【水江未来の旅 #01】アニメーションにおけるノンナラティブな表現とは?
アニメーションにおけるノンナラティブな表現とは?
迫田
水江さんは、僕が一方的に昔から観測させてもらっているアニメーション作家で、とても光り輝いて目立っている方でして、どこかでお話してみたいと思っていたんですが、今日ここでそれが叶ったことに感謝しています。では、まず水江さんからいただいたプロフィールを読み上げながら、気になったところを少しずつ聞いていければと思います。
水江未来さんは、1981年に福岡県生まれのアニメーション作家で、細胞や幾何学模様をモチーフに、ノンナラティブな表現を生み出しています。見る者の目を奪う独特な抽象アニメーションで知られ、インディペンデントアニメーションやMVなどを幅広く手がけられてます。そしてここで、早速、僕の解釈的に結構気になったことがありまして、水江さんの作品を見る中で、細胞や幾何学模様がモチーフになっていることは理解できますが、このノンナラティヴな表現という言葉が頻繁に使われてますが、このノンナラティブという言葉の解釈を水江さんにお聞きしたいと思っていました。
というのも、僕も映像プロデュースするにあたって、リニアとナラティブという言葉を最近使うことが多く、製作者側が一つの答えを提示して、展開も含めた答えを提示して、お客さんに見てもらうリニア型と、選択肢を用意して、見る側がその選択肢に対して自分が選んで一緒に物語を紡いでいくナラティブという大まかな解釈で捉えているのですが、このナラティブというのは、ゲームではよく語られているように、選択肢があるゲームなどで様々なマルチエンディングがあるという形で使われることも多いです。ここで使われているナラティブやノンナラティブという言葉は、アニメーションの界隈や映画祭のカテゴリーの界隈では、別の使われ方をされていると思うのですが、水江さんの見解や解釈を含めて、このあたりをお聞きしたいと思っています。
水江未来
そうですね。「ノンナラティブ」という言葉は聞きなれない言葉だと思うんですよね。僕の作品はアニメーションを制作している中で、抽象アニメーション(アブストラクトアニメーション)、実験アニメーション(エクスペリメンタルアニメーション)など、などと呼ばれることがあります。実際にエクスペリメンタルな作品やアブストラクトな作品はたくさんありますが、映画祭に行った時に「ノンナラティヴ部門」というカテゴリーがあり、私の作品もそこで上映されてまして、そこで初めて「ノンナラティブ」という言葉に触れましたね。日本語に直訳すると「非物語」という意味だとおもいまして、上映されている作品を見ると、ノンナラティブと言っても、実験的なものやグラフィックの展開をしたもの、物語性を感じるものなど、いろいろな作品がありました。物語が全くないわけではなく、物語を主軸に置いていないだけであるという解釈をしています。
物語とは、人物が出てきてドラマが展開するものだと思いますが、必ずしもそうではない物語の感じ方は様々ありますよね。ノンナラティブにはそれらが含まれていると思います。違う角度での物語作品とも言えるのかなと思います。説明したことで、より複雑になった感じはありますが(笑)
迫田
はい、あのでもやっぱり水江さんの解釈を一旦言葉にしていただいたのが結構良かった、面白かったなと思ってて。それで、その中でちょっと気づいたのは、水江さんは映画祭に自身の作品を出展出品されて、映画祭側がカテゴライズしたものがノンナラティブというところのカテゴリーで、それを見て水江さんは「あ、僕の作品はノンナラティブっていうジャンルなんだ」っていうのに気づかれたっていうことですよね。
水江未来
そう、そうですね。確かそうだったと思います。応募するまではあまり自覚してなかったかもしれないですね。
迫田
なんかこうカテゴリーとか部門とかそういったある線を引く行為は、ある種のその世の中に規定された価値観を表出させて、それに当てはめる行為の一つでもあるじゃないですか。っていう中で、なんかこう自身が発したものがどうカテゴライズされるのか、っていうのを自分でカテゴライズするよりも、何かしらの権威だったり、何かしらの視点がそうやってカテゴライズしたものがあって、それkらナラティブやノンナラティブっていう観点を知っていったということが水江さんにあったんだということが結構新鮮でした。なんか最初からもうノンナラティブジャンルでやっていきます!っていうアカデミカルな考えでやられてたような雰囲気があったので。
水江未来
はい、そうですね。だから、自分が最初にアニメーションやり出したときもなんか微生物がウニャウニャ動くようなアニメーションを作ってたんですが、自分ではこれが実験的な作品だとか、抽象的な作品だとは思ってなかったんですね。ただ、これ面白い、これ動いて面白いから作ってたってだけだったので、だから出来上がった作品、最初に作った作品が「抽象アニメーションだね」っていうふうに言われた時に、「何それ?」みたいな感じがあったんですよ。
なので後から自分が作ってるのって、過去には実験系の作家がいて作れられていたんだって、後からどんどん知ってたって感じですね。作っていく中で、だんだんこういう作品になってたんじゃなくて、最初からこういう作風でやってたっていうのがあるので。全然自分ではどういう立ち位置だとか全然わかってないっていう感じでした。
迫田
なんかそうですよね。世の中でこういうジャンルが表出してるから、そこに自分を合わせに行こうっていうことではなくて、もう全然それを意識せずに自分が作りたくて気持ち良いものを作ってて。それがまあ後付けでノンナラティブという形で表現なんだよ、抽象なんだよ、エクスペリメンタルなんだよ、っていうのを言われたっていうところなんですね。
それで面白いなと思ったのが、あの、僕、水江さんの作品見させてもらう中でこの表現こそ、そのカテゴリーで言うところの抽象的とか、その実験的って言われるのかもしれないけど、なんかめちゃくちゃ物語してるなあって思うわけなんですよ。で、プラス何ていうかな?僕の解釈でちょっと恐縮なんですけど、なんか宮崎駿さんがやりたかったこととか、こういうことなんじゃないかなとか思ったりしたわけなんですよ。
水江未来
あの、ちょっと恐れ多いことが(笑)
迫田
あの、一つの目線なんですけど(笑)。というのもなんて言うのかな、物語ってもちろん、現代人はやっぱりテーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼみたいなフォーマット化された物語が親しみやすいんだと思うんですけど、なんか物語って僕は結構多面的であり、他視点的であり、マルチバースだなとか思うわけですし、見る人によって物語をどこに感じるかっていうのは多面的であるなと思うんですよね。
それで、なんていうかプリミティブなところで、転んだら痛いとか、硬い場所に転んだら痛いとか、やわらかいもの触ったら心地いいとか、そんな感じがやっぱりアニメーションで描くっていうのを宮崎さんはやられてたのかなとか思ってるんですよ。柔らかいものをすごく柔らかく表現する、硬いもので転ぶと怪我をする、高い場所から落ちると怪我をするみたいなこと。それでで、やっぱ水江さんのアニメーション見てると、そのものすごく柔らかそうに見えたりとか、ものすごく硬そうに見えたりとかするなというのはすごく感じていて。なんかそのあたりがとっても僕は勝手に物語を感じたんですよね。なので水江さんは物語好きな方なのかなと勝手に思ってはおりました、という感じなんですけどそのあたりはどうでしょうか?
ジュラシックパーク、ターミネーターからのリュミエール兄弟
水江未来
物語はそうですね、大好きですね。映画見るのも大好きなので、あの、そうですね、もともと僕すごくSFの映画だったりとか、ファンタジー映画とか、そういうのがすごく好きで見ていて、アニメーション自体はそんなに見てはいなかったんです。SF映画とか好きで見てましたね。例えば『ジュラシックパーク』とかも映画館で見ましたし、『ターミネーター2』とかも映画館でなんか小学校低学年ぐらいのころなんですよね。自分の意思で見に行ってるんじゃなくて、父親が連れてってくれてたんですよ。
『ターミネーター2』なんかはもう衝撃で。あのいつまでもしつこくT-1000が追いかけてくるのとか、のけぞるような思いで見ていて。『ジュラシックパーク』のティラノサウルスがジープを追いかけてくるところとかは、もうのけぞる感じになるんですよね。だから、それって後から自分が映画を勉強したりとかするようになって、映画のフィルムを発明したルミエール兄弟が、列車が汽車が駅に到着するってあれを見た当時の観客たちが列車がこっちにぶつかってくるってビックリして、なんか逃げ出したみたいな、なんかあの話があるじゃないですか?あれは自分も経験してんじゃん!『ジュラシックパーク』を映画館で見た時もう仰け反ったから(笑)。
だからこの映画っていうのは常にこう映像のなんて言うのかな?驚きを提供してくれるものっていうか。それって物語だけではないってことですよね、映画って。その瞬間、瞬間のシーンが忘れられない体験になるっていうのがあって。なので、なんか僕は結構もしかしたら物語も好きなんですけど、映画の中にあるそういう忘れられない(?)体験みたいなものをちりばめられてる。そういったものをすごく好きで、なんか自分の作品にそういうものを入れ込めたらっていうのがあって。なんかこういうスタイルで作ってるのかなっていうのはありますね。
迫田
あー、その小学校低学年の時に連れていってもらった映画館での忘れられない体験や瞬間、それが原体験として水江さんに刻み込まれていると思うんですが、今も作るものにこの瞬間や刹那からもらった要素があったりするんですか?
水江未来
あ、そうですね。なんか自分が作ってるもののアイディアの大本になってるものってなんだろうって思い返してみると、大体幼少期から小学生、中学生くらいの間、まあ、ティーンエイジャーの頃に見てきたものでなんかだいたい決まっちゃってるような感じがあるなぁっていうか。そのあと大学に入って見たものとかは、やっぱりちょっと後追い感がありますね。
迫田
今お聞きしてた『ジュラシックパーク』や『ターミネーター』は実写じゃないですか?やっぱ見るのは圧倒的に実写が多かったですか? 水江未来
えっと実写は結構見てましたね。もちろん『ドラえもん』も見に行ってましたし、『ゴジラ』も見に行ってました。『ゴジラ』は実写ですけど。映画はよく連れてってもらってましたね。『となりのトトロ』も映画館で小学校一年生ぐらいの時に見ました。
迫田
ああ、早いな、そっか。映画館で見られたんですね、『となりのトトロ』。
水江未来
『となりのトトロ』を映画館で見て、トトロが終わったあと、『火垂るの墓』が流れて、トラウマになるあの事件を食らってるやつですね、幼少期に。その世代ですね。
迫田
えー、すごい。その体験、めっちゃ聴きたい。あの僕は普通に金曜ロードショーとかで初めて見た派なので、その映画館体験ってどうなったのかっていうのちょっと聞いてみたいんですけど。
水江未来
うん。 交互に上映しますからね、当時はね。
迫田
でもなんかそれで言うと、やっぱその原体験としてあった映画館での体験が今に繋がっているというのはありつつも、やっぱりアニメばっかり見てるとかでは全然なくて、ある程度物語性がある、実写・アニメ含めて、ただ、その瞬間インパクトがあったり驚きがあるような作品が多いのかなあなんて、『ジュラシックパーク』や『ターミネーター』を見てたとお聞きすると思ったりはしました。その時に自分もこういう作ってる人たち側で、生きていくぞ、みたいななんとなく思い始めたような瞬間だったんですか?
水江未来
どうですかね。まあ子供の時は、画家になりたいなとか、デザイナーになりたいなとか、そういうのを思ってましたけど、映画監督はどうかなぁ。でも、小学生の時に庭でビニールプールを出して弟だったりとか、友達とかがこう遊びに来てプール遊びをしてるんですけど、そこでまあ怪獣ごっこみたいなのが始まるわけですね。ウルトラマンと怪獣の戦いで、でもう片方がウルトラマンになって戦うみたいな。で、ビニールプールがあるから、だいたいコンビナートをイメージするんです、コンビナートでの戦いみたいな。で、海辺から怪獣がザバッて出てきてみたいな。その場で僕は監督みたいなことやるんですよ。こっから出てきて、こう戦って一回ウルトラマンピンチになって。まあ別にカメラ回してないんですけど、なんかそういう演出をやったりとかしていたので、そういったやっぱ映像を作ったりするってことはなんかこう興味あったんだと思うんですよね。
迫田
自然とその友達が役者になって、ゴジラになって、それで水江さんが演出、監督側に回ってたってことですもんね。めっちゃ面白い原体験ですね。それって小学校の低学年とかですか?
水江未来
小学校の、何歳ぐらいかな?でもまあ4、5年生ぐらいかもしれないですね、その頃は。
迫田
だからやっぱ時系列的には映画館に連れて行ってもらっていて、さまざまな見たものの興奮をそのビニールプールとコンビナートで再現しようとされていたってことですよね?
水江未来
そうですね。同じぐらいの時期だったと思いますね。その頃は『ゴジラ』の平成シリーズがやっていた頃だったので、えっとその『ゴジラvsキングギドラ』とか『ゴジラvsモスラ』とかなんかああいうのがやってた頃ですね。なので、毎年お正月になると『ゴジラ』を見に行くというで時代だったので、『ゴジラ』を見に行くと隣の映画館では「寅さん」がやっててとか、そういう感じでしたね。いつも『ゴジラ』見に行くと、「寅さん」のポスターが貼ってあるなみたいななんかそういう時代でしたね。だから『ゴジラ』を見ながらそういうハリウッドの『ジュラシックパーク』とか『ターミネーター』とか、そういったCGの表現が入ってきて、どんどん演出がすごいダイナミックになって、こうリアリティのあるものになっていってる狭間の時ですね。
迫田
今のお話はこの昭和から平成初期の風景が描かれる、瑞々しい話ですね、本当に。まあ、でもその原体験があったからこそ、やっぱこのものづくりに今もこう関わり続けられてるっていうところが見えてきたので、面白い前半のお話をお聞きできたかなと思ってまして。
ここでちょっと後半に向かっていく上で一曲曲をこう挟んでければと思うんですけども。小学校時代を過ごされ、中学高校ともやっぱりこう映画館に通う日々みたいなことだったと思うんですけど、ご紹介いただく曲はその当時に見られてすごく印象的に残った作品だったり曲だったりするのかなと思うんですけども、何の曲をご紹介いただけますでしょうか?
水江未来
はい。ええと『スターウォーズ/ジェダイの帰還』まあ、当時は「ジェダイの復讐」でしたけれども、「Ewok Celebration and Finale」という曲を、聞いて頂こうと思います。
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