見出し画像

A・K、海を渡る #AKBDC #ppslgr

【おことわり・今作品は、パルプスリンガーズ二次創作となります】
【この作品はフィクションで、実在の地名人名その他とは関係ありません】

――01――

ブオーッ!!!!! 汽笛の音で、A・Kは唐突に目覚めた。
「ハッ。ここはどこだ。おれは一体」
カラン、コロン。
椅子に寝そべる彼の手から、コロナの空き瓶がこぼれ落ちた。
「おっと」
船が揺れ、空き瓶が船上を転がる。

『間もなく、本船は竜ヶ島……竜ヶ島港に到着します』
「ハァ!? おれは日本行きの船に乗った覚えは……あッ」
チャポン。彼が追う間もなく、空き瓶は船の縁から海の中へダイブした。
「ヤバ、不可抗力。誰も見てない?」

フェリーが港に接岸する。
視界の端で噴煙を上げるは、活火山・椿島。
沿海部にフジツボめいて密集した建物。
地方都市・竜ヶ島。
「ファック。昨夜飲み過ぎたな」
A・Kは船を降りて陸橋を登り、売店で新しいコロナを買った。

『註册商標・可口可楽』の赤文字白Tシャツに汗が滲む。
はき古したリーバイスのジーンズは、寝転がったせいで皺が寄っていた。
「ファック。クソ暑いな……ここはメキシコか」
彼はコロナ片手に毒づき、港に降り立った。

港間近の岸壁にはパラソルが立ち、男がビーチチェアに座っていた。
「このクソ暑い中、物好きなヤツだな」
A・Kはコロナをラッパ飲みしつつ、その男の方に近寄っていく。
インディアン・ビディの紫煙がほろりと流れてきた。

開いたスケッチブックに走る鉛筆。
それはロイド眼鏡をかけた、犬めいた顔の中年男だった。
半袖のかりゆしは淡い枯れ草色の芭蕉布。
A・Kがパラソルの隣に立ち、横目で男を窺う。
男のはだけた襟元から肩口の刺青が覗いた。

――02――

「どうも。きみ、旅行者?」
「おれに話しかけてるのか?」
A・Kは真の男なので、初対面の胡散臭い中年男に警戒を欠かさない。
「他に誰かいるかネ」
ブオーッ!!!!! 岸壁の向こうで、フェリーが汽笛を上げて離岸した。

A・Kは唸り、コロナを一口飲んだ。彼は機嫌が悪かった。
昨日は31歳の誕生日だったが、31アイスが食べられなかったのだ。
「あんた、絵描きか」
「まぁネ」
パラソルの横の看板には、『似顔絵描きます:1枚1,000円』の表示。

「うわーッ、船だ! ブオーッ!」
「凄いね、楽しいね!」
「キャッキャッ!」
彼らの背後で、若い母親と男の子と女の子が走り去る。
「いい街でしょ」
「さぁ。とりあえず、クソ暑い」
「言えてる」
A・Kがコロナをもう一口。

彼はコロナを呷って飲み干すと、ゲップをこぼしビーチチェアに腰かけた。
「昨日、誕生日だったんだ」
「それはおめでとう」
「どうも。この年じゃおめでたくもないが」
それが合図だった。犬顔の男が白紙のページをめくる。

「そのTシャツ、良いね」
男が紫煙を吐き、咥えたビディを灰皿に突き立てた。
「オッサンのアロハほどじゃないけど」
A・Kは空き瓶を傾け、コロナの最後の一滴を舌に落とした。
男は笑みを浮かべ、ページに鉛筆を走らせる。

「何か、近場で面白いところ知らないか?」
A・Kは欠伸と共に顔を逸らし、耳元でコロナの空き瓶を揺らした。
「お、そのポーズいいね。いただき」
男がさらさらと鉛筆を動かした。
「中華街とかどうかな。近場にあるけど」

――03――

A・Kは街を歩きつつ、鉛筆スケッチの似顔絵を眺めた。
似顔絵はデフォルメを利かせながらも、特徴を掴んで描かれていた。
スマホで写真を撮り、Saezuriに流そうとしたが恥ずかしいから止めた。
「そういう柄じゃないしな」

彼はメッセンジャーバッグに似顔絵を仕舞い、ゲームセンターに歩み入る。
剣闘の時間だ。
彼は店内に油断のない視線を巡らして、アイカツ筐体を探した。
休日のゲーセンは子供連れやカップル連れで、大いに賑わっている。

ゲーセンの店内には、明らかに店員ではない大人2人組が徘徊していた。
A・Kは私服刑事と直感した。
この街には警官がやたらと多い。治安の悪い街なのだろうか。
「嫌なところに来ちまったぜ」
彼は人込みをかき分けて歩く。

「ない……」
A・Kは『可口可楽』のカップベンダーの前で、悪夢めいて呟いた。
「アイカツ筐体が、ない」
ガコッ、ガラガラガラッ、ブーッ……ピーッピーッピーッ。
彼は失意の表情で、Lサイズのカップ可楽を取り出した。

A・Kはベンダー横のベンチに重く腰を下ろし、背もたれに片腕を回した。
投げやりにカップ可楽を飲む彼に、人込みの中から歩み寄る2人組。
(クソッ、さっきのヤツらか、面倒くせぇ)
A・Kは不愉快な表情で2人組を睨んだ。

「ちょっと失礼」
2人組の1人、気性の荒そうな30代女性が口火を切った。
連れは、真面目そうな20代後半の男性。
「おれに、何か用ですか」
2人は黒革の警察手帳を開いてA・Kに見せた。
女は深水、男は向島という名前だった。

――04――

「あんた、この辺の人間じゃないだろう」
深水が出し抜けに言い、A・Kは明け透けに眉を顰める。
「旅行者ですよ。それが何か」
「ちょっと人を探してる。身分証を見せてくれないか」
「失礼だな。おれが悪い人に見えると?」

「まあまあ、ちょっとした捜査の一環で。ご協力いただけませんか?」
向島が慣れた様子で、穏やかに口を挟む。
「ヤな感じっすね。それって人権侵害」
「見せられない理由でもあるのか?」
深水が腕組みして語気を強める。

A・Kは溜め息をこぼすと、カップ可楽を半分ほど呷り、ベンチに置いた。
(偉そうにしやがって、このクソポリが)
悪態は口に出さず、彼はメッセンジャーバッグからパスポートを取り出す。
「どうぞ」
「ご協力、感謝する」

深水が嫌味な笑みと共に、A・Kのパスポートをむしり取った。
彼女は先頭のページを開き、向島と何か話しながら、中身を検めている。
「すいませんね、人違いでした」
やがて向島が、人の良い顔でA・Kにパスポートを手渡す。

「行くか」
深水は興味を無くした顔で踵を返し、A・Kに背を向けて歩き出す。
「人違いだったのに、詫びの一つも無いのかよ。さすがクールジャパンだ」
A・Kがカップ可楽を片手に嫌味を言うと、深水が鬼の形相で戻ってきた。

「何だとこの!」
(ヤベッ、ポリに喧嘩売っちまった)
「おぉっと! カキョウさん、いいから行きましょ!」
向島が深水を背後から羽交い絞めにした。
「放せこの!」
「すいませんっしたー」
向島が深水を引きずって行く。

――05――

「ファック。剣闘はできねぇし、ポリには絡まれるし」
A・Kはメッセンジャーバッグを背負い直し、ゲーセンの自動ドアをくぐる。
彼は空を仰いで、顔に片手をかざした。
9月だというのに蒸し暑く、降り注ぐ陽光は殺人的だ。

A・Kは通りを歩く人々を眺め、行く当てもなくぶらぶらと歩き出した。
そもそも、どうやってこの街に辿り着いたのだろう。
彼は考え、直ぐにどうでも良くなって止めた。
A・Kは既にコロナを2本飲んでおり、ほろ酔い状態だ。

中華街・小南京(リトル・ナンジン)。
時刻は正午が近く、小ぢんまりとした中華街には人が溢れている。
「気分が悪ィ。ファック、酒が足りねぇな」
彼は呟き、台湾料理店・喜喜麺線(ダブルハピネス)に足を踏み入れた。

「いらっしゃーせー」
「どうも」
彼はポケットに両手を突っ込み、店内に視線を巡らして安全を確認した。
アルミの大鍋を前にしたカウンターに座り、メニューを手に取る。
「ご注文は」
「大腸麺線、鶏肉飯、あと台湾啤酒も」

ポンッ。
「どうぞ」
「どうも」
抜栓された台湾啤酒の緑瓶を差し出され、彼はビールで喉を潤す。
茶髪のチンピラみたいな店員は、愛想の良い笑みでアルミ鍋をかき混ぜた。
A・Kは懐からスマホを取り出し、Saezuriを起動した。

noteに放流した #AKBDC には未だ反応が無い。
パルプスリンガーたちはいつも通り元気な様子だ。
「S・C、車がパンクしたのか。ウケる」
A・Kは面白半分にツイートを返し、冷たい台湾啤酒を呷った。
彼の背後に人が歩み寄る。

――06――

「あぁ゛?」
「あッ」
A・Kが眼光を光らせて振り返ると、先ほどの刑事2人と目が合った。
「ご苦労様です」
A・Kの嫌味に深水が鼻を鳴らし、彼の隣に座る。
「お待たせしましたー」
A・Kの前に、麺線と鶏肉飯が差し出された。

台湾黒酢をたっぷり、ラー油を少々。
A・Kは台湾啤酒をガブガブと飲み、麺線と鶏肉飯をガツガツかっ食らった。
「麺線は飽きるほど食ったけど、ここのも旨いな」
「ありがとうございます」
茶髪店員が嬉しそうに会釈する。

A・Kは空腹と酒が満たされ、ようやく機嫌を取り戻した。
「すいません、お勘定」
「ありがとうございます。また来てください!」
(また刑事に絡まれたら叶わねぇ)
微笑む店員から釣銭を受け取り、彼は素早く店を抜け出す。

日本語、北京語、広東語に英語。
通りを行き交う様々な言葉を聞き流し、A・Kは人込みをかき分け歩く。
出口に、小ぢんまりとした飾り門・牌楼。
眼前には巨大なドブ川。
細い一方通行道路に挟まれ、間に橋が架かっている。

「おっとと……ヒック、これからどうすっかな……」
A・Kは足元をふらつかせ、橋の欄干にもたれてドブ川を見下ろした。
橋の上では、通行人を避けて無数の土鳩が歩く。
大通りから一本外れた道路に、牌楼が影を落としていた。

バラタタタタタタタタタッ!
「「「ギャーッ!?」」」
大通りで、不意に乱射音!
「ワッザファック!?」
ポポポポポッ――ッ! 一斉に土鳩が飛び立つ!
ブルォォォンッ! そしてエンジン音! 音はこちらに向かってくる!

――07――

ブロ―――――ンッ!
改造マフラーを唸らせ、シャコタンの改造セルシオが一方通行道路を逆走!
「ジーザズッ!」
バラタタタタタタッ!
後部座席の窓から、バンダナ男が密造MAC M11を乱射!
ドライブバイシューティングだ!

「ファック、ファック、ファック!」
A・Kは素早い身のこなしで、鳩のクソだらけの橋に身を伏せる!
バラタタタッ! キューンキューンキューン!
「「「ギャーッ!」」」
辛くも回避! 無辜の通行人が何人も銃弾に倒れる!

「何なんだ一体! この街は戦場か!?」
A・Kは鳩のクソの臭いに辟易して身を起こし、耐えきれずドブ川に嘔吐!
「ゲボーッ! ファック、飲み過ぎたか」
ドガッ! 欄干に掴まる彼の身体が、横合いから突き飛ばされた!

「どこ見て歩いてんだ、クソ野郎!」
「何だとファック野郎!」
咄嗟にA・Kは振り返ってダブルファックサイン!
「気を付けろクソガキ!」
「バーカッ!」
フィリピン系のローティーン少女が、A・Kに中指を突きつけ走り去る!

「クソッ、何でこうなる……」
A・Kは習性めいてポケットを探った。
「あ」
財布がない! どさくさに紛れ、さっきの少女がスッたのだ!
「ゲボーッ、やりやがったなクソガキ!」
A・Kはドブ川にもう一度嘔吐し、走り出す!

「へっへへ……この街でボケッとしてると危ないよ、っと」
裏路地。ローティーン少女が周囲を警戒して歩きつつ、財布を検める。
ドッドッドッドッドッ!
「ク、ソ、ガ、キ、めぇーッ!」
背後から全力疾走でA・Kが急速接近!

――08――

「ウワッ、手前! 気づくのが早ェーんだよ!」
「舐めとんのかボケェ! おれの財布返せ!」
「へへーん、お尻ペンペーン!」
少女はA・Kの財布をホットパンツのポケットにしまい、尻を叩いて挑発!
余裕の笑みで駆け出す!

「クッソ、足早ェ!」
A・Kは酩酊状態で、目を回しながら疾走!
「私の出番らしいな!」
裏路地の看板を飛び渡り、A・Kの眼前にエルフの王子が着地!
彼は質量あるイマジナリーフレンド、A・Kの危機にはいつでも駆け付ける!

汗まみれの可口可楽Tシャツと、エルフ装束!
2人は薄汚い裏路地を隣り合って走る!
「助かるぜ王子、挟み撃ちだ! 絶対逃がすな!」
「任せろ!」
王子が跳躍しビルの屋上を先行!
A・Kは両手で頬を叩き、自分に喝を入れる!

貧民窟・通称『0番街』。
「ヒヒヒ、そろそろ撒いたかな……さぁて、お金お金」
A・Kから200mほど離れた先の路地で、少女が財布を取り出す。
「見つけたぞ!」
その時、少女の前方にエルフの王子が回転着地!
「何だ手前!」

シュトットットッ! 少女の足元に、木の矢が3本突き立つ!
王子は背負ったショートボウを構え、目にも止まらぬ速さで3回射たのだ!
「友人の財布は返してもらおう!」
「手前、しつけーんだよ!」
少女は元来た道を逆走!

「オラァッ! 見つけたぞバカガキィ!」
0番街の入り口で、A・Kはこちらに走る少女を発見!
少女の背後から、王子がビルのベランダを飛び渡って迫る!
「バカは手前だ、バーカバーカ!」
少女は足踏みし、路地を左折した!

――09――

「A・K! この先は大通りだ!」
「ヤベェ、タクシーに乗られたら終わりだ!」
A・Kはこの世の終わりめいて叫ぶ!
「逃がしはしない!」
エルフの王子が、ビルの屋上を飛び渡って疾走!
彼は走りながらショートボウを抜いた!

王子が少女を追い抜いた位置で、屋上に着地して弓を構える!
繊細な指で木の矢をつがえ、ヒュバッ!
シュトッ! 王子の矢が、少女の走る軌跡の前方に刺さる!
「あッ」
バタッ、ゴロゴロッ! 少女は足を取られ派手に転倒!

「いってぇ、クソッ……」
少女が毒づき、剥き出した足の擦り傷を気にしつつ立ち上がる。
「よーし、クソガキ。そのままじっとしてろ!」
A・Kが追い付き、立ち止まって息を切らす!
「ムン!」
彼の隣にエルフの王子が着地!

「クソッ! 手前ら、あんまり舐めてっと殺すぜ!」
少女は苛立ち、どこに隠していたのか、懐から密造1911拳銃を抜いた!
「そりゃこっちのセリフだ!」
A・Kも後腰からM13マグナムを抜き、エルフの王子は弓矢を構える!

2対1!
「ヒェ……」
少女は予想外の顔! 1911を構える手が震えている!
「さぁ、女子よ。怪我をせぬうちに、財布を返すのだ!」
王子は弓を油断なく引き絞り、厳しく少女に諭す!
「クッソ……大体何なんだよ、お前らは!」

「そこまでだ」
少女の肩を何者かが叩き、ビル街の翳りから一歩踏み出た。
「ムッ!? 新手か!」
白髪交じりの髪。黒スーツ。
その男の顔は翳り、手は上着の懐に伸びている。
ヒュバッ! 王子は反射的に、無言で矢を射た!

――10――

黒スーツの男は銃を抜き、頬に掠める矢を恐れず一歩歩み出た。
P9S拳銃のサイレンサーが、鈍く光った。
「ヤマダ、いい所に来た!」
「探したぞ、サラ」
「やっちまえ!」
少女・サラが、男・ヤマダの背後に隠れて叫んだ!

「こんのガキ! さっさと俺の財布返せ!」
「次は頭を射るッ……!」
リボルバーを弓を構える2人に、ヤマダは訝しい表情を返した。
「サラ」
「知らない」
「サラ」
「知らないったら!」
「知らねーわけねーだろクソガキ!」

「……サラ」
ヤマダの低い問いに、サラはしんねりと視線を逸らした。
彼女が背中に隠した物を、ヤマダの片手が奪い取る。
「返せよ……フギャッ!」
ヤマダはサイレンサー銃を仕舞うと、サラの頭頂部に拳骨を食らわせた。

「成る程」
ヤマダは財布を見て小さく呟き、A・Kとエルフの王子に財布を掲げた。
「これか」
「それだ、さっさと返せ!」
「わかった。私は思い違いをしていたようだ」
「思い違いだと!?」
A・Kは財布を投げ渡され、憤る!

「状況は大体わかった。銃を下ろしてくれ」
「ふざけんな! ていうかお前誰だよ! そいつの保護者か!」
「落ち着け、A・K。話の通じる人間のようだ」
王子が弓を下ろし、奥ゆかしくA・Kのリボルバーの銃口を押し下げる。

「手前、銃撃のドサクサに紛れて財布パクるたぁいい度胸だぜ!」
ヤマダがサラを見下ろすと、サラはバツの悪そうな顔で小石を蹴った。
「アイス、食いたかったんだよ……あたい、金ねぇし」
「だからって人の財布盗るな!」

――11――

ブロ―――――ンッ!
A・Kとエルフの王子の背後で、エンジン音が響く!
「マズい、ヤツらにバレたか!」
「誰だよ!?」
狼狽するA・Kを待たず、ヤマダはサラの手を引いて駆け出し叫ぶ!
「逃げろ、ストリートギャングだ!

ガコッ、バタッ、ブローッ!
改造セルシオが裏路地の設置物を薙ぎ倒し、A・Kたちの方に走ってくる!
バラタタタッ! 窓から密造M11の乱射!
「ウワーッ! 死にたくないッ!」
躓いて駆け出すA・Kを、王子が抱えて跳躍!

大通り。路側帯に寄せて停まるゴルフGTは、今にも壊れそうにオンボロだ。
「ボロい車だな! それ本当に動くのかよ!」
車に駆け寄るヤマダとサラの前に、喚くA・Kを抱えた王子が着地!
ブローンッ! 背後から車が迫る!

「クソッ。時間が無い、乗れ!」
「ワッザファック!?」
狼狽するA・K!
王子はゴルフの後部ドアを開き、A・Kの尻を押し込む!
ガショショ、ドロロロンッ!
王子が自分の身体で後部座席にA・Kを押し込むと、車が走り出した!

朽ちかけた見た目に反し、ゴルフGTは凄まじい加速で大通りを駆ける!
ブロ―――――ンッ! 改造セルシオが大通りにドリフト合流!
「無茶苦茶な野郎!」
タイヤから煙を放ち、通行する車をテールで弾き飛ばしながら加速!

バラタタタッ! バラタタタッ!
後方からM11の乱射が轟き、射線上の車が穴だらけになってスピン停止!
「被害続出だな!」
ヤマダは冷や汗に苦笑を浮かべ、閑散とした倉庫街方面に加速!
改造セルシオも猛スピードで追走!

――12――

ゴルフGTの車内。
ヤマダがタバコを咥えて火を点し、バックミラーでA・Kを一瞥。
「巻き込んで済まなかった! 悪いがトランクの銃を取ってくれないか!」
「何が済まなかっただよ!」
「これか!」
王子がトランクを手探る!

黒塗りの銃は、HK53SDショートカービン!
口径5.56mm、40連マガジンを2個連結して装填!
一体型サイレンサーが鈍く光る、恐るべき消音暗殺銃!
「私は運転で手一杯だ、君が車を殺ってくれ!
「じょ、冗談だろォッ!?」

「私は使い方が分からぬ。A・K、こっちは任せたぞ!」
「お、おれだって分かンねーよ!」
王子がHK53をA・Kに押し付け、開いた窓から車の天井に滑り出る!
「ど、どどどどうすれば」
バラタタタ! 背後から銃弾が殺到!

「弾倉は装填してある! 銃身後ろのレバーを引っ張れ!」
「こ、こうか!」
ガショッ! ハンドルが往復し初弾装填!
「次は、グリップ上のレバーを一番下まで押し下げる!」
カチカチカチ! セレクターがフルオート選択!

「あとは窓から突き出して、ヤツらに食らわせろ!
「きびきび動け、このスカタン!」
「誰がスカタンだ! 全く、簡単に言ってくれるよな!」
A・Kがヤケクソで叫び、窓を開いて半身を乗り出す!
背後に迫る改造セルシオ!

「死ね――ッ!」
バラタタタッ! 改造セルシオの後部窓から、ギャングがM11を乱射!
「ヒエ――ッ!? し、死ぬのは手前だ――ッ!」
シュボボボボボ――ッ! A・Kが喚いて撃ち返す!
屋根の上では王子が木の矢を乱射!

――13――

ガキョキョキョキョキョッ!
改造セルシオに5.56mm弾が殺到し、火花が咲き乱れる!
が、車には傷一つなし!
「かってェ! 防弾車かヨ!」
ガチンッ! HK53が弾切れ!
バラタタタッ! お返しの銃撃に、A・Kが身を翻す!

「へったくそ、ちゃんと狙って撃て!」
助手席で喚くサラ!
「やってるよ!」
A・Kは半泣きでマガジンを付け替え、ガショッ! 弾を再装填!
「もう嫌だ、なんでおれがこんな目に」
A・Kが身体を震わせ、再び身を乗り出す!

ヒュバババババッ! キンキンキンキンキンッ! バラタタタッ!
「ヌウッ、これでは埒が明かんな……友人よ、足だ! 足元を狙うのだ!」
王子が屋根の上で弓矢を連射しながら、A・Kに助言!
「一か八か、やってやんよ!」

シュボボボボボ――ッ! ヒュバババババッ!
A・Kの銃撃と王子の弓矢が、改造セルシオのタイヤに殺到!
左右2つの前輪がバーストした!
ガチンッ!
A・Kは弾切れのHK53を車内に捨て、後腰のM13マグナムを引き抜いた!

ギョロロッ、ボバーンッ!
改造セルシオはコントロールを失い、前のめりに転倒して宙に舞い上がる!
後部窓から飛び出すギャング!
「こいつで、止めだァ――ッ!」
ズドズドズドズドズドズドーンッ! 357マグナム6連射!

ガキョッ、ギンッ、ガギンッ、チュ……ド―――――ンッ!
回転して宙を舞うセルシオのガソリンタンクに、銃撃が直撃し引火爆発!
カチカチカチ。
「ど、どうだ! ざっとこんなもんよ!」
A・Kが震えながら銃を納めて叫ぶ!

――14――

アイシテクレルゥ、ナラァ~……コノココロ、アゲマスゥ~。
趣ある和風料理屋の軒先に、ループし続けるCMソング。
夜の繁華街・文人街、竜ヶ島の名店『うなぎの大吉』。
そのボックス席に、A・Kたち4人が陣取っていた。

「誰だか知らないが、助かった。巻き込んでしまって、本当に悪かった」
ヤマダがテーブルに肘を突き、A・Kたちを見て心身に詫びた。
「全くだ……」
A・Kは脱力して椅子にもたれ、ハートランドビールをジョッキで呷った。

「こうして生き残ったから良いではないか、ハハハ!」
エルフの王子は快活に笑い、ビールジョッキを一気に呷って飲み干す!
「お前は前向きだよなァ」
うんざりした顔のA・K。彼らの前に、店員が4人分の重箱を持ってきた。

「御仁よ。ビールをもう一杯いただけないか」
「飲んでくれ。奢るよ、迷惑料だ。すいません、生もう一杯」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
店員が王子を訝しげに眺めつつ、踵を返す。
「祝杯とは実に良いものだ!」

「イールか」
A・Kが重箱を開くと、うなぎの蒲焼きが芳香を放ち、褐色に輝いていた。
「御仁よ、これは何だ?」
「魚だ」
「そうか、旨そうだ。それでは遠慮なくいただく!」
「あたい魚は嫌いだよ」
「文句言わねぇで食え!」

「それにしても、大した腕前だった」
「あんな銃を、車に積んでる人のセリフとは思えないね」
ヤマダとA・Kが視線を見合わせ、互いに肩を竦めた。
「散々な旅行になってしまったな」
「本当にな。まあいいよ、慣れてるから」

――15――

「帰りはどうする」
「そういえば、アー……多分、フェリー乗り場だ」
「多分って何だよ」
「説明すると長くなる」
「あっそ、じゃあいいや」
ドロロロンッ!
夜の帳が降りた街を、オンボロのゴルフGTが港に向けて駆け抜ける。

「ここでいい」
陸橋の前で、A・Kが手を出し静止した。
A・Kとエルフの王子が車を降りると、ヤマダが運転席から身を乗り出した。
「また縁があれば、懲りずに来てくれ」
「お断り。この街は最悪だ、もう二度と来ねぇよ」

「ありがとう、今日は本当に世話になった。じゃあな」
A・Kが顰め面で手を振ると、ヤマダも手を振り返した。
ドロロロンッ! ゴルフGTを走り出し、A・Kが歩き出す。
次の瞬間、エルフの王子は跡形も無く消え去っていた。

――――――――――

都市型創作物売買施設『Note』のうらぶれた西部劇風バー・メキシコ。
「A・K、ヤケ酒とはらしくないな。どうした」
黒づくめの熟練パルプスリンガー、R・VがA・Kの肩を叩いた。
A・Kのカウンター前には、無数の空き瓶。

「何か変な街に行っちまった。チョー物騒なとこ」
「何それ、興味あるなァ」
ジプシーめいた赤ら顔の若者、O・Dがすかさず横槍を入れる。
彼は胡乱話に目が無いのだ。
A・Kは据わった眼差しで、手にしたコロナを飲み干す。

A・Kは思い出したように、メッセンジャーバッグから似顔絵を取り出した。
「凄いな」
「ウワーッ、A・Kにそっくりじゃん!」
感嘆するR・VとO・D。
「……できた」
バーの片隅で、紳士服姿のS・Cがタイプの手を止め呟いた。

【パルプスリンガー二次創作・A・K、海を渡る 終わり】
【二次創作元作品】

【二次創作クロスオーバー作品は以下に】

From: slaughtercult
THANK YOU FOR YOUR READING!
SEE YOU NEXT TIME!

頂いた投げ銭は、世界中の奇妙アイテムの収集に使わせていただきます。 メールアドレス & PayPal 窓口 ⇒ slautercult@gmail.com Amazon 窓口 ⇒ https://bit.ly/2XXZdS7