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まちがっていいとき、わるいとき

就いた企業の研修も進み始め、
同期と一緒に話す機会も増えてきた。
喫煙所で時々一緒になるメンバーとは
割と話すことが「できる」ようになってきたし、
なんとなくみんなの価値観とかも読めてきた。
それでもやはりみんな同じ痛みを
抱えて生きてきた人間でないので、
傷をさらけだしても
それを傷だなんてわからず
つつかれたらたまったもんじゃない。
油断ならない日々はまだ続いている。

本格的な研修が始まってはじめての金曜日、
いわゆる花金だ。
とりあえず帰って、
家で冷えてる見たことないモンスターを飲んで
彼女としている交換日記を
凝った文体で書いてエッセイストを気取ろうと
思っていた矢先、
「大河飲みいく?笑」
と誘われた。

正直やぶさかではなかった。
そういえば最近お酒はあまり飲んでいない。
ただ来週の金曜もほぼ同じメンツで
飲みに行くの予定が経っていたので
いこうかなぁ、と一言返した時
「別に今じゃなくても良くねえ…?」
と思ったのが顔に出てないのかが心配だった。

今まで僕は自分が今まで負った傷の方が
重たいだなんて思っていたが、
なんとなくそうじゃないだろうな、と
この誘いで分かった。
飲み会に誘うということは、
みんなはお酒の美味しさを
知っているということだ。
日常を忘れる楽しみの愉悦も、
非日常を楽しむ背徳も。
逃げたいことがそれぞれにあるんだな、
なんて気づいて、
自分の痛みが少し恥ずかしくなると同時に、
和らぎ始めるのが自分でわかった。

電車で新宿まで向かい、
優しい同期が選んでくれた
お店にお邪魔する。
「誰の隣が一番会話に溶け込みやすいか」を
考える間も無く席につくと、
iPadの近くに座った人が手際よく
みんなの注文をまとまる。
大人だなぁと感心していると
お酒が出てくる。

そこからはくだらない話が始まった、
会社で話すのは
自然と仕事の話題などが多くなるので、
みんなが各々のプライベートを
赤裸々に話し始める。
酒に酔ってどこかみんな言葉を
選ばなくなったあたりで、
自分が意外と酔っていないことに気づいた。

この飲み会で僕は、
梅酒のロック、コークハイ、ハイボールを
頼んでいる。
酒の弱い僕は、普段なら頭をガンガンに
痛めながら帰ることになる。
これを書いている現在、
いわゆる「ほろよい」程度で済んでいる。

飲み会の会話の隙間で、
なんとなくわかってきたのが、
酒を飲んでいるからと言って
自分もまだ油断をしていないことだ。
今まで吐いたり潰れたりした時は
周りに親しい人間しかいなかった。
要は、
「ダメになったところを見られても
かまわない人たち」
としか飲んでいなかったわけだ。

その時は酔いこそ回っていたが、
酔ってる語彙を使って会話に入り、
そこそこ場を盛り上げた方だと思う。
そういうスキルだけちょっと長けてるのだ。
そして自然とそれをする義務を感じたのか、
そうするために頭を回していたし、
無自覚に飲むペースを下げていた。
つまり今はだめになっては
いけない時だと判断したわけだ。
お陰でこれを書いている今、
自分の意識ははっきりしている。

そして気づく、
周りの人間も、
本当に酔って楽しんでいる人間こそいたが、
場を盛り上げるために
酔った「ふり」をしている人間が
何人かいたこと。
自分の傷に触れられたくないから、
必死に身を隠す者がいたこと。

お酒を飲むのか逃げ道だが、
逃げている対象は複数だ。
現実から逃げおおせたと思って
茂みに隠れていても、
いつ無神経な同僚というランボーが
バズーカぶっ放してくるかわからない。
気を張らないふりをすることに
気を張りつつ、
会話をコントロールしている人間がいるのが、
混戦する無線の中でかろうじて
傍受できたのを僕は確かに感じた。

痛みは同じではないかもしれない。
でも、痛いのは皆同じだ。
そしてそれを癒したい人も、
診てもらいたい人も、
隠したい人だっている。
それを青春の中で経験して、
社会の中でもそれを活かしているわけだ。

結局楽しい雰囲気の中ではあるが、
それを作っていたのは
歯を食いしばってる人間だったわけだ。

それとなく帰りの電車に乗るために
それぞれが駅に戻る。
一人で駅のホームに向かっているときに、
「僕の傷はみんなに見られていたんだろうか」
「見せてどう思われたんだろうか」
「癒されることはあるのだろうか」
とか難しいことをいっぱい考えてしまって、
喉の奥から涙の味がしてくる。

理解されなくてもいいから、
傷を見せても笑われないことを望む。
傷を見せても、
それ傷なんて思わず、
「いいタトゥーじゃないか」なんて
おどけながら傷を個性として
認められる日が来るのを願う。
そんなふうに思って、
土曜日が息をひそめて
日付が変わるのを待っているという信号を
カレンダーから傍受した。
休みは油断していよう。
油断していられる人といよう。
油断せず生きる日々を、
耐え忍ぶために。

こんなnote書いて、
同期にこれを見つけられたら大変だ。
一応ここでフォローを入れておく。
そうこう言いつつ楽しかったです。
これでどうか納得してください。

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