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pep03 宮崎樹里愛

essay
ー じぶんじゃない ー

聴いていると、思わず歌い出したくなる曲ってありますよね。電車の中や部屋にいる時、歩きながら音楽を聴いている時、この声とこのまま一緒に歌えたらいいのにと思う瞬間があります。わたしもいつか、また歌いたいと思います。

図書館には、いろんな人がいます。居眠りしている人、猛烈に勉強している人。文献を探している人がいれば、携帯をいじっている人もいる。様々な人がそこにいるように、多くの本が存在し合っているのも図書館の魅力ですね。本として綴じられた時代もそれぞれ異なりますし。一冊の本をつくる為に携わる人の数を数えたら、図書館全体で何人になるのでしょう。

これからこのキャンパスに通えなくなるのかと思うと、寂しいです。この場所がとても好きでした。

猫と暮らしていたいです。

ここの食パンセットがとても美味しい。お昼ご飯食べてきましたか?お腹が空いたので私はこれを頼みますね。

「わたしたち、完全に映画の中の主人公でしたね!」と仲間に言われた時があったんです。どうしても期限に間に合わせなければいけない書類があって。それを郵便局に届けようとしていた日のことでした。その時はその時で、みんな必死でしたから、自分たちのおかしさには気がつかなくて。でも思い返すと、そのドタバタ劇はまるで映画のようだった。それを満面の笑みで「主人公」だなんて指摘されたので、さすがに笑ってしまいましたね。

ある方から、「自分を伝えようとしなくてもいい。勝手に滲み出てくるから。」という言葉を掛けてもらったことがあります。それで、それを素直に信じてみたら、この間、本当にそうだなと実感するタイミングがあって。自分の作品で主演を務めていただいた女優さんと、劇中の手紙を書くシーンについて話し合いをした時のことです。一緒にセリフを考えていた中で「これは、あなたの言葉だね。」とふいに言われました。先の言葉を意識しながら取り組んでいた矢先、作品の中に自分が垣間見えるってこんな風なのか、と気が付きました。そうですね、この出来事がいま強く記憶に残っています。

賞を取るための映画はつくらない。そう決めました。

映画がいろんなところに連れて行ってくれるという実感があります。自分が手掛けた物語は、役者や制作に関わるスタッフの手に渡った瞬間に、自分だけのものではなくなります。さらにそれが形を成して世間の目に触れた時には、親の手を離れていく子を見送るような感覚に。つわりの苦しみも、産みの辛さも身体が覚えている。けれど、作品と私は時を経て親子ではなくなっていく。そして我が子が巣立ったと思ったら、次は私の手を引っ張っていろんな景色を見せてくれるようになるのです。一人でいてもひとりではない。そう思えるようになってきたのは、自分にとっての「映画」が、頼もしく、牽引し合える相棒のような存在になりつつあるからなのかもしれません。

こうしてお話をしていると気がつくことが沢山ありますね。「言葉が終わるまで最後まで聞き切る・話し切る」ということがお互いにできれば、いい対話になるのでしょう。言葉が遮られることなく会話が進むと、納得がいくまで話を交わすことができます。

ひとつ作品を生み出すと、また次をつくりたくなってしまう。制作期間中、楽だった時は一度もないのに。次はなにを、とすぐに動き出している自分がいます。これ、なんででしょうね。

高田馬場まで歩きましょうか。ここの映画館によく足を運んでいました。尋ねきれていない場所がこの街には沢山あります。この後ラーメン食べに行きませんか?

というのが今回のインタビューで聞いた話。この方はほとんど自分じゃない何かについて話をしていた。ご本人についてのエピソードを聞きに行ったつもりで、記録に残っているのは「歌」「本」「キャンパス」「猫」「パン」「仲間」「ある方」「女優さん」「映画」「言葉」「高田馬場」「ラーメン」のこと。全部を自分のことのように話していた。きっと、自分以外のものを思い起こしながら、自身のことを語っていたのだと思う。彼女は、自分の内側でおこっている謎めきと、自分の外で生じている事象をほぼ対等に扱いながら生きているのではないだろうか。自分について考えを深めるように、他者の状態を隈なく見つめているのだ。両者が常にニアリーイコールで繋がれている。ただし、自己と他者の境界線を見誤らないよう、ピンと伸ばした糸を張り詰めている。うなずくスピード、発言の慎重さから、そんな厳しさが顔を覗かせていた。思考を集中させて応答を重ねる姿、映画作家の宮崎樹里愛。

外に立って夜、冬の風をうけている。例えばそんな状況に彼女がいたらと想定する。「なぜ私は風を感じるのか」は「風はなぜ世界に吹くのか」という問いかけに行き着く。なぜなら、感知して考えて納得したいのは自分についてだけでもなく、世界(風)だけでもなく、全部についてだから。いつも同時に一緒に感じています。風は自分じゃないけれど、風は自分そのものです。と、彼女ならそう答えるだろうか。

poetry
ー できる ー


pep インタビューポートレート
vol.3    宮崎樹里愛
2022.02.28

エッセー「 自分じゃない 」
詩「できる」
話をきいた方 : 宮崎樹里愛(みやざきじゅりあ)
インタビュー・写真・エッセーと詩の執筆&編集 : 佐藤空