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はなむけ

内定をもらってから入社するまでの1ヶ月、ずっと不安だった。
希望なんて目を細めてもほとんど見えない。

仕事が始まれば、日々の繰り返しにきっと耐えられなくなる。
そんな不安を掻き消したいときに、頼りたい顔が幾つか思い浮かんだ。

貴重な休日や予定の合間を使って会ってくれた人、電話やLINEで気にかけてくれた人、みんなありがとう。
おかげでなんとか気を紛らわしながら闇の中で生きることができたんだ。


入社式の朝、ラジオを聴きながら満員電車に乗り込んだ。
イヤホンから聴こえる明るい声と音楽に、ひとりじゃないよと言われてる気がして少し安心した。
それとは裏腹に、スーツを着た大人たちに押し潰されながらこれからのことを思うと、不安で泣きそうになる瞬間もあった。

普段は寝る前にしか聴かないラジオを聴いていたのには理由があった。
FM802が毎年春に企画するキャンペーンソング、今年のそれが初オンエアされる時間だったからだ。
2018年、クリープハイプ尾崎世界観が提供した「栞」に出会って以来、毎年楽しみにしている。
そんなキャンペーンソング、今年はSUPER BEAVER柳沢亮太が作詞作曲した「はなむけ」という楽曲で、今回も豪華なボーカリストたちが名を連ねていた。

本当に大好きな方ばかりだが、敢えて特筆するなら、SUPER BEAVER柳沢亮太は僕が1番好きなソングライターであり、sumika片岡健太は1番好きなバンドマン。
今の僕が僕らしくいられるのはこの両者のおかげなのである。大袈裟じゃなく。

オンエアの時間が近づくとともに入社式の時間が近づく。
期待と不安を抱えながら乗客が少しずつ減っていく電車に揺られていると、ついにその曲が流れた。

印象的なイントロの後、スキマスイッチ大橋卓弥が「会いたい気持ち 会えない苦しみ」「何気ない優しさ 突然の理不尽」と歌うところから始まる。
すぐに自分の記憶から想起された情景が浮かんだ。

柳沢亮太が作る楽曲は、どれも一瞬で聴き手が自分事にできる力を持ってるのが魅力のひとつだと思う。
それを惜しみなく発揮できるボーカリストたちによって歌われる、現実、想い、問い、願い。
その全てが胸を打つ。

「言葉は想いを運ぶ船のよう」

「好きなことを好きでいてね」

「人と違う だって人が違う」

「おはようってさ 当然じゃないね」

自分の人生を振り返りながら聴いていた「はなむけ」。
ラストのサビが歌われるタイミングで電車の中に差し込む日差しが強くなってきたのを感じた。
窓の外に目を遣ると、ちょうど淀川を渡ろうとしている(地元大阪から職場兵庫に向かってます)。
イヤホンから聴こえる「おはよう」「いってらっしゃい」「またね」「頑張れ」の合唱が真っ直ぐに僕の心に届く。
そしてsumika片岡健太によって歌われる「ただあなたの 前途を祝して」という歌詞でこの曲は締め括られた。

眩しい光と煌めく河川、勢いよく進む電車の音とラジオから流れる「はなむけ」。
あの瞬間に溢れた涙は何だったんだろう。
祝福されて嬉しかったのかな。
慌てて周りに気づかれないようにそっと涙を拭った。
そして曲が終わり、淀川を渡りきった頃には清々しい気持ちだった。


入社と同時に5連勤、慣れない環境で大変だったけれど、無事に最初の週末まで頑張ることができた。
新たに大切な仲間もできた。
これが「希望」なのだと思う。

闇の中にいるとき頼りたいと思う人、音楽に乗せて欲しい言葉を届けてくれる人、一緒に頑張りたいと思わせてくれる人。
みんながいれば、音楽があれば、僕はまだまだやれる。きっと大丈夫。

これを読んでくれたあなたもどうか、健やかに生きていてください。
あなたの前途を祝して。

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