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すすきののガールズバーで働いた2年間と、そこで得たもの

序章

夜のすすきのに飛び込んだのは、
18歳のときだった。

当時大学1年生だった私は、
初めて始めた居酒屋のバイトで
年上の先輩女性にいじめられ、
半年もせずに飛んだ。

次の新しいバイトを探していたとき、
サークルの先輩が
ガールズバーで働いていることを知った。

「ガールズバーってどんなもんだろう?」
と興味を持ち、先輩に話を聞いたら
あれよあれよとことが進み、
気がつけば面接に来ていた。

午後5時、薄暗くなってきたすすきの。
キラキラとした夜のお店がたくさん
入っているビルのエレベーターに乗り、
店舗の前まで来た。

「危なそうだったら、すぐ逃げよう」
と決めていた。

しかし、中から出てきたのは意外にも
長身の綺麗な女性。
この方が店長さんだった。
いかつい男の人が出てくるものだと
思っていたから安心した。

面接が始まったものの
特段変なことは聞かれず、
「体入(体験入店)、いつから入れる?」
と言われ、トントン拍子に
その翌日から体入をすることになった。

15分にも満たない滞在時間だったが、
黒と赤に統一され、随所が鏡張りになっている
そのお店の艶やかな雰囲気に圧倒された。

「なんだか、強い女になれそう」
とワクワクしたものだった。

体入期間

サムネイルの写真で分かるかもしれないが、
ここのガールズバーのコスチュームは
バニーガールだ。

大きく開いた胸元に、急角度のハイレグ。
おそらくガールズバーの中でも
かなり露出度の高い方だ。

ゆえに働く側としても
まあまあハードルの高いガールズバーだろう。
しかし私はその非日常的なコスチュームに
少しの憧れがあり、嫌な気持ちはしなかった。

**********

初めての出勤日。
ストッキングだけ持ってお店に向かうと
バドガールの衣装を手渡された。

どうやら体入の3日間は
バニーは着れないらしい。

残念なような、安心したような気持ちで
臨んだ初日は思っていたよりも楽しかった。

お客さんは年配の男性が9割方で
ちゃんと会話ができるか心配だったが、
先輩方のサポートもあり
楽しく会話をすることができた。

あっという間に3日間の体入が終わった。

おそらくこの期間で店長による
私の品定めが行われていたが、
無事正式にキャストとして働けることになった。

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次の出勤日に手渡されたのは、
黒いレースのついたゴールドのバニー。
どうやら新型のバニーらしく
店舗に1着しかないものだと言われ、
少し嬉しくなった。

初めてバニーを着た自分の姿は、
まるで別人のように見えた。
「童顔でかわいらしい」と言われ続けた自分が
「大人な女性」に近づいたような気がした。

店舗で働いた2年間

正式にキャストとして働き始めたのが
2020年の1月から。

コロナ直前の夜のすすきのは
人が溢れかえっており、
このお店も平日休日問わず
満席の状態が続いた。

週2〜3で出勤した初月のお給料は
10万円を超えた。

その10万円を使って、
2月に2週間かけてフィリピンとタイを旅した。
コロナ前最後の海外旅行となったこともあり、
とても印象に残っている。

**********

海外旅行から帰ってきたあと、
久々に出向いたすすきのは静まり返っていた。

2月、3月とほとんどお客は来ず、
その後は何度か休業もした。

2020年はすすきののお店にとって
とても苦しい期間だった。

**********

2021年に入り、
ちらほらとお客さんが戻ってきた。

1年間で接客にも慣れ、
顔見知りの常連さんもでき、
働くのがさらに楽しくなった。

私は人の名前を覚えるのが苦手だが、
お客さんの名前を覚えないのは失礼だと思い
出勤の度にお客さんの名前と
その日した会話を簡単に
ノートにまとめるようにしていた。

おかげで
「モルちゃんがお気に入り」
と言ってくれるお客さんもできるようになった。

2021年の末、忘年会シーズンには
去年はほとんどいらっしゃらなかった
団体のお客さんも沢山来てくださった。

コロナ前とまではいかないが、
すすきのに人が帰ってきていることを
とても嬉しく思った。

卒業

2022年に入り、
バイトも2年目を迎えた。

コロナの影響もあり
この2年間で辞めたキャストも多く、
その代わり新しいキャストも増えた。

20歳の私も、お店の中では
先輩の部類に入ってきていた。

これからもっと頑張るぞ!
といった矢先、妊娠が発覚した。

普通の職場では、妊娠中でも
予定日の1ヶ月前くらいまでは働けるもの。

でもバニーガールはそうもいかなかった。

しっかり身体のラインが出てしまうため、
わずかにお腹の出始めた妊娠初期の段階で
「もう厳しいかも」
と思い、バイトは諦めることにした。

店長に連絡し、産休をもらった。
本当はもっと働きたかったが、
やむを得なかった。

出産したらすぐに戻ろうと思っていたが、
そんな上手いことはいかず。

出産育児に伴い東京に引っ越したこともあって、
そのお店は卒業することになった。

楽しく、大好きだった職場を
離れるのは辛かった。

ガールズバーで得たもの

世間一般的には
「ガールズバーで働いています」
と言うと
「夜職ね…」
とマイナスな印象を持たれる気がする。

でも、夜の職場は学べることがとても多い。
夜職こそ接客業の頂点だと私は思う。

当時18歳だった私は、基本的に
10代20代の人としか関わりがなかった。

でもこのバイトを通じて、
普段絶対に交わることのない
年上の方々と沢山関わることができた。

どんな話を楽しいと思ってくれるのか、
逆にどんな話題だと伝わらないのか。
最初にどんな話題を持ってきたらウケるか、
最後にどんなことを言ったらまた来てくれるか。

色んなことを考え、仮説を立て、実践した。

お客さんのタイプによって
どんなキャラクターで接するべきかも、
少しずつ分かるようになった。 

言ってしまえば、
圧倒的にコミュニケーション力を
養える環境だった。

そのスキルは今後どんな場でも
使えるものだと思う。

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また、私のお店は特に
品の良いお客さんが多かった。

なのでお客さんの話も面白く、
ためになることも多かった。

経営のこと、海外のこと、政治のこと。
いち女子大生が普段なかなか踏み込めない
領域の話を沢山聞けた。

それらの話は刺激的で、
面白いお客さんと会話をしていると
一気に視野が広がる感覚があった。

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もちろんお給料はとても良かった。
ニュークラやキャバクラ、風俗には
到底及ばないが、それでも
平均的なバイトの給料の2倍以上はあった。

極端だが、世の女子大生はみんな
ガールズバーで働けばいいのにとさえ思う。

お給料だけじゃない働く価値が、
間違いなくそこにはあった。

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私の在籍したお店には
下は18歳から、上は30代の方まで
幅広く色んな方が働いていた。

みんな顔もスタイルもとても綺麗。
特に30代の方は、
決して30代には見えなかった。

逆を言えば、
「人様に見られる仕事」だからこそ、
美しさを保てているのかもしれない。

今後またいつでも
バニーガールに復帰できるように。
その意識を持ち続けたら、
いつまででも綺麗でいられる気がする。

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