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新橋の竜宮城 #2 オアシスサウナ アスティル 前編


給料日はすき焼きにしよう、
と社会人になった年から決めている。これは大好きな東京ダイナマイトのハチミツ二郎さんがそうしているらしく真似したのがはじまりだ。なんだか家庭的でダイナミックな感じで、好感が持てるではないか。
つい先週、給料日だった。


しかし、なかなかお金がまずいと牛は買えないし、すき焼きは4人からのスポーツなので、毎月開催できるわけではない。
とはいえ、給料日くらいは束の間の極楽を味わいたい。

そんな気分のジムの帰り、ああそうだ、サウナか整体に行こう。野山に混じりて疲れをとりつつ、よろづのことに使おう。そんな気分に落ち着いた。

さて、そうなった時に、ジムの帰りである20時で、サウナも整体も、と二つの極楽を横断するのは、少し難しい。選ばなくてはならないけれど、この二択は「一生歯磨きをしてはいけない」と「一生チョコレートを食べてはいけない」いずれかの制約を選ばされるくらいには困難を極める。
悩みながら、都営浅草線を登っていた。

そんな矢先、なんの気無しにサウナに行こうかな、と、帰り道ご一緒したジムのお仲間に話したところ、「新橋ならアスティルですか?もしかして、アスティラーなんですか?」
と少し興奮気味に伝えられた。
ぼくは、試合の前などにアスティルをよく利用するし、深夜にふと思い立ってアスティルまで歩いたりもするため、紛れもないアスティラーだ。

アスティラーなんて言葉は初めて聞いたけれど、アスティルを愛せし者という意味だろうし、少なからずアスティル関係者ではあるので、否定する場面ではない。

「そうなんですよ、アスティラーなんです」
と答え、アスティルについての愛を話し合った。
(この時点でこのあと僕がアスティルに行くことは自明である。)

すると、アスティルについての謎が一つ解け始めた。
アスティルは時間制のサウナで、1時間が1800円くらい、2時間が2000円ちょっと、もっと長いと3000円くらいの料金設定。


※正確な金額は上記でした。

貧しいぼくは、いつも1時間に挑戦する。しかしサウナというスポーツの特性上、インターバルや外気浴の時間、そして髪を乾かしたり服を着る時間が含まれるのだが、1時間にそれらまで収めるのは困難を極める。
そして、サウナは緊張と緩和の場所。熱さを耐える緊張の時間に妥協は許されないし、その後の緩和も楽しみ切らなければ意味がない。ここで1時間に収めるために妥協を許す者は、大切なものひとつも守れない。ぼくは知っている。

「アスティルから1時間で出られた試しがない」
ジムのお仲間もそう仰っている。なるほど、アスティルは誰も1時間で出られない施設らしい。

そして、彼が言うには、アスティルはサウナで温まった体を、マッサージでほぐす施設であるという。
なるほど、サウナだけでも1時間に収まらないというのに、マッサージをおかわりしたら、当然のように2時間すらも危ぶまれるじゃないか。

アスティルが僕の知らない側面を見せ始めた。
ぼくはアスティルのサウナ以外を見ていなかった。好きな人の自分に向けられる側面だけを見ていたら、その人が他の人と接しているときの言動や表情を知らないままでいた時と似ている。もったいない。

そして、思い出してほしい、給料日のぼくは、サウナと整体を求めていたのだ。ここにあるじゃないか、答えが。僕がサウナだと思っていたところは、極楽の複合施設だったのか!
ぼくは、もうアスティルしか視野に入らないくらいに脇目もふらず、新橋を闊歩した。

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