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八百屋にある豆腐、宿にいる人々


八百屋はちょっと私たちに似ていると思う。
身近にあるけど、毎日は用がない。

八百屋は野菜しか売ってない。
牛乳やお肉を買おうものなら、隣の市場の肉屋へ足を伸ばす必要があるし、

今日は何するん?と聞かれて、ポテトサラダだと答えると
コロッケにしなさいよ!たくさん作って冷凍しな!楽だから!
勝手に晩御飯の献立を変えられたりもする。

ゲストハウスの提供する機能は、八百屋と同じで限定的だ。
夕食も朝食も近くのご飯屋さん、お風呂は近所の銭湯へ。

テレビもパソコンも提供していない。
その代わり、ひっきりなしに現れる近所の人たちの個性的なキャラクターが、この宿の最大のコンテンツだ。

私のよく知る八百屋のレジ先には、
日付も原材料も製造元も書かれていない梅干し、
スーパーでよく見るパッケージのこんにゃくと、
なんの変哲もない豆腐も売られている。

八百屋はスーパーじゃないんだから、肉や魚なんかははなから求めていない。
でも、ポテトサラダを作る、と確固たる意思を持っている時はそうでもないのに、
あと1品、味噌汁を作ろうかな、でも具材がたりないな、なんてぼんやり考えているときに出会う豆腐とは、「まさにあなたを求めていたんですよ」と思わず握手をしたくなる。
「じゃがいもと人参を買ってきてね」とつかわされているばかりでは一生気づかないかもしれないが、
「なんかご飯作ろ」って自分で思い立ったときに初めて、なんの変哲も無い豆腐を並べてくれる、八百屋のおばちゃんのありがたみに気づいた。

私たちもそうでありたいと常々思う。
焼きカレーを食べに来たのに、
近所の気のいいおじちゃんに出くわして、
そのままカツカレー食べに出かけちゃうような。
九州と本州をつなぐ玄関、ただの通過点と言ってしまうとそれ以上ないけれど
ぴっちりと予定を決めず、あそびをもたせた旅を楽しむのなら
そんなおじちゃんとカツカレーの存在は、ガイドブックの片隅にも載らないどころかページから飛び出してくるようなど迫力で、あなたの予定を最高に狂わせる。

ゲストハウスって、色んな人が集まるんだねと言われるけれど、
じつはそうじゃなくて
八百屋のおばちゃんみたいに、
今日夕飯何するん?って、これを作りたいけど、何を入れようか?って、
私たちが、ここに集まる人、一人一人のもついろんな側面を引き出していきたい。

野菜はスーパーでもコンビニでも間に合うし、
今やクリックひとつで、野菜の方がうちの玄関先へやってきたりもするらしい。もしかすると最近、八百屋への足がまた少し遠のいたかもしれない。

八百屋はやっぱり私たちに似ていると思う。
用がないと行かない。
それでも用を作って会いに来てくれる人たちのおかげで成り立つから
私たちは八百屋みたいな宿でありたい。


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