をしていたし、ある者は瞳が湖水のように深い紫紺であった。またある者は、女性として比類なく美しい曲線を有し、ある者は妖精のようにほっそりとなよやかであった。彼女たちの誰もが、故郷や祖国の美の粋をを極めた美しさを有し、そして皆それを誇りにしながら、それぞれが慈愛を持って黒王に接し、仕えていた。

          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第三夜

          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第二夜

          三、美しい鳥  籠の中の鳥は風切り羽を切られ両の目玉をくり抜かれ、頭頂から眼窩まで細かい刺繍と宝石を縫いつけた色鮮やかな絹の装飾布を被せられていた。  鳥は籠の中で暴れることも囀ることもなく、ただ置物の様にひっそりとその身を籠の底に横たえているばかりだった。弱っているのは一目瞭然であったが、黒王はその儚げな姿になおさら心打たれ、鳥に深く魅了されるばかりだった。  彼は私室に鳥籠を運ばせると、日がな一日飽きることなく籠の中の鳥を眺め続けた。  のみならず、やがて彼は王として

          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第二夜

          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第一夜

            序、伝説  古代より、彼の鳥の伝説はあった。一年中灼熱の太陽の輝く南方の多島海域の中に、淡い虹色の光彩を放つ美しい鳥たちの棲む島があるという伝説が。伝説の中で鳥たちは人のように言葉を交わし、食事は暁に咲く花に降りた露とあった。羽根の色は霞がかるかの如く見る向きによってとりどりに変化し、さらに太陽の光を浴びる時、その輝きは一層増すと、長い年月をかけて彼の鳥の姿はそう語り継がれた。  こうして伝説の鳥は、人々の口から口へと語られゆく長い年月の間にいつしか、人々の夢の名で

          【創作小説】飢餓不死鳥喰 第一夜

          【短編小説】船牢花葬

           懐かしい水の匂いで絢は目を覚ました。臥したまだ幼い身体が、左右にゆっくりと揺れている。そうして彼女は、自分が船の客室の寝台で眠っていたことを思い出した。彼女は身を起こし、寝台の脇にある丸い小窓から外の様子を覗き込む。蒼すぎて黒く見える海面が、彼女目に映った。波間に水飛沫が立ち、太陽の光を浴びて金色に輝いている。  部屋の入り口近くの椅子に腰掛けていた老爺が、絢が身を起こしたのに気づいて立ち上がった。 「目が覚めましたか」  彼は低く掠れた声でそう言った。片手で杖を突い

          【短編小説】船牢花葬

          ロシアアニメに魅了され~ソユーズムリトフィルム~

          先日こんなツイートを見かけました。 『チェブラーシュカ』『ミトン』で有名なロマン・カチャーノフ監督が在籍したアニメ制作会社ソユーズムリトフィルムのロシア版『白雪姫』らしい。原作はプーシキンが翻訳したものらしいので、さっそく見てみました(↓リンクは字幕なし) なぜ7人の小人が豪傑になったのか、『6人の豪傑(家来)』って話がグリム童話にあるが、なにか関係があるのか。そしてアニメの中では豪傑というより勇ましい猟師兄弟って感じだったが、セリフが少なく登場人物のアクションで進んでい

          ロシアアニメに魅了され~ソユーズムリトフィルム~