- 運営しているクリエイター
記事一覧
あかねの(ための)一首評 26
月面に無数の地名 ごめんなさい あなたはずっとあなただからね
展翅零(毎日歌壇より)
解釈のポイントはふたつある。ひとつめ。あなたは誰か? あなた=月としてもこの歌は解釈できるし、その場合はわりと素直に読み下せそうな感じがする。しかし、この歌のあなたは月ではない、だれか人に語りかけてると読んだほうがぼくにはしっくりくる。
ふたつめ。なぜ「ごめんなさい」なのか。ぼくの感覚なんだけど、この歌
あかねの(ための)一首評 24
むっくんがキレるキレるぞ草いきれ ヘリコプターがよく飛ぶ日だな
セキユ(粘菌歌会第30回「怒り」より)
むっくんって誰? 軽く調べたけど元ネタはわからなかった。知ってる人いたら教えてください。でも知らなくてもたぶん、というか元ネタなんて実際ないのかもしれないし、なんとなくキレ芸で勝ってそうなどこかのむっくんが思い浮かべばそれでいいんだ。きっと。
さて、誰かもわからないむっくんが「キレるキ
あかねの(ための)一首評 22
天国は近くにあると教えられすべてのルンバが海に向かった
からすまぁ(うたの日『自由詠』より)
ある日ルンバがいっせいに海に向かう。そんなの一度も起きたことないはずなのに、ぼくたちはそれがいかにも起こりそうなこととして受け入れられる。その絵的なイメージ喚起力がこの歌の最大の魅力だ。
歌としては、意味の解釈にかなり幅のある歌である。ぼくが気づく限りでは次の感じだ。
・天国は人間の天国か?
あかねの(ための)一首評 20
みそ汁がさみしいひとはいませんかここにえのきが落ちていますよ
北山文子(『短歌ください 双子でも片方は泣く夜もある篇』より)
調べてみるまで知らなかったのだけど、寂しいと淋しいはどうやら同じ「さみしい」でもニュアンスが違うみたいだ。
寂しいのほうが広い意味で使われる。①物足りないさま、②静かであるさま、③孤独であるさま。一方で、淋しいと書くときはもっぱら③孤独であるさまを表して使われるよ
あかねの(ための)一首評 19
冷ややかに星は輝く何ひとつ為し得なかった日の黒ラベル
toron*(うたの日『為』より)
うまい歌のはなし この歌は抜群にうまい。描かれているのはくたびれたサラリーマンだろう。冷蔵庫から取り出されたサッポロ黒ラベルを指して「冷ややかに星は輝く」とは、まるでお手本みたいな言い回しじゃないか。
ぼくはうまい歌が苦手だ。とくにうたの日で薔薇=主席をとるようなうますぎる短歌にはある種のリスクがある
あかねの(ための)一首評 18
かなしみのすべてに名前を付けようよ このかなしみは「クリームブリュレ」
りゅう(サイボーグ)
クリームブリュレといえばパリパリのカラメルの下にやわいカスタードクリームをたっぷりとじこめた洋菓子でまあなんというか甘さの中にほんのりと苦味が後を引く感じで一言で言えばとても美味しい。
それをかなしみの喩えとして用いる傲慢。「クリームブリュレ」とカギカッコで括られているのはこれはつぶやきなんだろ
あかねの(ための)一首評 17
うん、好きさ、洗濯ばさみの真ん中にある針金に誓ってもいい
近江瞬(『飛び散れ、水たち』より)
これはつまり、めちゃくちゃに煽った別れ話なのかどうか。
シンプルに捉えるなら、男が不貞を働いたとかはじめから遊びだったとか、そういうのを女に指摘されてなじられてて、男的にはあとはもう、どのくらい酷く捨ててやろうかみたいな、そんなシーンにも読める。ケンカでモノがぶちまけられた床に洗濯ばさみが落ちて
あかねの(ための)一首評 16
たいようが食べたいようと言いあえば遠くで夏が終わってしまう
鈴木ちはね(『予言』より)
初めに。ぼくはこの歌の意味がよくわからない。ただ、初見でめちゃくちゃ惹かれたのを覚えてるし、いま見てみても、めっちゃいい歌だなと思っている。だからできるだけ、その感情を掘り下げられたらいいなと思う。
* * *
この歌は三句切れになっている。たいようが食べたいようと言いあえば/遠くで夏が終わってしま
あかねの(ための)一首評 15
あばずれのあべのハルカス窓を這う雨のかな文字とろとろおちる
枇杷陶子(粘菌歌会第20回「韻」より)
あべのハルカスって、なんとなく下品な感じがする。
名前の話だ。こんな名前、普通のセンスでは付けない。まずハルカスが変だ。カスが入ってて、直感的にいやな感じがする。あべのハルカスの公式サイトには名前の由来が書いてあって、それによるとハルカスは"いにしえのことば「晴るかす」から名づけました"と
あかねの(ための)一首評 14'
すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく
平岡直子「Happy birthday」より
なぜ魂を口にくわえたのだろう。落とさないため。四肢を自由にするため。そうだ。主体はいまから疾走する。すごい雨とすごい風のなかで、魂を口に咥えて、主体はいまにもはしり出そうとしている。その瞬間を捉えた歌だ。
面白いのは、「すごい雨とすごい風」にネガティブな印象がないことだ。「だよ」が、きみ
あかねの(ための)一首評 14
すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく
平岡直子「Happy birthday」より
* * *
こちら、自分語り的な文章になっています。あらためて評を書きましたので、あわせてお読みいただければさいわいです。
* * *
台風が来ると外に出たくなる。横殴りに窓を叩くバチバチの雨。低気圧が指揮者のように雨のうねりを作り出す。一瞬遠のいてまた耳を聾する風の音がいつまでもい
あかねの(ための)一首評 概論
みなさんはいつの間にか歌えるようになった音楽ってありますか? ぼくはある。耳に残る流行歌とか、アニメのオープニングとか、最近ならSpotifyで誰かのリストを聞いててなんとなく覚えた曲なんてのもある。ちょっと時間のあるお休みの日に、部屋に掃除機をかけたりしながら、ふと口ずさんでいる自分に気づく。そういう曲ってある。
歌詞カードとにらめっこして覚えたわけじゃないから歌詞はあちこちあやしい。だか
あかねの(ための)一首評 11'
エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜をおもうよ
初谷むい「花は泡、そこにいたって会いたいよ」
* * *
前回はこの歌について真摯に向き合わなかった。ので、もう一度向き合ってみたい。できるかわからない。やる必要がある気がする。
えすかが何を指すのかが、この歌では焦点になる。いろんな解釈ができる。でもぼくはいちばん素直に、これはエスカレーターそのものを指している、と
あかねの(ための)一首評 13
また雨に打たれてアンヌその視野に強い光をきらうだろうか
小林通天閣(新進歌人会 第八回歌会より)
* * *
通天閣氏についてぼくは詳しくない。京大のほうで短歌(ほかいろいろ)やってる人くらいの認識だ。いまも長髪なんだろうか。フォロワーが3000人くらいいて、これは出版社を通じて歌集を出したことのある歌人より多かったりする数字だ。
氏についてのぼくの印象は「ちゃんと」短歌をやってる人、