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工場見学に行ったよ。

先々週の金曜日、日本製鐵の室蘭製鉄所の工場見学に行った。

工場見学に行くきっかけは、私の研究室のOGさんでポスドクで日本製鐵の研究所に入り、正社員採用された方がいて、そのひとが学校に説明会に来られたときに話を伺っていたら、「ウチに来る気が無くても、工場見学だけは行ってみたほうがいい。私は世界観が変わった。生物系をずっと専攻してきたが、こんなところがあるなら工業系に進むのもアリだったなと思った」などと仰り、ほかの社員さんからも「工場の中を見て回れる機会は、この新卒採用の時期しかないから一回来てみなよ」「交通費・宿泊費も出るし、懇親会も出れば夕食代もタダだし」と言われたので「いっちょ行ってみるか、世界観を変えに」と思ったからである。


結論から書くと、世界観は変わらなかった。

そもそも20代も後半の人間の世界観を変えるのはちょっとやそっとのことでは無理だ。

ただすごく楽しめたのは事実。

鉄を鍛錬する系の動画はTiktokやYouTubeショート、あるいはFacebookの広告等でたまに流れてくるので、興味はあんまり無くても日常的に目に入ってくる類のものではあった。

しかし、さすがは日本一、世界でも4位に食い込む日本製鐵である。規模感が違う。私が行った室蘭製鉄所は中でも一番規模が小さいというから驚きだ。鉄鉱石や鉄を運ぶための線路が四方に走っており、信号もあるし、水道・電気・ガスなどのインフラ設備も自社の工場内で賄ってるらしいので、一個の町みたいになっている。


ここで余談。
日本製鐵さんは「ニホンセイテツ」ではなく「ニッポンセイテツ」らしい。
正直、そこに所属していないものからしたらニホンでもニッポンでもどちらでも構わないのだが、そこの社員さんからしたら重要なポイントのようで、前述のOGさんから「さっきから "ニホン" じゃなくて "ニッポン" だから」と懇親会中に指摘を受けた。


工場見学中は写真撮影NGで、基本社外秘なので、ここでもどれくらい書いていいのかわからないが、学生諸子は一旦参加してみるのもアリだということをお伝えしたい。

製鉄所は事務方を除くと大きく3つに大別される

  1. 製鉄工場

  2. 製鋼工場

  3. 線材工場 (室蘭製鉄所の場合)

製鉄工場では、輸送してきた鉄鉱石を高炉でコークスなどとともに熔かし銑鉄を作る。高炉から取り出された熔解物は比重によってスラグと銑鉄に分けられる。鉄鉱石には鉄以外にアルミニウムやケイ素、炭素、リン、窒素化合物などが含まれており、高炉から出てきたときには、アルミニウムなどの金属はスラグの中に、炭素などの有機物は銑鉄の中に含まれる。
この銑鉄から不純物を取り除き、100%鉄に近いものを "鋼" と呼ぶそうで、鋼に加工する工程すなわち「鋼を製造る」のが次の製鋼工場である。

製鋼工場では、銑鉄を転炉に移し、酸素を高濃度で吹き込むことにより脱炭素を図るらしい。せっかく高炉で鉄鉱石の主成分であるFe2O3などから酸素分子を取り除いたのに、酸素なんて吹き付けたら元の木阿弥じゃないかと思われるだろうし、私もそう思った。しかし、1000℃を超えたあたりから鉄よりも炭素のほうが酸素と結びつきやすくなるという性質があるらしく、超高温下で酸素を鉄と酸素の混合物に吹き付けてやることで脱炭素できるらしい。リンと窒素に関しては、説明が駆け足だったのであまり覚えてないが電気分解的なことをして取り除いているらしい。
そんなこんなでほとんど鉄になった鋼が連続鋳造機で棒状に加工され、次の線材工場に送られる。

線材工場というのは室蘭製鉄所における場合であって、ほかの地域の工場では別の名前らしい。室蘭では棒や線状の鋼しか出荷していないため、そう呼ばれている。棒線とはワイヤーやバネとかのようなもののことである。

規模感に驚いたこと以外で、私が工場見学を通して学んだことは、

「鉄は炭素を多く含むことで非常に硬くなるが非常に脆くなる、一方で、炭素をほぼ全て取り除くことにより硬さは失われていくがしなやかになる」ということ。
たしかに「日本刀の鍛造の仕方」みたいなものを参照しているときに、刃側と峰側の炭素含有量の違いで反りが云々みたいなものを読んで薄~く知っていたような気もするがあんましよくわかってなかった。その機構については今も結局よく理解できているとは言えないが、なんとなくわかった気がする。
製鋼工場では、その都度注文の品に適するように炭素含有量を調整しているらしい。

そして「連続鋳造」というもの。
よくショート動画で流れてくるのは、土で成型した型にドロドロの鉄を流し込んでいくというもの。小さいとは言え一日に何百~何千トン (正確な数字忘れた) もの粗鋼を生産している工場が、そんなにチマチマ作業を行っているはずはないと思っていたが、それを解決するのが連続鋳造機という代物だ。
簡単に言うと、型は使わず、熔解した鉄を銅製の長い筒のようなものの中に通し、リービッヒ冷却器の要領でその周りに水を流してあげることによって、熱伝導性の高い銅が鉄の熱を水に受け渡し、冷まし固めていくというものだ。これによって何百トンもの熔解した鋼を長~~い一本の棒鋼にする (もちろん線材工場に移送するために途中で切るが)。
私が行ったときには転炉がちょうど動いてなかったので、連続鋳造の様子と、棒鋼への加工の様子しか見られなかったが、テレビカメラ等が入らない場所なのでワクワク感は結構あった。

さらに「高炉に入れる前の鉄鉱石等の成分調整」の話。
鉄鉱石は毎日のように1ロット10万トン単位でタンカーで世界各地から運ばれてくるそうなのだが、その原産地やロット内で鉄鉱石に含まれる成分が様々らしく、高炉に負担をかけないように、スラグをなるべく出さないように事前に成分調整を行うらしいのだが、それがなかなか難しいらしい。
蕎麦屋が毎日その日の温度や室温に合わせて蕎麦粉と水の配合を微量に変えるというのは有名な話だが、それを何十トン単位の鉄鉱石で行い、それによって単位原材料あたりの生産量を上げコストカットを実現していく。いかにも難しそうだ。


以上のような学びがあったが、生業にしようとは思わなかったので、就活はしないと思う。

だが、これから就活予定の学生さんは是非行ってみたらいいと思う。

(工場見学後の懇親会は行っても行かなくてもいいと思う、正直収穫があったかと言われたら微妙だったから)
(説明会後の懇親会は行ってもいいかもしれない。工場見学に行くきっかけになったし、割とちゃんとした社員さんが来たから)




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