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EPIPHONE Casinoの鳴らし方 後編

 エピフォン(EPIPHONE)の看板モデルにして屈指のロング&ベストセラー、カジノ(Casino)について、後編の今回はパーツ交換を中心としたアップデイトと、実際に鳴らす際のポイントを中心に述べたい。

(画像クリックでHP)





 カジノの、ここではダウンサイジングのクーペをのぞくフルサイズの現行モデルを例にあげるが、レコーディングやライヴにおけるシリアスな演奏において弱点となるのが;
○エレクトリシティ
○マシンヘッド
○ブリッジおよびテイルピース
である。

 悪意の無いことをおことわりしたうえで申し上げるが、エピフォンの純正ハードウェアの品質はかなり残念な水準なのである。精度、耐久性のいずれも私の眼から見ればアウトであり、交換を前提に検討すべきである。


○エレクトリシティ
 まずこれはイチも二もなくピックアップ(以下PU)である。
 カジノの純正P-90については過去記事のなかで採りあげたことがあるのでご参照いただきたい。

 
 他に挙げるべきはジャックである。
 カジノに限らずエピフォンのギターに用いられるジャックは留め付けの六角ナットが緩みやすい。
 他の、例えばレスポールやSGのような中空部の無いソリッドボディであればそれほど心配はいらないが、フルホロウ構造のボディを備えたカジノでは常に弦振動がボディの表板を振動させつづけ、ポットやジャックのナットを緩めさせるのである。
 ケーブルのプラグの抜き差しという外力にさらされて変形や消耗、破損が起きやすいパーツでもある、ジャックはスイッチクラフトのような耐久性の高いものへの交換を急ぐべきだろう。

 その際に

Switchcraft #L11

 プラグを保持する円筒状の受け部‐スリーヴが長いものを選んだうえで

菊ワッシャーとよばれる緩み止めのワッシャーを内側に仕込んだうえで留めるとさらに安心である。
 また、スリーヴの長いジャックであればこの菊ワッシャーを仕込んだとしても、ボディ表側にスリーヴがやや長めに露出する。

見た目が良くないと敬遠する向きもあるが、このほうがケーブルの抜き差しの際にジャックの周辺にキズをつけにくいメリットもある。
 ジャックの価格はそれほど変わらないので交換の際にはスリーヴの長いジャックを選ぶようお勧めする。



○マシンヘッド
 これは過去記事で採りあげたシャーラー(SCHALLER)のM6 90を挙げたい。

 ソリッドボディに比べてギター全体の振動が大きいカジノだが、もうひとつ、ボディとヘッドの長さ、および重量のバランスが他のギターと異なる。
 これは本当に微妙な要素であり、気にならないギタリストにとっては全くどうでもいいことなのだが、ここで重要になるのはマシンヘッドの重量である。
 
 考えてみていただきたいのだが、センターブロック無しのフルホロウボディを備えたアーチトップギターの中でもカジノは全長も短く、ボディも薄い。

 弦振動を受け止め、一部は吸収したうえで一部を増幅して弦に戻すことでギターの固有の振動が音として現れ、ひいてはギターの鳴りとして認知されるのだが、小型でボディの薄いカジノはヘッドの重量の増加が他のギターよりも顕著に音に影響するのである。

 具体的には、重量のあるマシンヘッドへの換装によりヘッドの重量が増し、ヘッド~ネックの共振が抑えられることで固く重いトーンに変化する。
 一方でサステインが強化され、低音弦のアタックが強く出るため、ギタリストにとっては弾きごたえのあるトーンへ変化したと思うかもしれない。

 もっとも、カジノの改造における定番となったジョン・レノン仕様においてマシンヘッドの、グローヴァーロトマティックこと102への換装が広く認知されている。
 エピフォンの過去の限定モデルにおいても102を純正搭載したものが存在しているぐらいだから、重いマシンヘッドを載せたカジノの音も多くのギタリストが耳にしているかもしれず、すでにカジノの音として浸透しているのかもしれない。

 とはいえ、カジノの繊細でアコースティックなトーンを損なうことなく実用性を向上させたいギタリストにとっては換装すべきマシンヘッドはロトマティック系ではなく、純正のクルーソン系のサイズおよび形状に準じたゴトー製、または現行クルーソン・デラックスである。

 
 

○ブリッジおよびテイルピース
先にブリッジについて述べると、エピフォンの純正品よりも重くパーツの共振が起きにくいものを選びたい。
 純正品では土台となるベースプレートが鋳造なのだが、ス(鬆)が多く入っており強度・比重ともに低い。弦振動のギター木部への伝達を任せるにはどうも頼りないので、コストはかかるが良質なリプレイスメントパーツに換装すべきである。

 以前の記事でご紹介したゴトー510FBであればボディに打ち込まれたアンカーをそのまま使って換装できる。
 そこまでガチガチに共振を抑え込まなくても…とお考えであればトーンプロス(TONEPROS)の、アレンスクリューでスタッドに留め付けるタイプのものを選ぶといいだろう。


 さらにテイルピースだが、前編で軽くふれたとおり現行エピフォンの純正品はギブソン工場製の最初期型に搭載のものよりわずかに短い。
 それと、これは現物を手に取って気づくのだが

上がエピフォン純正品
下はALLPARTS製

弦のボールエンドの保持部の3Gおよび4D弦付近が厚く、両端にいくにつれて薄くなっている
 よく見ると弦の保持部は指板のラディアス(曲面)にあわせて山なりになっている。保持部そのものを曲面に仕上げるよりもこのほうが無理なく低コストで製造できるのでこの形状にしたのであろう。 
 とはいえ、保持部そのものが厚く重くなりすぎることと、例によって金属の素材そのものが軽く柔らかすぎる。
 オールパーツあたりの出来の良いテイルピースに換装して弦振動のロスや偏りを低減したほうがギターの鳴りをより大きく引き出せることが期待できる。

 

 もうひとつ、ギタートーンへの影響を計算に入れたうえで、テイルピースだけでなくヴィブラートユニットを取り付けるという手もある。
 アーチトップ・エレクトリックへの後付けのヴィブラートといえば真っ先に挙がるのが

B6 Short  シンラインかつフルホロウボディのカジノに最適

ビグスビー(BIGSBY)トゥルー・ヴィブラートであろう。
 しかし、これはオールドギターについて調べたことがある方であればご存じのとおり、エピフォンがかつて自社製品用に開発した

トレモトーン(Tremotone)というヴィブラートユニットがあり、

カジノにもかつて純正搭載された歴史がある。
 パッケージパーツとしての販売は現在も無いままだし、そもそも搭載した製品がラインアップされない状況が長く続いていたが、幸い近年のエピフォン製品のクレストウッド(Crestwood)および同系のモデルに採用されるようになった。
 中古が主だが流通数が増えて入手が容易になるかもしれないので、カジノでアーミングしたいギタリストや、強いアタックで弾いたときの、弦が微妙にたわんで「逃げる」感触を重視するギタリストであれば取付を検討してみてほしい。

 他に、これはカジノではなくその上位のシェラトンに採用されたのだが

フリケンセイター(Frequensator)・テイルピースもトレモトーン同様のエピフォンオリジナルのハードウェアとして知られている。
 長さの異なる低/高音弦のふたつの軽量なテイルピースによる独特なテンション感に加え、サステインの減少と引き換えに生み出す明瞭で明るいトーンは不思議な魅力がある。
 センターブロックの有るセミアコースティックよりもカジノのようなフルホロウのボディのほうがテイルピースの換装によるトーンの変化は大きいことが予想されるので、オールドギターのオリジナルスペックに縛られずに自身の理想のトーンを追い求めるギタリストであれば試してみてもいいだろう。

 

 他にカジノをプレイするうえでよく指摘されるのはふたつのPUの音量差であり、ネック側に対しブリッジ側の聴感上の音量が小さすぎるというものである。

 これは前編で述べたとおり、カジノのお手本となったES-330が当時のギブソンのラインアップの中でも下位であり、弦との間隔を調整する機能がもとからオミットされているからだ。
 カジノはそれをそのまま引き継いだだけであり、決してエピフォン及びギブソンが不具合に気づきながらわざと見過ごしているわけではないである。
 

 とはいえ、例えばレスポール・スペシャルのようにP-90をふたつ搭載しているギターもギブソンには存在するわけだし、リードフレーズやソロをブリッジPUでガンガン弾きたいギタリストも少なくないはずだ。
 その場合は

(画像クリックでHP)

このような、PUの下に仕込むベゼル(枠)を使って弦との間隔を縮めるとよい。
 オールパーツのこのP-90 Spacer Setは約3.1mmと4.8mmの各1枚がセットになっており、ネック側はそのまま、ブリッジ側PUにどちらかを仕込むことになる。
 ただしネック側もゲタを履かせたい場合や、弦との間隔を微調整したい場合は時間やコストをかけて自作したり、一点もののパーツの制作と取付を修理業者に依頼する手もある。





 
 カジノについては探せば他にも改造やカスタマイズの余地は十分にあるし、ギブソンの規格に合わせたアフターパーツが多く流通しており、それらを流用できるという点でも、例に挙げるのは気がひけるがリッケンバッカー(RICKENBACKER)やグレッチ(GRETSCH)の製品に比べても大きなアドヴァンティッジがある。

 とはいえ、長く生産が続いているとはいえカジノは1958年に登場した最初期型ギブソンES-330の基本設計を継承しており、現在の機材に合わせた根源的なバージョンアップを受けたことのないギターでもある。このことは以前に投稿したがギルドのスターファイアとも共通する。

 長くなるので今回は触れなかったがフルホロウならではの共振はあちこちから発生するし、ライヴにおいては大音量時の不随意のフィードバック‐ハウリングとも格闘することになるかもしれない。
 
 カジノを鳴らす際には、ソリッドボディのギターとの、曲ごとの持ち替えのようなスポット的な使用であっても、特に歪み系エフェクトやアンプの、カジノ用のセッティングを用意しておくべきである。

 例えば、P-90×2基のPUレイアウトが共通するレスポール・スぺシャルからの持ち替えであっても、カジノの低音は芯がぼやけたブーミーなものだし、フルホロウボディゆえの剛性の低さもあって高音の切れ味も鈍い。
 最近ではトゥルーパイパス・スイッチングのペダルも多いし、プログラマブルスイッチャーのような便利な機材も普及している。他ギターからの持ち替えの際のセッティングの切替に手間取ることも少ないだろう。
 ギターのボリュームツマミを絞っただけ、足元のボリュームペダルを上げた(音量を下げた)だけでごまかすようなことはせず、カジノが最良の音で鳴ってくれるセッティングを研究し、オーディエンスに聴かせてほしい。

 2020年代の現在はノイズが少なく、音像を必要以上に崩さない優秀な歪み系ペダルが多く流通しているのもカジノをプレイするうえでは追い風となることだろう。

エレクトロ・ハーモニクス(ELECTRO HARMONIX)のソウル・フード(Soul Food)といえばクローン(KLON)のケンタウルスがモチーフの歪みペダルだが、ギターの表情を殺さずに十分な歪みを加えたうえで音に厚みを持たせるというキャラクターはP-90搭載のフルホロウボディというカジノに組み合わせても十分に魅力的であると思う。
 ノイズ、音ヤセともに非常に低いことも、ハウリングを常に意識しなければならないカジノにとって有効である。

 なにぶんオリジナルたるケンタウルスが入手困難であり、その音を知っているギタリストも減りつつあるが、かといってカジノと組み合わせてはいけない理由とはならないだろう。興味のあるギタリストはぜひ試してみてほしい。





 最後にカジノのサウンドのサンプルとして、ポール・ウェラー(Paul Weller)のライヴをご紹介しておく。

 決してカジノひと筋というわけではなくSGやテレキャスターも手にすることのあるウェラーだが、やはり年季の差というものであろう、マーシャル(Marshall )のチューブアンプに繋いで鳴らされるカジノのラフさやビリつき、ギラついた感触まで我がものとしているのはさすがである。


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