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飛龍ナターリヤ -Дева дракона-

電子音のロックが解き放たれ、自動ドアが左右にスライドして開かれる。
ロシア迷彩ズボンの下で、使い古したコマンドブーツが床を踏み締めた。
灰色の世界の奥に、一面に草木の生い茂る、密やかな花園が姿を現した。

ナターリヤはスマートグラスの弦を正し、周囲を見回して歩みを進めた。
「これは……ホログラム映像」
黒革の手袋に覆われた少女の指先が、実在しない広葉樹の枝葉を撫ぜる。
割れ砕けた天蓋から吹く風が、朽ちかけた植物園の草花を揺らす。
赤紫に染めたナターリヤのセミロングは、そよとも揺るがなかった。

「いらっしゃい」
枯れかけた花園の真ん中で、車いすに座す銀髪の少女が待ち受けていた。
ナターリヤが歩く度に、上着の下に装着したCExF(炭素製外骨格)が軋む。
「素敵な場所でしょう? 外からのお客さんは貴方が初めてよ」
「ただの映像だ」
立ち止まるナターリヤ。黒地のスーベニアジャケットの背には、昇り龍。
銀髪の少女は寂しそうに笑い、膝上の軍用ラグドPCをタップした。

「ここは牢獄よ。これが私の世界の全て」
植物園が光の粒子となって消え去ると、映し出されたのは珪素の空洞。
「さぁ、始めましょう」
少女がPCのキーを弾く。同時に、ナターリヤが右手を宙に翳した。
壁際に等間隔で設置された、ローマ彫像めいた石柱から銃口が飛び出す。
『推定:口径7.62mm戦車用同軸機銃/危険:火力はCExFの耐久値を超過』
ナターリヤのスマートグラスが、アラート表示で埋め尽くされる。

ナターリヤの右前腕上部、CExFに直接固定された小型レールガンが唸る。
タングステンの銛を射出! 捕鯨砲めいて曳航されるカーボンワイヤ!
同時に、6基の機銃がナターリヤ目がけ、対人弾頭の雨を降らせる!
銛は銀髪少女の直上で天井に食い込むと、ワイヤの巻上機構が作動!
ナターリヤは凄まじい加速度で斜め上昇! 銃弾の雨を掻い潜る!
「遊びは終わりだ」
銀髪少女の背後で、ナターリヤが着地する。

【続く】

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