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2024年4月の映画鑑賞記録


4/5 インフィニティ・プール
デヴィッド・クローネンバーグの息子の監督作であり、去年の名作『PEARL』で主演を務めていたミア・ゴスの新作であり、僕の大好きなデザイナーの石井勇一がアートワークやパンフレットなどデザインをしているというので「そりゃ観るっしょ」案件だった本作。
 スランプに悩む小説家が訪れた異国の保養地で事件に巻き込まれ、その国のある風習によりドンドン人格やモラルが崩壊していく様を描いている。変な映画だし、いわゆるエログロ描写も多いものの、監督の美意識みたいなものはビシビシ伝わってきて印象はよかった。ミア・ゴスはやはり面白い。
途中、主人公の小説家が才能の無さを罵倒されまくるシーンがあるのだけど、ものづくりの立場の人が聞いたら落ち込んでしまうのではないかと思う(俺も食らった)
この監督、長編よりMVとかの方が相性いいんじゃないかなーと個人的には思いました。

4/9 毒娘
狂人系ホラーの割に、その狂人役の女の子が妙にルックスが良いので、ぬるいアイドル映画なのかもという懸念が拭えず敬遠していたのだけど、いい評判がチラチラ流れてきたので観てみた。
『カラオケ行こ!』観た時も思ったけど、現実世界を舞台にしているのなら、もうちょい現実味を出してほしいと思う。あんな傷害事件を起こしている人間を野放しにしているなんて有り得ないし、あんな目立つカッコの人が真っ昼間の住宅街に現れ、2階のベランダに登り、室内に紛れ込み、「いやそれ誰か気づくだろ!」と。そもそもどうやって2階のベランダに上がったのかもわからないし、その説明もない。地域や警察の警戒心の薄さもおかしい。
『いやいや、これは現実世界を舞台にしたファンタジーですよ』というテイでいくのであれば、それに即した世界観である事をもっと説明するべきだと思う。
最初に懸念していたようなアイドル映画ではなかったけど、色々と設定の詰めが甘くて見ていて集中できず、設定自体は興味引くだけに勿体ないなと思った。 主人公は衣装デザイナーの設定なのだけど、こちらは設定が妙に細かくて、完成した服に金属探知機あてて針を探す描写なんかが挟まれていた。もしかしたら監督や誰かに強いこだわりがあるのかもしれない。これは良かった点だったが、そのバランスのチグハグはなんなのだろう。

4/11 オッペンハイマー
池袋IMAXレーザーGTで鑑賞。
色々思うところはあるけれど、まず前提として僕はノーラン映画について結構苦手意識が強い。カット割や時間軸をわざわざ複雑にする事で、わざわざ難解な映画にしてるんじゃないかという気がして、「それってこの映画にとって本当に必要な事なんですか」という気持ちが拭えない。今作に関して感じたのも同様かつ、『セリフ多すぎ』『人物多すぎ』『場面の切り替え多すぎ』『BGMがやかましすぎ』の4本。嗚呼、ノーラン。
だったら観なきゃいいじゃんという指摘は最もだけど、それでも観ないとという気にさせる訴求力があるところがまたクリストファー・ノーランの凄さでもあるんだろうなと思う。実際に一定の面白さはもちろんあるからまた困る。
オッペンハイマーの科学者としての矜持と、それが及ぼす影響と、後悔と、みたいなところで揺れる様は『風立ちぬ』を思い起こしたし、コントロールしている側だったはずの自分が、思いもよらない方向に話がどんどん動いて身動きがとれなくなる描写は少なからず共感に似た感情を抱いた。
政治家たちの無神経な発言や、陰で暗躍する悪い奴や、色んな力で歴史は動く。自分を強く持って生きていかねば、という気にさせられた。

4/15 デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章
長々と色々書いたら、偏見まみれのあまりに醜い文章になってしまったので割愛します。
僕には合いませんでした。後編は観ません!

4/21 ソウルフルワールド
ピクサーの、配信限定公開だったものを劇場でやりましょうキャンペーンのうちの一作。 これはもともと劇場公開の予定があったのに、コロナ禍のせいで見送られた経緯があり、当時公開を楽しみにしていた僕としては願ったり叶ったり。めちゃくちゃ嬉しい。
夢半ばで不慮の事故で死んでしまった主人公が、あの世の番人みたいな人に自分の死を取り消してもらえないかを交渉し、どうにか奮闘をするというような話だが、とても良かった。 「生きがい」をテーマに扱った映画といえば、やはり黒澤明の『生きる』を連想するけど、ピクサーアニメならではのデフォルメ具合で、よりももっと主題をコンパクトに、分かりやすく伝えていたと思う。ピクサーもすっかりおじさん泣かせになってきた…
音楽映画の側面も強くて、BGMもずっと良かったので、クレジットをみたらまさかのトレント・レズナー&アッティカス・ロスだった。作品の幅広すぎ!最高!

4/23 異人たち
去年の今頃くらいから、評論家筋がずーっと話題にしていて、めちゃくちゃ気になっていた本作がようやく観られた。 原作は山田太一が書いた『異人たちの夏』という小説で、それが時を越えてイギリスでリブートされた、というトピックがまず語られるが、僕は原作を読んでないし、大林宣彦による同名映画も観ていないため、この作品に関する予備知識はほぼゼロ。ゲイを扱ったラブストーリーであるというあらすじのさわりだけをぼんやり抱えて劇場へ。
 見てみると、思っていた以上にゲイという属性に対する社会の扱いがダイレクトに描かれて、極めて社会的な意義性の強い映画だった。
 20年前とかと比較すると、同性愛への偏見のようなものはだいぶ変化したような気はするけど、それでもまだこういう映画が作られるくらいには当事者にとってはいまだに差別の対象である意識が強いのだなと、認識を新たにした。
この手のトピックで思い出すのは、むかーしそれこそ20年前くらいの深夜TV番組で『一晩抱くならどっち?!』という、デリカシー皆無なお題で、はるな愛とハリセンボンの近藤陽菜がピックアップされていた。「はるな」繋がりで、「おっさんみたいな女と、女みたいなおっさん」という構図という事らしい。正直なところ、このお題にいまだに答えを出せないまま時が過ぎている。 

4/28 マンティコア 怪物
予告編で興味を引いたので観た。人間の内面に潜む狂気性みたいなものがテーマのサスペンス、というような気持ちで劇場へ向かったのだけど、蓋を開けてみると、ゆるいラブストーリーのようなパートばかり長々と続き、なんだろうこれはと思いながら観ていた。主人公はCGでクリーチャーを作るアーティストで、文字通り怪物を描くシーンが多く挟まれるので、少しづつ内面が怪物へ変化していく様を重ねている、のかと思いきや、どうもそういう描写にしたいわけではなさそう。なんだこの映画。
ラスト15分くらいでようやく「怪物」になった主人公の姿が現れ、シーンまるごとワンカットで犯行が描写されるのはスリリングで、紛れもないこの映画の見せ場であったと思う。
映画の伝えたい意図は理解した上で、僕としてはどうしても思ってしまうのは、『主人公、そんなに怪物ですか?』ということ。 うちに秘めたアンモラルな部分なんか誰しも持っているはずで、どうしてあそこまで主人公は疎外されてしまったのだろう。 僕だって主人公の彼くらい若い頃はエネルギーがあちこちにいっていたから脳内で何人も人を殺したし、建物や電車をいくつも破壊したし、レイプだってした。
多かれ少なかれ人ってそんなものなのだと思っていたけど、意外とみんなはそんな事しないのだろうか。僕は怪物と呼ばれるような人間なんだろうか。 そういう事を考えた。

4/28 君たちはどう生きるか(2回目)
1回目を観たのは公開2日目、世間ではまだこの作品でお祭りの真っ最中だったから、ある程度落ち着いてからまた観たいなと思っていたのを半年近く経って、ようやく観ることができた。
1回目を観た時の「変な映画だなあ」という感想は大きく変わらないものの、だいぶ印象は変わった。 『風立ちぬ』引退作としてめちゃくちゃキレイにまとまった作品だっただけに、あれやこれやと放り投げっぱなし(に見えた)本作が、ある種の逃げのように感じられてしまい、憤りのような感覚も持っていた。
2回目、落ち着いて観たら、宮崎駿の発するこの先の世界へ向けたポジティブなメッセージが際立っていて、素直に受け止めることができたのがよかった。しかし、やはりテンポは悪いし、説明は足りないし、映画としてはあまり魅力的とは言えないかもなという気はするけど、広告やスポンサーを一切入れずに、自社資金だけであのヘンテコな映画を作りきったという、その事実はとても感動的な事。
なんだかんだとすごい映画なんだなと思います。

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