心に侠気、乙女に拳銃

 薄暗い劇場。がらんどうの観客席の中央で、人影が足を組み頬杖を突いてスクリーンを眺めていた。ダーティーハリーの最終盤、ハリー・キャラハン刑事が片手で構える巨大なS&Wモデル29拳銃が、ワルサーP38拳銃を掴んだ悪党・スコルピオを撃ち抜き背後の池に突き落とす。ハリーが警察バッジを池に投げ捨てたところでクレジットが流れ、終幕を迎えて明かりが点いた。

「.44マグナムか……」

 ジーパンにジャケット姿で短髪の少女・鍵谷菫が、イーストウッドじみたニヒルな笑顔で肩を竦め、ジャケットに覆われた懐を手探る。菫は名画座を出るとコンビニでホットドッグを買い、休日の往来で歩き食いした。

 風で舞い上がった新聞紙が菫の顔に張り付く。『地下鉄生物兵器テロから30年、拡散し続ける感染者の恐怖』『またも銃乱射、5人死傷』『低下する警察力と武装する市民』菫の右手が新聞紙を握り潰し、足元に投げ捨てた。

 目の覚めるような美少女2人組とすれ違い、菫は思わず目で追った。俯く背の低い少女に、背の高い少女が何事か語り続けている。すれ違う時に菫は小柄な少女の青黒い顔を見て立ち止まり、左手のホットドッグを頬張った。

 背後で叫び声が上がるのと同時に、菫は反転した。左手で雑踏を掻き分け右手がジャケットで覆った腰から競技用マカロフバイカル442拳銃を抜く。背高の少女に背の低い少女が噛みつく寸前、菫の手が後ろ髪を掴んで引き離し、側頭部に拳銃を連射。黒塗りの鉄薬莢が路上を跳ね、4発目でようやく脱力する。

「ユウカ!」

 菫は小柄な少女を力任せに引き倒すと、背高の少女を背中で押し止めつつ感染者の少女に銃口を構えた。彼女は四肢を震わせ、やがて動きを停めた。

「ユウカ……ッ!」

崩れ落ちる背高の少女に、菫は振り返って屈むと視線を合わせた。

「怪我は無い?」
「この……人殺しッ!」

菫の頬を叩く平手打ち。涙に潤んで睨む眼差し。菫は無言で腰を上げた。

【続く】



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