船舶自律航行ナビの構築 及び 自走するアジャイルエンジニア組織作りを支援
ずっと先の未来を考えて、変革する事を決断
ある大胆な企業は、これらの課題に新たな方法で取り組むことを決意し、Slalom Buildにその支援を依頼しました。ビジネスをデジタル化し、会社のDNAをハードウェアからソフトウェアに移行させる決断をしたのです。
Just Right Customer Solution(JRCS)社は、70年の歴史を持つ船舶用ハードウェアシステムインテグレーターです。同社は、船舶の制御盤やエンジン監視システムを製造するハードウェアのスペシャリストですが、海運業界、特に安全性と効率性に関して、自分たちが提供できることの限界を押し広げたいと考えていました。そこで、彼らは船首の上から、ハードウェアを越えて、ずっとずっと先の未来を考えたのです。
その結果、将来的には有人、あるいは無人の自律型貨物船やフェリー船が登場する可能性が高いことが分かりました。船舶の労働力が減少し、ブイやボート、漁網の間を慎重に航行する必要があるため、人間の要素を排除し、短期的には補助することが魅力的な観点になります。
しかし、ハードウェアの製造から無人船舶の開拓へと移行することは、同社の歴史において最も大きな変化であり、それを実現するためのパートナーが必要だったのです。
JRCS社は、自律型船舶の機械学習を実現するために、まずマイクロソフトの技術を活用する事が賢明であると判断しました。さらに彼等は米国に渡り、自律走行車メーカーを視察し、テスラやアップルなどとも面会しました。
その後、Slalom Buildが参画し、構築プロセスの1つであるA2B(Accelerate to Build)プロセスの前段階として、アジャイルワークショップを開催しました。下関にチームを派遣し、JRCS Digital Innovation LabのエンジニアリングチームとCEOの近藤氏にワークショップを提供しました。このワークショップは、ウォーターフォール型でシンプルなソフトウェアを開発しているハードウェア製造会社にとって劇的な第一歩となりました。
JRCS社はアイデアを持っていましたが、製品に至る道筋はまだありませんでした。そこでSlalom Buildは、12週間のディスカバリープロセスを経て、彼らのゴールと長期戦略を学び理解し、プロジェクトのロードマップを作りました。そして、MVP(最低限実現可能な製品)がどのようなものかを決定し、全体的なビジョンも定義しました。最終的にチームは製品ロードマップ、アーキテクチャとサービスデザイン、機能バックログ、その他成功のために必要なツールを手に入れました。
最も重要なことは、マイクロソフトのエッジコンピューティング、コンピュータビジョン、機械学習などの最先端技術を活用して意思決定を支援する最先端のデバイスを作るという、たった一つの集中した目標を達成したことです。それはライブカメラの映像を取り込み、より効果的に船の進路をナビゲートするシステムで、すべて携帯型タブレットで操作するものでした。また、SeaJapanのカンファレンスで注目を浴びるよう、概念実証に向けてスケジュールを前倒しで進めていました。
Tides, Tech, Teams
JRCS社は組織を完全に見直し、最新のソフトウェア企業になることを目指していたため、JRCSとSlalom Buildの両チームを同じブレーンストーミングルームに集め、ビジョンを練り直し、アジャイルプロセスに没頭させることが重要だったのです。彼らのテクノロジー・スキル、そして業界全体の変革を支援すると同時に、ウォーターフォールからアジャイル・プロセスへの変革も支援しようというのです。そして、JRCSのチームはシアトルにあるSlalom Build Centerに長期滞在(修行)を実施しました。
その後、ご存知のように2020年にCOVIDが発生しました。SeaJapanは中止となり、当然ながら家族から何千マイルも離れた場所にいる友人たちのことが心配になりました。そこで、JRCSチームは帰国し、Slalom BuildはフロントエンドのPOCチームを立ち上げ、Software Engineer、Quality Engineer、DevOps、機械学習のスペシャリスト、そしてAzureクラウドのスペシャリストまで加えました。
それだけにとどまらず、Buildは5つの異なるタイムゾーンにまたがる真のグローバルチームを提供しました。当時日本にはまだSlalomというブランド名すらありませんでした。しかし、たった4人の小さな日本チームが、JRCS社や海運業界全体に大きな波紋を投げかけることに貢献しているのです。
技術的な面では、Microsoft Azure Stack Edge サーバーは自然な選択でした。この新しいサービス(当時リリースされたばかり)は、Azureのクラウドサービスのパワーを、外航船のようなリモートアプリケーションで実現するものです。つまり、このプロジェクトでは、JRCS社とSlalom Buildは、マイクロソフトのクラウドの未来像のテスターとして、最先端で仕事をすることになったのです。
インターフェースには、船上で簡単に持ち運べるハンドヘルドデバイスが必要でした。チームが簡単に持ち運び、どこでもモニターできるようなもの。JRCS社は話題性と印象を与えたいと考えて、iPadを活用することにしました。これはコードベースの柔軟性と移植性、そして大画面ディスプレイやHoloLensなど、他のデバイスへの機能拡張の可能性によるものです。しかし、日本にはゲーム業界の人材が豊富にいるため将来を見据えた決断でした。
このようなチームワークと技術によって、Computer Visionを使った意思決定支援を船の船長の手に委ねるという、驚くほど効果的なプロトタイプが完成したのです。現在、船からのライブストリーミング映像は、Microsoft Edgeのデバイスに送られます。その映像はiPadに送られ、IOT Edgeのバックグラウンドで機械学習エンジンに送られます。
この映像データは、船上に設置された3つのカメラ(真正面、左半分、右半分)から取得されています。これらの映像データをつなぎ合わせて、船の前方の全体像を把握するのです。次のステップでは、既存のセンサーデータを統合して、水平線上の物体をピックアップするだけでなく、その物体が船なのかブイなのか鳥なのか、あるいは他の何かなのかを判断するのに役立てます。まさに破壊的で革新的な仕事と言えるでしょう。
「アジャイル&ソフトウェア」の輝かしい船出
完全な自動運転船の実現には何年もかかると思われますが、このプロジェクトはすでに成功を収めています。Slalom Buildは、早くから自動化のビジョンを描き、意思決定支援製品を作り上げ、最初の顧客に9ヶ月という短期間で提供することができました。そして今度は、JRCS社が業界の誰よりも早く実用的なソリューションを提供し、機械学習分野のイノベーターであることをアピールしたのです。さらに、同じタイムラインで、ウォーターフォールベースの機械製造会社から、速度と規模での継続的なイノベーションを可能にするアジャイルマインド&ソフトウェアの会社に変貌を遂げたのです。JRCSのチームは、Slalom Buildとの共創により、5人のエンジニアから19人にまで増えました。
また、技術的な面でも、このエキサイティングなプロジェクトによって、開発者たちはこれまでにないようなことに挑戦することができました。国を超えても、チームが力を合わせれば、古くからある産業に大きなインパクトを与えることができるという証明です。古くからあるハードウェアの会社が、根本から変革し、その産業を未来に導くことができるという証明です。大胆なビジョンとスマートなプロセス、そして優秀なチームが出会えば、素晴らしい変革が起こりうるという証明です。
End.
Scope & Technology
参考記事
Intelligent Products
Slalom Buildは、データ・AI/ML・自動化・デザインを組み合わせたプロダクト開発、そして、それを実行できる「Build as a Service」オペレーションモデルを通して、本記事のような個社別にカスタマイズした「Intelligent Products」開発によるビジネス変革を提供しています。
Intelligent Productsに関しての資料を公開しました(2023年1月時点)。