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私がクソつまらん公務員を退職したワケ 特別編【G7サミットという外国首脳の歓迎会】

2024年G7サミットはイタリアにて

 2024年の第50回G7サミットは、イタリア南部のプーリア州という都市。プーリア州は、ブーツ型のイタリア国土の「かかと部分」である南部に位置する州。
丘上都市には白壁の街並みが広がり、数百kmに及ぶ地中海の海岸線が有名な地域だ

 日本で過去に行われた「伊勢志摩サミット」のようなリゾート地のような位置付けか。
いつもはのんびり穏やかな地域でも、サミット前後でプーリア州もきっと忙しくなるだろう。
 
 そんなイタリアのリゾート地でこれから繰り広げられるのは、国を挙げての「外国首脳の歓迎祭」だ。

サミット,2024

 何事もなく本番を迎えられればよいが、ひとたび国内で災害や大不況に襲われると、開催是非が問われることになる。

 2020年に新型コロナに襲われた東京オリンピックもそうだったが、大阪万博も雲行きが怪しい。
このような際に矢面に立つのは内閣や政治家だが、実際の業務を行なっているのは官僚や地方自治体の職員。
国や首長の名声のために、極限までこき使われる奴隷のようなものだ。
そんな公務員もイチ職員なので、「イヤです」とは決して言えない。

そこで30歳代で公務員を退職した私が、サミットのような「国際持ち回りイベント」の実状を解説し断罪する。

公務員を退職→サミット呪縛から脱出

 私は公務員を退職した
私が暮らす田舎では銀行員か公務員になるしか、地元での働き口がない。
現在では銀行員の魅力が下がりつつあるが、公務員についてはまだ一定の人気があるだろう。
 ひと昔前に公務員試験をパスした私は、まずまず順調に勤務していた。
しかし、その日々の理不尽な業務に、うっ憤は募る一方。
特にサミット関連の業務に携わったことで、公務員として働く意義を感じられなくなったことも大きく関係している。

サミットの呪縛

 私が勤務する地域がG7サミットの開催地に決まり、地元は大いに盛り上がった。
私の勤める自治体ではサミット準備局が立ち上がり、庁舎内には「機運醸成」という名目の予算が飛び交うようになった。

「サミットが開催され、地元が有名になり経済効果が見込めるので、善!」
という洗脳めいた声しか、県内では聞こえなかった。

 開催地周辺では、サミットの開催意義などが問われることはなかった。
そこに存在していたのは、国が押し付けるスケジュールを消化するだけの「サミットの呪縛」だけ。

 私自身は、このサミットにそこそこ近い位置で関わることになった
自治体職員の立場で、その立ち上げから終了まで見届けたつもりだ。

 しかし、終了後に残ったのは「一大イベントをやり遂げた」という達成感のみだった。
そこに地方自治体の公務員としてのやりがいは、全く感じられない。

サミット,2024

 この記事は、国内でサミットが開催されるたびに「こっけいに盛り上がる国内世論」に疑問を呈すものだ。
サミットは、国家がオリンピックや万博のように立候補して取りに行くものではない。
G7参加国が持ちまわりで開催する、いわば強制的な枠組み。

時の首相や関与した政治家の名声は高まるかもしれないが、その陰で忙殺されるのは地方自治体の職員たち。

 「公務員になりたい!」という学生の方々は、この記事を心して読んでもらいたい
これを読んでも、公務員になりたいと言い続けられるだろうか。

 そして地方自治体の職員さんたち、あなたの自治体にもこのような持ち回りが来るかもしれない。
特に白羽の矢がたてられた優秀な職員さんは、1年近く奉仕させられることだろう。

公務員を退職した私のこと(プロフィール)

 田舎の県で地方公務員として、約15年間勤務する。
前職の経歴と風貌から、ハードな部署に回され続ける。
G7サミットの際には、数日間の応援募集にも志願して参加。

その後、第二子誕生の際に当時の男性では珍しい1年間の育休を取得
育児をこなしながらも、今後の人生を真剣に考え公務員を退職して独立。 引き継いだ農地で小規模農業を行いつつ、ブロガーとして歩み始める

サミット,2024

サミットとは

 そもそも、サミットとは何だろうか。
一般人には、「各先進国のお偉いさん方が、地方に観光に来て会議して帰っていく」というイメージかもしれない。

私も同程度のイメージだが、いちおう定義は次のとおり。
サミットは、国や地域、国際組織などが集まり、重要な政治的、経済的、社会的な問題に対処し、協力や協議を行うための会合のこと。

サミット,2024

 G7サミットなどの数字は、参加国数を表す
G7の国は、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国。
そこにEUの首脳2人が参加し、9人の首脳で会議が行われている。
7か国で議長国を持ち回りにしているので、日本にも7年ごとに議長国&開催国の役割が回ってくる。

サミット準備の仕事

 サミットに関連する実メイン業務は、首相補佐官及び外務省が担当する
外務省がサミット会場付近の大きな建物を確保し、外国のプレスセンターや事務局を構える。

 開催地の地方自治体は、外務省の「露払い」として、周辺業務を担当することになる。
周辺業務といえども、地元との協議や「機運醸成」など多大な業務が待っている。
プロジェクト担当として人事課から白刃の矢が立った職員は、最低1年間の激務は必須である。

サミット,2024

サミットの開催意義

 長い期間を経て、世界情勢が複雑化するなかで、サミットの存続意義が問われるようになった。
そんなサミットには、建前上いくつかの重要な意義がある。

サミット,2024

国際的な問題への対応

 サミットは国際協力の場であり、世界的な課題や問題に対処するために国々が協力し合う機会を提供している。

例えば、気候変動、国際的な安全保障、貿易、貧困削減など、一国だけでは難しい問題に対して共通の目標を設定し、連携して解決策を模索することが期待される。

対話と協議の場

  サミットは、国家間や地域間の対話と協議の場でもある。

異なる国や地域の代表者が直接会って議論し異なる意見や立場を理解し合うことで、対話を通じて問題解決の手段を見つけ出すことが期待される。

国際的な協力の促進

 サミットは、国際的な協力の枠組みを構築し強化する役割を果たす。

国際社会全体で共通のルールや合意を築くことで協力の基盤を強化し、国際的な秩序を維持することが期待される。

信頼構築と外交の場

 サミットは、国際社会での信頼の構築や外交の場でもある。

国家首脳や代表者が直接対話することで、お互いの立場や意図を理解しやすくなり、国家間の信頼関係が築かれることが期待される。

国内外への政策の発信

 サミットでは、各国が自らの立場や政策を発信する機会も得られる。

国際社会に向けて自国の政策や立場を明確にすることで、他の国々との協力関係を構築しやすくなる。

サミット,2024

 サミットはこれらの複数の要素を組み合わせ、国際社会全体の発展や安定に寄与するためのプラットフォームとして機能しているようだ。

サミット開催地では

 今までの国内サミット開催地は、東京ばかりだった。
その後、沖縄、北海道、三重県の伊勢志摩地方、広島市など各地で開催されるようになった。

サミット開催の意義はともかく、地方振興の一環として東京以外での開催は良いことかもしれない。

 地方自治体の公務員として私ががっかりしたのは、次の予期せぬところだった。

サミット,2024

サミット開催決定で、動く方たち

 サミット開催によって、地方自治体の職員は大忙し。
地元は、おおむね歓迎ムード。
その陰で暗躍する方たちも、残念ながら存在した。

準備局の仕事

 サミットの開催地となった自治体では、サミット準備局が数十名の規模で立ち上がる。 
その準備局の自治体職員は、国内の前回開催地の自治体を訪問する。
開催の様子や、予算規模、ノウハウなど実務レベルで聞きに行くのだ。
前回と言っても6年近く前なので、当時の担当はもちろん散り散りになっている。
受け継いだ所属に邪魔し、当時の決裁ファイルや開催地を視察して終わり
それでも、開催の規模や実務の感覚などは掴めるだろう。

サミット,2024

 しかし、住民の知らないところで、さらにすごい出張があった。

地方議員の視察

 私の勤務する自治体では、地方議員 数名が驚きの行動に出た。
なんと、前回サミット開催地の欧州に視察に出かけていたのだ。
当然、言語も満足に通じないし、ろくに立案能力もない議員が視察して何になるのか?
このような指摘は自治体の住民からもされていた。

しかし、議会事務局は、「この視察結果をレポートにまとめています」という謎の答弁で逃げ切った。
サミットで沸く地元の陰で行なわれた海外訪問だった。

 県議の数名の方、公金による海外旅行は楽しかったかい?

サミット,2024

サミット開催まで

 自治体のサミット関連業務は、周辺業務かサミットの「機運醸成」。
最も目にしたのは各国首脳を歓迎するため、街道に花を植える仕事。
花苗やプランター予算を確保し、それを地元住民に植えてもらうもの。
 またメジャーな場所に、サミットまでのカウントボードや垂れ幕を掲げるものもあった

まさにお祭りムードという感じで、サミット準備が進んでいった。

サミット,2024

 サミット会場付近では、外務省の指揮で仮設の大きな建物も建てられ、日本文化や技術を発信する施設となった。
万博で一時的に建てられるパビリオンみたいなものだ。
このような建物も含めてその地域の雰囲気は、がらりと変わっていた。

サミット開催中

 サミットの前日から、会場付近は物々しい雰囲気となった。
会場周辺には入れなくなり、当日の会場入りの際には厳重なセキュリティチェックをされた

各首脳が会場入りするたび、地元民は街道でお出迎え。
テレビで見た各国首脳を一目見ようと、大勢の住民が押し寄せていた。
自治体職員は外務省の「応援」要員として召集され、駐車場でバスの誘導などに充てられていた。
地元の会社からアルバイトでも雇った方がよいのではないか?

サミット,2024
サミット,2024

 外務省の事務局では、各担当が自らの担当業務が順調に進むよう見守る。
サミット会場では「議定書」みたいな約束事がまとめられていたが、現場ではそんな内容など構っていられない。

議定書の中身は、気候変動など世界共通の問題を認識共有し解決していこう、といったものだろう。

ちなみに自治体の各市長や知事は、指をくわえて見ているだけ。
単なるテレビで。
そのテレビは、「首脳陣が食べたランチ、ディナーはこれ」という報道ばかりだった。平和な国だ。

サミット,2024

サミット開催後

 サミットが無事終了し、各国首脳や国内外のメディアも引き上げていく。
自治体は、ここからも大変。

「サミット開催地に、レガシー(遺産)を残す!」などと言い出し、いろいろな施策を打ち出す。
サミット開催施設の近くに、サミット記念館みたいなものを設置し、パネル掲示などを行なう。
 もともとリゾート地だからそこそこやってくる観光客が、そこの記念館にも立ち寄っていく。

 しかし、そのサミット記念館ありきで観光に来る方などいるだろうか?
当然このような記念館がタダで運営できるわけはない。
毎年税金が投入され、細々と運営されていくのだ。

この記念館が見向きもされなくなった際の幕引きが、住民として見ものだ。

これにて、サミットのお祭り騒ぎも終了。

まとめ 2024 サミットはカンフル剤のよう

 サミットは自治体職員からすると、首脳陣をおもてなしするお祭り
サミット開催までは「サミットが行われることによって、地域の郷土愛や自信につながる」という名目で、さまざまな自治体予算が組まれていた。

正直なところ、「サミットを経て何かを得た」というわけではない
自治体職員としては、ひたすら疲労した。

 このようなサミットや〇〇博などという大イベントは、各都道府県が持ち回りで行なう「カンフル剤」のようなもの。
白羽の矢が立った自治体は、多少の経済効果があるだろう。
しかし、そのために計上する予算・人件費は、計り知れない。

今話題の「大阪国際万博」では、準備予算の高騰に加え国内の大震災が発生したこともあって、混迷を極めている。
いっときの知事の思い付きとはいえ、巻き込まれた大阪府の担当者さんには、同情せざるをえない。

 そのような自治体あげてのプロジェクトでは、特に「若くてバリバリの働き盛り」がいけにえとして召集され、1年近く奴隷働きさせられる。

職員には「やりきった!」という満足感と、「一大イベントに携われた」という自尊心が芽生えるが、それは今後の人生でもあまり役に立たない
職場で「使いやすい職員」とみられ、いろんな厄介部署に回される。
それが、出世の王道なのかもしれないが。

 このような公務員の構造に嫌気が差した職員は、可能性があるうちにほかの明るい世界に羽ばたいていく。
はぁー、これは公務員を辞めたくなるわ。

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