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マジックマッシュルームの医療的用途

マジックマッシュルーム🍄(シロシビン(英:psilocybin))
 この成分はLSDと同様、幻覚作用を引き起こす成分であり、ブラジルやオランダ、サモア、ジャマイカなどの一部の国を除いたほとんどの国で違法とされている。合法としている国ではこれらの成分は精神療法のための薬として用いたり、儀式を進行するために用いられている。マジックマッシュルームとはトリプタミンアルカロイドのシロシンやシロシビンを含んだ菌類のキノコの俗称である。
 シロシビン群に属するきのこは、psilocybe 属をはじめとしてconocybe 属やamanita 属の一部など 150 種を越え、幻覚作用を有するために、古くから(およそ3000年前から)メキシコインディアンが祭事に使用していた。オオシビレタケ、ヒカゲシビレタケ、センボンサイギョウガサなどは日本にも自生しており、幻視を主訴とする食中毒例も報告されている。催幻覚作用成分としてシロシビン、ブフォテニン等を含有するが、その含有量はきのこの種類、採取場所・時期により大きく異なる。 合法ドラッグと称しマジックマッシュルーム等の俗称で、乾燥きのこだけでなく栽培キットや錠剤・粉末・液体の形でも出回り、興味本位に用いられる事例が相次いだが、シロシビン、シロシン及びその塩類を含有するキノコは、2002年から麻薬及び向精神薬取締法で麻薬原料植物として規制された。
 シロシビンが合法である国として有名なオランダでは、マジックマッシュルーム(地上に生えてくる子実体)は違法であるものの、マジックトリュフ(地下で作られる菌糸の塊、菌核)と称される製品は合法で、これはシロシビンを含み特定の店頭で購入可能とされている。シロシビン使用後に起こる持続的な症例報告はほとんどなく、むしろ生涯のうちでシロシビンを使ったことのある人では、精神的治療のための入院や薬の処方が、使ったことのない人に比べて少ないとされている。
1.効果
 効果はLSDとほとんど同じである。作用時間は4〜6時間が一般的でLSDよりも少し短いが、摂取量に応じて変わる。(LSDに関しては別の記事で紹介しています)
 以下は誤って食べてしまって中毒症状が起きた時の例である。
摂取後の時間経過と症状
0~30分 めまい、嘔気・嘔吐、腹部不快感、脱力感、筋肉痛、悪寒、不穏、口唇のしびれ
30~60分 幻覚、流涙、発汗、顔面紅潮、注意力低下等60~120分 幻覚の増大
120~140分 症状は漸減し、4~12時間でほとんど正常に戻る。 ただし、幻覚が 3 時間後に発現した例や、4 日間続いた例もある。
 頻脈、血圧上昇、興奮、四肢のしびれ、散瞳、高熱(小児)、 痙攣、昏睡等の重症例はごく稀で有毒性は極めて低いとされている。半数致死量(LD50)はラットやマウスで285mg/kg、ウサギで12.5mg/kgであり、これは薬物として使用される際の標準使用量の1000倍である。
 色彩豊かな幻覚状態(good trip)を意図して摂取した場合でも、精神的緊張や不安が高まりパニック状態(bad trip)となることがある。パニック状態になった場合はジアゼパムやその他ベンゾジアゼピン系薬物によく反応するので必要に応じて投与する。また、中毒症状には活性炭が投与出来れば胃洗浄は不要とされている。
2.作用機序 シロシビン(4-phosphoryloxy-N,N-dimethyltrypatmine)やLSDなどのセロトニン作動性幻覚剤は、近年のヒトにおける研究と動物実験によって、5-HT2Aや5HT2C、5HT1A受容体の刺激によって起こる効果であると分かった。LSDと同じように、知覚や認知、感情の奥深い変化を引き起こす。シロシビンはヒトや他の哺乳類の体において、シロシン(4-hydroxy-N,N-dimethyltryptamine)に変換され、これもシロシビンと同じように神経伝達物質系に影響を与えることなく、直接多くのセロトニン受容体に作用する。また、ラットの5HT2A受容体よりもヒトの5HT2A受容体との親和性が高い。毎日LSDやシロシビンを用いることは耐性を生み、効果が一時的に感じられなくなり、ラットの脳では5HT2A受容体の数は減っていくことが分かっている。LSDとシロシビンは5HT2A受容体を活性化した時、アラキドン酸を刺激する。シロシビンはLSDほどホスホイノシチド(PI)経路を強く刺激しないことと、シロシンはPIの代謝回転をより促進することがLSDとの違いである。これらのセカンドメッセンジャー系は少なくとも、いくつかの主観的な効果を生み出す役割を果たしている。また、LSDやシロシビンは5HT7受容体や5HT5A受容体といった、最近新しく発見されたセロトニン受容体に作用する可能性があるが、これについてはまだ詳しくは明らかになっていない。
3.研究 シロシビンの研究は少なくとも過去に19回ほど行われており、およそ1960人の、精神治療歴のある参加者が関わった。研究はLSDの精神治験と同じような工程で行われた。投与量は平均8.24mg(0.118mg/kg)〜17.19mg(0.246mg/kg)であった。研究者たちは個人の無意識的記憶や葛藤を活性化させることを狙って、投与量の選択をした。この研究もまた、投与量が少なくセッションの回数が多いpsycholytic法か投与量が多くセッションの少ないpsychedelic法が用いられた。
 長期的なシロシビンの効果の結果として、人生や世界観において前向きな態度となり、満足感が増し、健康的になり、患者の友人達は小さな肯定的な変化に気づいたと報告されている。人生に対して否定的な変化が起きたのは極少数であった。シロシビンの前向きな効果は25年以上にわたって続いたという。
4.医療的用途のリスクと可能性
 シロシビンは、どの器官や系への病気にも関連しない。PubMedデータベースにおいて、シロシビンが関連する心臓病や肝臓障害について広範囲に検索しても、2005年9月の時点で、たった一つの肝臓障害しか見つからなかった。ほとんどの場合において、器官へのダメージや病気は、キノコがシロシビンを含んでいると考えて食べた結果、他の毒が混ざっており、それによって起きたものであった。放射性標識されたシロシビンで、摂取後の体内動態を調べた研究では、シロシビンは経口摂取後、体全体に行き渡ることがわかった。
 長い歴史の中でシロシビンは継続して用いられてきたのにも関わらず、研究の結果も含めて、シロシビン投与によって引き起こされた身体的な病気や疾患は数少なく、精神的な副作用以外にはほとんど症例がなかった。
 主な精神的な副作用として、時間や空間の知覚が歪む、不安、(この世界が本物でないような、またはこれが夢であるかのような)非現実化、(自分が本物でない、または他の誰かであると感じるような)非人格化、肯定的な気分と否定的な気分を両方経験すること、情緒不安定、瞳孔散大、めまい、吐き気、疲労感、集中力欠如、普段とは違う体の感覚•思考、あくびが挙げられる。これらの症状は急性でシロシビンの効果時間である4〜6時間で消失する。これらの症状が出ない容量(マイクロドーズ)で治療のセッションを行う方法もある。
 ごく稀にシロシビンやLSDを使用した人において、幻覚剤持続性知覚障害(HPPD: hallucinogen persistent perception disorder)を発症する。この症状はフラッシュバック(ドラッグを使用した時の感覚を一時的にごく短い間再体験すること)とは違い、視覚だけの変化が長期間持続するものであり、発症のきっかけとしては過度の飲酒やストレス、疲労からなどに多く、シロシビンやLSDの使用後一週間から数年後においても発症する。2006年での調査では、シロシビンやLSD使用者がHPPDを発症したのは使用者の1%未満であったことが分かった。HPPDの症状は大きく2つのステージに分けられ、ステージⅠでは特に治療も必要ない、弱い視覚性の変化が持続する。ステージⅡの症状では、強い持続性の視覚変化が現れ、多くの患者はこれに伴う不快感を体験する。HPPDの治療法は患者数が少ないことから明確には確立されていないが、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)、クロニジン(α2受容体作動薬)、クロナゼパム(バルビツール酸誘導体)、SSRIなどの抗うつ薬が用いられる。また、発症のリスクは、以前にシロシビンやLSDを使ったことがある人をシロシビン治療の対象としないことで下げることができるとされている。
HPPDの視覚変化

0.43mg/kgのシロシビン投与の2ヶ月後の調査では、参加者達に肯定的な気分と性格の変化が起きていた。シロシビンはLSDと似たような分類であるので、これも長期的な精神的効果をもたらすかもしれない。

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