【不定期雑記 #36】逆噴射小説大賞2023セルフライナーノーツ
ドーモ、透々実生です。
今年もやってきました!逆噴射小説大賞の季節!
オリジナル一次創作小説の冒頭800字を弾丸に、コロナビールを巡って撃ち合う、年に一度の祭り。
私は今回で3回目(3年連続!)の参加となります。本当にこの祭は参加するのが楽しいです。まあ、動機は相も変わらず「コロナビールが欲しい!」なのですが(不純)。
この時期は、そもそも仕事が年次決算やら株主総会やら、結婚した関連でプライベートで色々やらなければならないことやら、文フリに向けて本を出すので校正やら……。凄くやることが沢山ありました。それでも無事規定の二発を撃ち込めて良かったです。
さて、早速(勝手に)恒例のセルフライナーノーツを書いていきましょう。長いですが。
……とその前に。
今回は何を思って書いたか?
逆噴射小説大賞は、私の中では1年の成果を出し、かつチャレンジする場だと勝手に思っています。なので「コロナビールは欲しいが、それはそれとして今の自分の実力値をしっかり測る」+「明確にこの方向性で書く、ということを決めてチャレンジする」ということを軸に置いて小説を投稿するようになりました。
今まで3回参加してきましたが、そもそも1回目は「祭りだー!」といって突っ込んだので特に何も考えておらず、2回目は途中で思う所があって、かなり根を詰めてチャレンジしました。1、2回目についてはそれぞれ書いたので、そちらを参照ください。(読み返すと1回目はめちゃくちゃ楽しそうに参加してるなあ、と。やはり楽しいと思いながら書くのが大事なのかもしれない)
じゃあ、今回は何を念頭に置いたのかと言えば、一言で言えば「ドライブ性」です。これを実現したいが為に小説2弾を撃ち込みました。
前回の逆噴射小説大賞で思ったのは、「ドライブ性」の意識が足りていないな、ということでした。ですがその「ドライブ性」とは何なのか、あんまり自分の中で言語化ができず(感覚としては「こういう感じ?」と積み上がっているのですが)、ぶっちゃけ今もそんな感じだと思います。
それでも、ドライブ=駆動、ということであれば、恐らく逆噴射小説大賞のレギュレーション記事にも書かれていた、これが一番当てはまるのではないかと考えるのです。
この続きを読みたいと思わせる――つまり、キャラクターや世界観での掴み、タイトルや文章での掴み、先を想像させる謎や伏線など、要素としては様々あると思いますが、読者の心を「続きを読みたい」方向に駆動させることがドライブ性なのだと思います。
これはどうやったら実現できるのか、まだ自分の中に型がありません。というか、この10年以上小説を書いてきて、あまり体系立って考えたこともなければ、勉強したこともなく、更には言語化したこともないので分からなくて当然です。それでも、この1年かけて「どうやったら続きが読まれる小説になるんだろうか?」みたいなことを試行錯誤していました。或いは、「面白い小説とは何なのか?」ということを言語化しようと読書もしてみています。
ちなみに書くに当たって逆噴射以外で、それを明確に意識したのが『カミキリ』でした。相当試行錯誤して苦悩してましたね……。
それでも正直言って、あまりまだ「ドライブ性」の感覚はつかめていない。しかし私はコロナビールが欲しい(!)。ならば、ここできちんと「ドライブ性」なるものを実現できないか、今回の逆噴射小説大賞で試行錯誤してみよう。
ということで、
以上5点を意識して書いた感じになります。特に最後の「情報を積み上げる」は結構意識したポイントであり、「前提情報をどれだけ読者と共有できているかで今後の面白さが変わってくる」「情報の積み上げが丁寧で『地盤』がしっかりすれば、グッとエネルギーをかけたい文(今回の場合は締めの文)の威力が異なる」と思ってます。これは、『株式会社マジルミエ』を見ながら強く感じたことですし、面白い作品(小説に限らず)というのは、得てしてこの情報の積み上げが上手くいっているパターンのモノが多い気がします。(無論、面白さというのはそれだけに限らないのですが。もう少し言うなれば(過去の大賞のコメントにもありましたが)、「このジャンルの面白さ=旨みを抽出できているか」ということも関わってくると考えています)
どう実現すればドライブ性が生まれるか、なんてまだ分かりません。が、かと言って何もしないのは腰抜けなので、取り敢えずやってみたれ!と銃弾を込めてぶっ放しました。
なので今回の私は、「もしこの試みが成功すれば二次選考以上は行くだろう。失敗であれば(勿論審査員の方々の好みもあるだろうけど)二次選考すら撃ち破れないだろう」という気持ちで書いています。ぶっちゃけた話が、今の自分の位置が知りたい。今から結果発表が楽しみです。もし落ちても(公式からの声明も前々からあった通り)あまり重く受け止めないようにします。
(ちなみに、論理的に見えますが、後から見てこう考えていた筈だ、という分析なだけで、実際のところはもっと感覚的だと思います。何せ書くのに1週間近くかかってる。作ってる途中でも言語化できてやってればなあ……。)
さて、長くなりました。セルフライナーノーツ、スタートです。(ここからも長い)
プラクティス(という名の没作)
蛆の王
記憶上、初稿ができたのは2023年の2月頃だったと思います。実は、逆噴射小説大賞のこともありますが、普段の小説の練習として表に出していない習作を作っていました。例えばAIチャットを題材にしたバトロワものから、山手線が爆散する話、怪異を退治する男女のバーでの会話、飛行機墜落(但し乗客全員様子がおかしい)の場面まで。この『蛆の王』(元タイトルは『遺産ロワイヤル』)はその内の1つでした。
念頭にあったのは、新川帆立さんの小説『元彼の遺言状』です。あらすじにあった「僕の全財産を、僕を殺した犯人に譲る」という元彼の遺言状の言葉に刺激を受け(というか、それをオマージュして)作成。
結果出来上がったのは、山奥という舞台で繰り広げられる、殺伐家族のバトルロワイヤルでした。何でだよ。
当初は割と本気でこれを一発目にして行こうと考えていまして、結構長い間ちまちまと推敲していたのですが、その末、結局没にすることにしました。
理由は2つ。1つ目は、この先の展開が、どうやっても想像できてしまい(悪感情を抱いている者同士が殺し合うだけなため)「続きが読みたい!」とはなり得ないこと。あるある過ぎてドライブ性が何となく無かったわけです。
そして2つ目は、タイトルも含め、あまりにも露悪的な小説になってしまったことにあります。
露悪的な小説というのは、書いている人間は心がスッとなるものですが、こういうモノは得てして自己満足に終わったり、又はもやもやとした気持ちを起こさせる事が多く、エンタメとして成立させる事は難しいです。
それでもエンタメとして成立させることはできる訳で。例えば、上手いな、と感じたのは梨さんの『かわいそ笑』です(これを書き終わった後に見たので、やりようがあるんだなと感じました)。ある種露悪的。でも、これはラストで明かされる「とある仕掛け」によって上手く露悪さが低減されていることと、そもそもホラー作品としての品質が高いことから、満足感はあるしそんなに気にはなりませんでした。
一方、今年『東京最低最悪最高!』という漫画がかなりバズった(或いは炎上した)のですが、これが失敗した(むしろ「させた」かもしれませんが)好例なんじゃないかと思っています。炎上が起こった時点で、商売としては成功かもしれませんが、エンタメとしては失格だと思います。ちなみに私はこの作品のことを、テンプレートを露悪的に(より正確には、人の嫌な記憶に触れる様に)誇張しており、あまり好きになれませんでした。創作でまで神経逆撫でされたくないんですよ私は。こういう表現もまた真実を写しているかもしれなくとも。
こんな経緯もあり、当然『蛆の王』もボツです。無論、書いた以上は上げたのですし、結末まで物語を考えていますが、このままの設定で続きを書く事はありません。断言します。ちょっと反省しました。
本戦参加作
グッドデイズ、マイシスター。
本戦作その1。どちらかと言うとこちらが本命枠です。
きっかけは、前回の逆噴射小説大賞でVTuber(或いはYouTuber)を題材にした小説が幾つかあり、成程題材になり得るのか、という気付きがあったことです。
その後、調べてみると(そして読んでみると)幾つもVTuberを題材にした小説は商業的にも出始めていまして。例えば、
他にも幾つかありますし、最早「VTuber小説」は、ジャンルの1つとして確立しつつあります。
ということで、私も何か1本書けないかなあ、書ける気がするんだよなあ、という(軽率ともとれる)意欲だけで書き始めた作品が、この『グッドデイズ、マイシスター。』でした。それが8月上旬頃のお話。軽率でも意欲があって真面目に書ければそれでいい、という思いを持って。
主人公の合歓垣燻離のキャラクター性については、正直配信者の裏側に関して知る機会に恵まれたことが大きいです。例えば先に上げた小説作品の他、『NEEDY GIRL OVERDOSE』というゲーム、Twitterで見かけた配信者の女性が実は面倒臭い人だった、という漫画(タイトル忘れました。どなたか知っている方いらしたら……)、及びマジで配信者関係で面倒臭い事案を関係者から耳にしていたことなど(当事者の身元がバレる可能性がある為、当然にして詳細は伏せます)。本当に恵まれていました(一部恵まれなくてもよかったものがありますが。いざこざなんて無いに越したことはない!)。
なお、知り合いにVTuberをやっている人がいまして、試しに読んでもらったところ「中の人の解像度が高い」と(ある意味で)太鼓判を押してもらいました。いえい。
本文については、「ドライブ性」の意識を立てていたので、冒頭文は聴覚を使って一気に場面に引き込む、という映画で用いられるような手法を小説に持ち込みました。一種の実験ですね。ちなみに着想元は、最近見た『ジョン・ウィック コンセクエンス』。見た方は頷いてくれるかも。あの冒頭のグーパンのシーンです。
最後は、「主人公がここまでVTuberの自律AIを創ろうとしているのは、自律AIに動いてもらって最終的に自分が死んでもいいようにしたいから=自殺をする為」という謎に満ちた(ともすれば頭のおかしい)動機の提示をするところまでは決めていました。
なので、そこに至るまで必要最低限の人物説明と関係性、世界観を述べ、最後の引きの文まで繋がれば良い――とここまでは流れはすんなりできました(代わりに足したり削ったり、限界までめちゃくちゃ推敲しました。多分例により40〜50回は読み直している気がします。もっと少ない数で推敲終えたい……)。
悩んだのはここからで、「この自殺を目的とする、というところで打ち止めにするか、或いはその先まで進めるか」。今回の私の結論は後者=その先まで進める、でした。前者は、インパクトは大きいですが、あまりに謎過ぎてこの続きを読ませる力になり得ないのではないか……と考えたため。そして、前者で止めるにはその分文字数を重ねねばならないのですが、これ以上やると流れがぐだぐだになりそうな気がしたため。勿論、前者とした方が締まりがありそう=情報量に無理がなさそうですが、これは私にはかなり難しかったので断念しました。実力不足。
この選択が吉と出るか凶と出るか……。失敗すると落選するので分かりやすくて良いです。
ちなみにこの作品ですが、既にキャラクターの設定やストーリーまで粗方決めていますので、その内全て書き切ってしまいたいと考えています。どれだけ時間がかかるか分かりませんが!(その前に私はまだ書くべき物語が沢山ある!)
アノン・マキナは死んでいる
「xxxの幻影を、今も戦場に見る。」
「xxx」には後に「アノン・マキナ」という名が入る事になるのですが、この最初の一文が浮かんでから、一気に書き上げた小説です。で、浮かんだのが、9月25日頃(東京パルプ飲みの翌日!)。1週間かそこらで一気に今のシーン辺りまで書き上げ、推敲を重ねました。事実上、逆噴射小説大賞本戦作で私史上最速で書き上げた作品となります。何だかんだ言って、「特に何か考えた訳ではないけど、勢いで書いたらうまいこといった」感じで、お気に入りだったりもします。
正直この作品は、王道も王道だと思って書いています。逆噴射小説大賞、というフィールドにおいては全く奇を衒っていない、ストレートかつスタンダードな作品。それは即ち「没個性」に繋がりかねませんが、それでも出した理由は、私は1回くらいこういうストレートな作品を書いた方が良い、と判断したためです。
とは言えエンタメ作品として、流石にそれだけだと味気無い。そこで、「嘗ての女傑が何故か敵である人外として蘇った」という1つだけをスパイスに入れています。これだけでも、先のとんでもない苦労を読者に想像させ得る=ワクワクさせる、と判断したためです。(主人公は敵となった師匠をどう御すのかの葛藤も生まれる。殺すのか生かすのか、隠すのか、或いは――。)
ですが、そのスパイスを引き立たせる為の最後の締めの文に非常に悩みました。あの2文を捻出する為、あーでもないこーでもない、とやっている内、ある日突然降ってきました。降って来たからこその完成度になっているのだと思います。というか何であればタイトルも様々に考えた挙句降って来たものでした。冒頭文から何から何まで「降って来た」もので構成されている、ある意味で奇跡みたいな小説です。形にできて大変良かったです。
それでも、この作品は上手くいけば二次は行けるけど、最終に進むにはパワーが足りないかな、というのが本作への自己評価です。例えば、固有名詞をもう少し(1~2個)増やしたりとかすると、より世界観に没入できる感じがあったかも……と。つまり、情報量を削ぎ過ぎたかもしれない。もしかしたら昨年の『シー・シーズ・シーズ・XXX』の方が上手くできていた可能性もある。この辺りはまだまだ塩梅が難しいですね……。
ちなみにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、アノン・マキナという戦乙女は、機械仕掛けの神――デウス・エクス・マキナの役割を果たしています。本来の意味とは少しズレますが、解決困難な場面に直面した時に絶対的な力でもって助けてくれる存在、という意味合いです。こういう仕掛けをそのままキャラクターにしてしまおう、と考え、名前もデウス・エクス・マキナから取っています(マキナは言うまでも無く。アノンは、エクス⇒X⇒「不明」⇒アンノウン⇒縮めてアノン、と連想ゲーム的に繋げて作った名前)。
未来へ……
そんな訳でセルフライナーノーツでした。
実は前回、1作品(『シー・シーズ・シーズ・XXX』)だけ無意識に文字数オーバーをやらかすという大ポカをやらかしましたので(選考が全て終わってから気づいた)、今回はそんな事が無さそうで何よりです。
他に今回良かったのは、小説としての面白さを少し掴めた様な気がする所です。色々要因はありますが、何より本を読んできた事によるものだと思います。スピードが遅いので現時点で30冊をようやく超えるくらいしか読めていませんが、「これは面白い」「これはつまらない」というのを自分でガンガン言語化していきました。最早趣味としてやっているのですが、どうやらコレが功を奏した様な気がします。
あとは、東京パルプ飲みで刺激を頂けたことも大きいと思います。「場面を動かす事と状況を動かす事は別」というアドバイスを頂けたお蔭で『グッドデイズ、マイシスター。』の方向性は固まりましたし(あの時は考えすぎてかなり迷走気味でした)、あの場で刺激を受けたからこそ『アノン・マキナは死んでいる』も浮かんだものと思います。1人で殻の中に閉じこもるよりはちゃんと外の世界に出て行くのも偶には大事だなと思いました。
逆に今回書いてみて、そして他の方の作品を読んでみて、自分なりの反省点としては2つです。
1つは、情報量の圧縮。これには2つ意味があると思っていて、1つは「物事を短い文字数で語ること」、もう1つは「短い文字数で物事を詳細に語ること」です。分かりやすく言えば、前者は「最小化」で後者は「濃密化」です。私が今できているのは「最小化」で、「濃密化」はまだまだ不足していると思います。今まで冗長な物言いで小説を書いてきた弊害と思いますので、もっと濃密にしていきたい。その為に何が必要なのかは分かりませんが、その濃密化の1つとして「1文で1枚の絵を浮かべさせれば良い」のでは、と感覚的には思っています。やり過ぎると危険だとは思いますが。
もう1つは、独自性とドライブ性の両立です。独自の世界は作り上げられる(筈)、ドライブ性も何となく感覚が分かってきた。無論それらは磨き続けなければならないけど、しかし一方で、それらを両立させる事がまだ上手くできていない感じがあります。ここには情報量の調整ということもあって、「どこまで情報量を出せばちゃんと読める作品になるのだろうか?」ということを掴む必要があると感じています。これが出来てしまえば何処ででも戦えるとは思いますが、力が無い。毎日書いて鍛えるしかない。
あと、小説理論とかをまともに勉強したことがなく、全部自分の感覚に頼ってやっている(上記について考えていることもそう)ので、ここらでそろそろ勉強してみても面白いかもしれない……と思ってもいます。
とは言え、私は趣味作家です。あまり根詰めすぎずに気楽に楽しくやっていきたいと思います。
以上! 他の方の作品を読みながら、結果発表を楽しみに待ちましょう🔫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?